21.蒸気噴出
重たい石の両扉を押して開く。
そこには地獄が広がっていた。
燃え盛る炎が人々の前に壁となって立ち塞がっている。
あちこちから悲痛な叫びが聞こえた。
「非常口が開かないらしい!」
「救助は……まだですか?」
「何かっ探せ! みんな死んじまうぞ」
「誰か……」
助けを呼ぶ声が瓦礫の落ちる音によって掻き消される。
──2層のダンジョンだ。
そこは、まだ稼働していた頃の工場だと気づく。
火のついたベルトコンベアが外れて通路を薙ぎ払う。
1人、逃げる人々と逆方向に進む人物がいた。作業着を着ている。ベルトコンベアの上を飛んで躱し、炎の発生源へと向かっている。
「扉を……壊さないと」
その声と同時に瞼が上がる。
「なっ……」
言葉を失った。
てっきり俺は1層と同じように工場長がボスだと予想していたが……
「これは、悪趣味だな」
二足歩行の錆びたロボットの真ん中に人がいる。十字架にかけられたような体勢でロボットの胸元に張り付いている。焼けた足は黒く、黒い鉄の胸元と同化してどこからが足なのか判別ができない。
真ん中の人物が僅かに頭を上げる。
「コワ……サ、ないト」
肩の辺りから蒸気を噴き上げ、ロボットが前進してくる。肌に焼き付いた服のシルエットがあの作業着と同じだった。
『永劫の稼働、スチーム・ギア』
HPバーが画面上に伸びていく。
機械部品をつぎはぎして作られたロボットはドラム缶の腕を大きく振り上げた。
「いきましょう!」
バニィが大弓を取り出しながらロボットから距離をとる。
ああ、と俺は答えて鉄の拳を避けた。
続けざまに反対の拳も来る。
「チッ……」
舌打ちが出た。
すんでのところで攻撃は躱したが、項垂れた人の顔を間近で見たのだ。
おそらく炎の発生源へと近づいていた人物と同じだろう。
「これさー、このまま暴れさせ続けたら、どうなんだ?」
弓を構えるバニィに声をかけた。
つまり俺たちに構わず望み通り扉を壊しに行けばいいのではないかという発想だ。
「HPを半分削ったら分かりますけど、無意味です」
バニィが矢を放つ。槍のような矢がボスの胸元の従業員を貫く。
容赦無いな、と頬が引き攣った。
「削るか……」
気が重い。
それでも……超大剣を抜いてロボットに近づく。
ロボットの頭部が赤く光った。
──来るっ!
僅かに腰を引いて攻撃に備えた。
ロボットの両目から赤い光が発射される。レーザーポインターみたいなその光が通った場所から一気に炎が噴き出した。
「はあ?」
呆れた。
──これじゃあ誰も助からない。
炎が広がるだけだ。
歯を食いしばり俺は超大剣をボスの足に振り下ろす。
鉄板のくるぶしに当たった刃からキンッと火花が散って……
「12ダメ? は?」
ボスは足で俺を蹴り上げようとする。体を逸らしボスの足裏を見送ってから動く。
先ほどの攻撃でHPバーはほとんど動かなかった。
「五式・流星」
バニィのスキルが人型の部分に炸裂する。
一気に300近いダメージが出ていた。
ボスの真ん中にある人型の所しかまともにダメージが出ない感じだろう。
「なるほどなぁ」
白煙吹き出す超大剣を見る。
攻略記事に2層のボスに対しておすすめの武器として記載されていた。
『武器スキル:蒸気噴出』
スキルを発動させる。
超大剣から蒸気が噴き出す。剣の示す方向に対して素早く前進するスキルだ。
それが例え空中に向けていても……
「ははっ!」
俺は超大剣に引っ張られるがままロボットの頭上まで飛んでいく。鉄の塊が俺をゆっくりと見上げた。
そのまま剣を床に向けて振り下ろす。
刃先が人型の頭部に直撃する。
ダメージは150ほど、人型の部分に防御力はほぼ無いらしい。
「結構削れたな」
床を蹴ってロボットの攻撃を躱す。
再び頭部が赤く光る。
「五式・流星」
青い光と共にロボットが大きく傾き、放たれた赤い光が壁と天井を照らす。火柱が上がると共にボス部屋全体が揺れた。
「あっ」
ボスは肩から蒸気を吐き出し、バニィに突っ込んだ。
「わー、こわっ!」
うさ耳のカチューシャを手で抑えながらバニィが蒸気の中から駆け出してきた。その後ろをボスが追いかける。
俺はバニィの元へと走り込み、ボスの拳を超大剣の側面で受けた。
「ぐっ」
靴底を削りながら衝撃を殺す。灰色のアイコンを見た。
蒸気噴出はまだ使えない。次は40秒後だ。その間バニィのダメージに頼るしかない。
「攻撃は頼んだぞ」
超大剣を盾代わりに構えながら後ろを見る。
「嫌ですよ」
「は?」
バニィが俺に弓を向けていた。
その目は真っ直ぐ俺を狙っている。
「零式・戦場」
鈍い緑色の光が矢に宿る。
咄嗟に体を引くも、矢が俺の腹を穿った。
「なっ、避けようとしないでくださいよ」
バニィは口を尖らせて言う。
跳ね上がった心拍数のせいでドッと全身に疲れが襲った。
「俺に何をした……」
ふいに大きな影が揺らぐ。
ボスが握った両手の拳を俺たちに向けて振り下ろそうとしていた。
咄嗟に俺はその場から飛ぶ。
さっきまでいた場所には深く沈んだ鉄の背中がいる。
「イテテ」
バニィが巨体のすぐそばから這い出てくる。頭から額にかけて血が垂れていた。
「大丈夫かよ!?」
バニィは壁に背中を預けながら、回復薬を取り出す。
「……零式はその時に出来る技術の限界を引き出すスキルです。効果時間が短い皮肉付きですけど」
ボスの頭部が赤く光った。
バニィは壁にもたれかかったままだ。
スキルのアイコンに再び色が戻る。
「蒸気噴出」
超大剣は白い煙を上げながらボスの足元を潜り抜けた。
零式の効果が画面の左上に表示されていた。
──スキル再使用までの時間短縮かよ。
分かりづらい、と小さく笑う。
バニィの目の前で一度着地してから、ボスの頭部目掛けて超大剣を振り上げた。
「ドンドンいくぞ」
ボスは顎を撃ち抜かれ、赤い光で天井を照らす。
頭上から炎が噴き出して瓦礫が降ってきた。
ボスのHPがもうすぐ半分に届く。




