20.廃工場
2層の攻略補給地を歩いていた時だった。
「浪井さんっ、バニィさん。いつもお2人の配信見てます」
背後から若い男性の声がした。
俺より少し若いくらいだから大学生くらいだろうか。
「ありがとー」
バニィは慣れた調子でにこやかに対応していた。
ファンボーイはバニィと握手をして嬉しそうにしていた。
花のある格好はこういう時、強い。
「わざわざ声かけてくれてありがとう。嬉しいよ」
俺はぎこちなく笑いながら言う。
若干、出遅れた感じは否めない。
「はい! ありがとうございます! あの、白き双剣の狩人と戦ってるところから見て……その頃からほんと面白くて、最近モチベ無かったんですけど」
「あー、あの時か、結構前だな」
「はい。はい……」
ふいにファンボーイの声が崩れた。俯いて、目元を腕で拭い、固まる。
おそらく機材を外したのだろう。
「ずみま……ぜん」
震えた声が聞こえる。少し声が遠い。
「おいおい」
俺は呆れながら彼の肩を抱いて「泣くなよ」と横に揺さぶった。大の男が泣くところを久々に見た。
別に俺はアイドルとかじゃないけどな、と苦笑いを浮かべる。
「ありがとうございました」
そのファンボーイは俺たちが2層のダンジョンに入るまで見送りをしていた。
「そういえば、よっと!」
超大剣が腕から機械を生やした人型のモンスターを両断する。ドロップ品が落ちた。11レベルまで後3分の1程度だ。
「ここって何を作ってたんだ?」
前々から少し気になっていたのだ。
廃工場、というからには何かの工場だったのだろう。
出てくる敵モブも機械系か作業員を模したようなモンスターたちが多い。
「魔道具の工場だったらしいですよ」
大弓を片付けながらバニィが顔を上げる。
「失われたオーパーツ的な?」
「いえ、普通に街でも流通してるものです。昔はここの工場が魔道具を独占してたってどこかのフレーバーテキストにあったはずですよ」
「へー」
俺は今拾ったばかりのドロップ品のフレーバーテキストを見てみる。
『世界の為じゃない。工場がここにある限り、我々の村は安泰なのだから、守り続けるのだ』
──村、そんなものが近くにあったか?
まあいいかとバッグを閉じた。ダンジョンだけを目指して進んだので森のエリア周辺の探索はしていない。多分、どこかにあったのだろう。
「なんだこれ……」
2層の終盤に差し掛かった頃、周囲の様子がガラリと変わった。
端的に表現すると黒い。
今までは炎が揺らいでいたり、明かりがついていたが、ここは薄暗く、そして……
「これ、焼けてんのかよ」
壁は炭化していて、触れるとボロボロとカケラが落ちていった。指が黒く汚れた。
高温によって通路が歪んでいる。壁も少し歪な形になっていた。
「すごいですよねー、僕も初めて見た時驚きましたもん」
ああ、と答えた時だった。
ゴーンと何かがぶつかった音が工場内に反響して聞こえてきた。鉄か何かの金属製のものがぶつかった音だ。
「不気味だな」
1層の地下牢を思い出させるような作りだった。
「……キツくね」
これで5本目の回復薬を開けながら呟いた。
敵モブはあまり変わっていないが数が多い。
それに──
「また、黒いのがくるぞ」
一部黒くなった敵モブが混じるようになった。
今度は布に包まれた芋虫のような敵モブが黒くなっている。横に飛び出した足みたいな千切れたコードからは銅線が噴き出すように伸びていた。
この芋虫は中盤から出てきたモンスターだが黒くなると少し強い。
「五式・流星」
バニィは惜しみなくスキルを使っていく。
5匹全てにダメージを与え、怯ませる。
その隙に俺は黒い芋虫に駆け寄り超大剣を振り下ろす。
「これで、半分くらいかよっ」
初撃必殺の効果も乗せているのに黒い芋虫はまだ元気そうだ。
口から糸を吐くように銅線が伸びてくる。
「っつ!」
1本の銅線が腹を掠めた。
攻撃の出が早く、範囲も前方に広いため避けづらい。
「いてーなあ!」
超大剣でその顔に横一文字の傷をつけてやった。
「あー、沁みるー……」
なんとか全てのモブを倒して、俺は薬屋で買った自動回復するポーションで歩きながら回復を待っていた。
〈『150マネー』ナイスファイト!〉
「ありがとー!」
俺は軽く手を振って貰ったマネーに感謝する。
「もうそろそろだと思うんですけど」
先を進むバニィがキョロキョロと辺りを見回していた。
「あっ、あった。浪井さん、こっちです!」
バニィが曲がり角の先に消える。
「おお!」
行き止まりの部屋の奥に黒ずんだ箱があった。
この形──
「開けちゃってください、宝箱!」
「おっしゃあっ! 任せろ」
俺は手を擦りながら舌舐めずりをして宝箱に手をかける。
「これは?」
宝箱から出てきたのは『廃工場の魔道具部品』が4個だった。
2個をバニィに渡す。
「まー、ハズレですかね。でもプレイヤーには人気なんですぐに売れると思いますよ」
「ちくしょう」
どうせなら前回の金の指輪のような現地人に売ってすぐに金に変えられるものが良かったが……
その後、再び俺たちは焼けた通路を歩いた。
「着きましたー!」
バニィが石造りの祭壇の前で手を広げていた。
その背後には攻略補給地にあるような門がある。
「もしかして?」
祭壇に触れる。
ボスまでのワープポイントが解放された。
「よっしゃあああ!」
俺は深くガッツポーズする。
正直、入るたびに何度も序盤から歩き直すはめんどくさかったのだ。
「僕が初めて2層を攻略する頃には無かったですけど、相当不評だったらしく最近追加されたんですよ」
「そりゃそうだ」
グーッと背を逸らして伸びをする。
「一旦、街に帰ろう。回復薬を買い直す」
「はーい」
バニィがワープを使い消える。
俺はバッグの中にしまった超大剣を見つめた。
「超大剣を新調しようと思う」
街に戻った俺はバニィにそう切り出した。
「えー、良いですね。どれにします?」
バニィの黒く高い耳が傾く。
人通りの多い街中でバニー姿の人と話す姿は相当変だ。
──逆にバニィが気にしてないのが凄いよな。
多分、ゲームだと割り切っているのだろう。
「なっなんですか?」
バニィは胸元を手で隠した。
誰も気にしていないものを……と目を逸らす。そこは気になるらしい。
「いや、悪い。なんでもない」
さて、とメニューからプレイヤーたちが出品しているマーケットを覗く。
超大剣の出品一覧を押した。以前と違い10レベル以上の購入制限が付いている超大剣を買えるようになっていた。
「属性付きのものが買えるのか」
よく見るとおそらく2層の素材を使ったメカメカしいものが多い。いかにも変形しそうな歯車付きの超大剣など、男心がくすぐられるものもあった。
「風、いや。土の属性付きが良いか?」
おそらく敵にも弱点属性みたいなものがあるのだろう。
「えーと、武器ごとに違うので何とも。なんなら調べた方がいいかもしれませんよ」
「敵に効きやすい属性があるとかじゃないのか?」
バニィは横に首を振った。
「スキルが1つ増える感じなんです。土属性なら大体攻撃か防御系のスキルなんですけど」
土は本当に色々あるので、とバニィは渋い顔をした。
多分、ドラ○エのいかづちの杖みたいなことだろう。
「うむむむ……」
この際、金に糸目はつけないつもりだ。2層の終盤では火力不足が目立っていたし、お金にもある程度余裕があった。
しばらく超大剣の一覧を見ながら「うーん、うーん」と唸り続けた。配信的には良くないのだろうけど、こればかりは仕方ない。
「……水とか炎とかの有名どころの属性はあんまりないんだな」
「そこら辺は15レベル以上になりますねー、主に3層の素材ですよ」
「そうか」
なら、また新調することになりそうだ。
結局、俺は20分ほど色々と調べながら『白煙吹き出す超大剣』を購入した。
名前通り、超大剣の刃を這うように伸びる鉄の筒から煙が噴き出す謎技術付きだ。
「よしっ」
超大剣を横に薙ぐと煙が僅かに残ってから消えていく。
「「カッコいいー!」」
バニィと声がハモる。
意外とこういうのも分かるらしい。
「じゃあ行くか、ボス」
俺たちはマップを開いてボス前の扉へとワープした。




