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日給10万の闇バイトに応募したら異世界のダンジョン攻略配信者として閉じ込められた  作者: 夏草枯々


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14.薬草包み

 システムが自動でランドスのドロップ品を回収した。

 思わず舌打ちが出る。


 〈クエスト完了、来たー!!〉


 ふいに流れてきたコメントにイラついた。

 分かっているつもりだった。所詮これはゲームだしコメントはあくまで見ている側の発言でしかない。

 それでも初めて設定からコメントを見えないようにする。


「大丈夫ですか?」


「ん? ああ……」


 俺は店主の遺体を背負い街の教会まで運んだ。

 道中メリーブは常に父である店主の服を握ったまま周囲の警戒をしていた。


「魔物によって……」


 メリーブの話を聞いた神父は深く頷き、彼女の肩に手を置いた。


「お店のために敬虔に働いたあなたのお父様はきっと天国で幸せに暮らせるでしょう」


「……ありがとうございます」


 メリーブは深々と頭を下げた。青い三角巾を外し緑色の髪の毛が揺れる。

 教会内に重たい沈黙が落ちる。


「ここからはどうするんだ?」


 俺の声に神父は、


「祈りを捧げた後、共同墓地の方に埋葬させていただきます」


 と淡々と答えた。

 ここから教会は棺などの準備をするらしい。

 あらかたその後の説明を聞いて俺はメリーブを置いて先に教会の外に出た。


「雨か」


 街には雨が降っていた。

 ザーッと石畳を打つ雨音が響く。

 彩度の下がった世界は少し現実に近づいたように見えた。

 バッグを開くと、ふと知らないアイテムが目に入った。


「薬草包み?」


 突然、教会の扉が勢いよく開いた。

 扉から飛び出してきたメリーブがそのまま雨降る街に向けて駆け出していった。

 あっという間に緑色の髪はずぶ濡れになり黒っぽくなる。


「はあ!?」


 俺も彼女の後を追って雨の中に飛び込んだ。

 視界は悪い。道路に当たった雨粒が跳ねて霧のようになっている。


「どうしたんだよ!」


 俺の叫ぶ声は雨音に消えていった。


「待てよ!」


 街を走って、走って──


「おい……」


 俺は1つの影を見つけて走る速度を落とした。

 メリーブが道の端にうずくまっていた。

 分厚い服は黒茶色になって丸めた背中に張り付いている。

 重たそうに見えた。彼女の髪に雨粒が跳ねた。

 彼女が泣いているのか、悩んでいるのか、教会で何があったのか、なにも分からない……


「クソ」


 俺は道の方に行き、けつをつけた。

 道は固く、冷たい。


「はぁ……」


 ため息をついて背中を倒す。

 大の字で道に寝そべった。

 額に雨粒が当たって弾ける。それが目に入り反射的に瞑る。

 なにも分からないけれど、彼女をこのままここに置いていけないと思った。

 待つしか無い。

 しばらく雨音を聞いていた。


「あー……俺にもさぁ、親がいて、父方の爺ちゃんだけど最近死んじまって葬式も行ったよ」


 何気なく俺は葬式のことを思い出した。


「俺、この世界だと死なないけどさー、君と全然違うところばっかりだけど」


 メリーブからの返事はない。

 それで良い。所詮、独り言だ。


「うん。まぁ分かることもちょっとだけあるよ」


 けつに貼り付く下着の感覚が気持ち悪い。

 髪1つ1つから滴っていく雫の軌跡を感じる。


「こんな日に雨に打たれるのは寒くて辛いこと、身内が死んだら苦しいこと………そのくらい……だけど」


 寒さに顎が震え出した。

 カチカチと歯と歯がぶつかって音を出す。


「……くっそ、さみぃ」


 目を閉じた。


 それからどのくらい経っただろうか。

 耳元でピチャと水の落ちる音がした。


「そんなところで寝てたら轢かれますよ。何してるんですか」


 目を開く。

 メリーブが顔の真上から覗き込むようにして俺を見下ろしていた。

 彼女の髪から滴り落ちた雫が俺の頬に当たる。


「俺も轢かれたら吹っ飛ぶし痛いんだよ」


 立ち上がる。


「家に帰ったら部屋にお父さんの物があって今朝食べた2人分のお皿があって、わたしだけがいる。分かります?」


 雨の中で彼女の表情は暗かった。まとった雰囲気も同様に暗い。


「ああ分かるよ。部屋がやけに広くて、がらんとしてて、それで思うんだ。もう喋ることも出来ないんだなって、そこで初めて深く知る。頭では分かっていたつもりでいたんだ。ずっと」


 その日、自室の玄関から眺めた部屋はやけに冷たかった。

 思い出し、ため息をつく。


「……そうだ、これ」


 俺はバッグから『薬草包み』を取り出す。

 フレーバーテキストには薬屋を営む店主が娘との生活のために集めた薬草の包み。それは受け取った誰かを癒す物、とある。

 両手から感じる薬草の包み、ほのかに薬草の匂いがして、雨に濡れた薬草は今芽吹いたように眩しく見えた。


「お父さんからあなたに」


 メリーブはゆっくりと頷いて薬草包みを受け取った。

 胸元で抱き締めるように薬草包みを持ち、彼女は雨音よりずっと静かに泣き出した。


「ありがとう……ございます」


 メリーブが震えた声で言う。

 俺は首を横に振って答えた。


「俺は、何も……出来なかった」


 バッグから素材の布を1つ取り出しメリーブの頭にかぶせる。

 彼女に礼をされる理由が無い。それは事実で、彼女も分かっているはずだ。

 俺は雨に打たれた。

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