12.特殊クエスト
翌日も扉を激しく叩く音で目が覚めた。早朝の出迎えだ。
「ねむっ……」
あくびをしながら車に乗る。
俺は道中の車内で2層の攻略記事を読んだ。
今最もプレイヤーがいる層が2層らしい。それは多くの人が2層で躓いているということだろう。
今日を入れてあと5日。間に合わなければ100万円の借金。
車の扉が開く。
曇り空の中、薄灰色の職場がビル群の間に聳え立っていた。
2層の適正レベルは10。ボスの適性は15レベル。
自身のステータスを見る。
レベルは現在8。
「どうするかねー」
俺はLIVEをつけた。
ぼやいていても借金までの時間が減っていくだけだ。
昨日開けた2層へのワープポイントに飛ぶ。
〈お邪魔しますー〉
「ん、いらっしゃい」
すぐに2層の攻略が始まると思っていたが、どこかの施設の中に出た。
マップを開くと2層攻略補給地と表示されている。
ショッピングモールにある吹き抜けのように1階と2階に分けて店や施設が並んでいた。
「他のプレイヤーがいる……」
色々な格好の人たちがワープポイントの前を行き交っていた。
街の冒険者ギルドとは雰囲気がまた違う。皆、装備を着込み、装飾の施された武器をそれぞれ携えていた。レベルも皆10レベを超えて、15レベル以上の人が何人もいた。
しばらく補給地の中を歩いて散策し、2層に続く扉を見つけた。
「行くか」
1人、扉を押す。
地鳴りと共にローディングが挟まった。
「おお!」
目の前には錆びたパイプと歯車、噴き出す蒸気とタービンの駆動音らしきものが聞こえてくる。
ダンジョンは1層のおどろおどろしい雰囲気とはまた違う様相を見せていた。
空間に満ちた熱気、噴き出す蒸気の湿気と鉄と油の香り。
2層のモチーフは占拠された廃工場らしいがピッタリだと思う。
〈2層?〉
「YES!」
角からあんころ餅に鉄屑を貼り付けたような見た目のモンスターが出てきた。動くたびに少し弾んでいる。
「おっ?」
その鉄屑は水色のオーラを纏い風を起こし始めた。
「雑魚モブが魔法使うかよ」
ネジが俺に向けて飛んできた。
超大剣で叩き落とす。振り下ろされた超大剣に廃工場がわずかに軋んだ。
「はっ」
床に刃先を滑らせながら駆け、鉄屑に向けて横薙ぎ一閃。
ビチッと壁に叩きつけられたモンスターは鉄屑を散らし、経験値とドロップ品に変わった。
「よしっ、まだ雑魚はワンパンだな」
それからしばらく2層の雑魚と斬り合っていた。
「くっそ……」
途中、危うく俺は死にかけた。
角に飛び込み、魔法を躱す。
一瞬の油断でHPのほとんどが無くなった。
〈キツイー〉
「超大剣が……重い」
重量の制限は無い。
だが振りが遅く回避も遅いという武器の特性をどうにかすることまではできない。四方八方から魔法が飛んでくる2層ではその僅かな遅れが命取りになりかけた。
「集団に囲まれた時がまーじでヤバい」
額の汗を拭い、立ち上がる。
「1対1になるようにしないと」
角でモンスターを釣って、出てきた奴から叩き潰す。
廃工場で俺が工場ラインの一部になった気分だ。たまに1発耐えてくるモブが混ざっているけど……
「おっ!」
しばらくそうしているとレベルが上がった。これで9レベ。
すでに1層のモブとは比べものにならないほどの経験値が得られている。
「これでスキルが取れるよな」
次のスキルは3択となっていた。
「弱点集中、溜め切り、初撃必殺……どれも大剣っぽいスキルだな」
〈ここら辺は全部強い〉
〈強スキル、3択〉
「うわっ、マジか。どれにしよう」
どれも面白そうに見える。
今回はコメントと相談しつつスキルを決めた。
「じゃあ、初撃必殺で」
抜剣後、一番初めの攻撃に1.2倍のボーナスを得る効果だ。
シンプルながら強力。
何より……
「これで、いけっ!」
先ほどまで1撃で倒せていなかった硬めのモブが1度抜剣を挟めばワンパンとなった。
「おお!」
モンスターを倒すと見たことのないアイテムが出た。
他の物よりレア度が1つ上だ。
〈レア泥!〉
「だよなぁ! 一旦、帰るか」
それ以外にも多数の素材を抱えている。
死んだら全てが無くなると考えれば悪い選択肢では無いと思う。
ワープを使い攻略補給地に帰った。
「たけぇ……」
攻略補給地で回復薬を買おうとした時だった。
回復薬1つに銀貨1枚。2層で得られた金額を考えれば安くはあるが素材を売る手数料も街より高いし色々と酷い。
「勿体ないし、街まで帰るか」
再びワープポイントから冒険者ギルドまで歩き、物を売り、得たお金を預ける。
「後は回復薬の補充だな」
あの店に行くか、と冒険者ギルドの扉を押し開く。
〈薬屋、朝から閉まってる〉
「なんで?」
本当だとしたら相当運がついてない。
店に向かうと確かに閉まっており、壁に1枚の張り紙が貼ってあった。
『今朝から店主が行方不明の為、今日はお店を閉めさせていただきます。店主をどこかで見かけた情報だけでも助かります。心当たりのある方、ご一報ください。メリーブより』
読み終えた張り紙に手を添えたまま固まった。
どうやらあの人懐っこい店員はメリーブという名前らしい。メリーブが自身の父に向けていた憂いを含んだ眼差しは確かに人のそれだった。眉間にシワが寄っていく。
〈クエスト一覧に依頼が出てるんじゃない?〉
「確かに」
俺は冒険者ギルドへの道を再び走った。
勢いよく扉を開きクエスト一覧に向かう。
特殊と色の違う文字で書かれたものがクエスト一覧の一番上にあった。
『行方不明の店主』
その文字を見るだけで体温が下がった。特に胸の奥が氷を当てられたように冷たい。
──ほんとに気を付けてね。
彼女の不安げな声が耳を打つ。はっきりと俺は覚えていた。
〈2層の攻略は?〉
〈知らないクエストだ!〉
〈特殊クエきた!〉
流れていくコメントから意識を外す。
俺は『行方不明の店主』のクエストを受けた。




