第1話
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今日は待ちに待ってもいない始業式の日。大勢の生徒が鬱屈な顔をして通学路に並んでいる。あいつ多分昨日寝てないな。無茶しやがって。
沿道には春を彩る花々がうららかな日差しを浴びて咲き誇っている。しかし、桜はもう散ってしまったようである。
「いや、お兄ちゃんそれ梅だから。」
「え、まじ。てか何で考えてることわかったの?」
「まるで散った桜のような顔してたからかな。」
いとあはれである。我が妹にしては形容にセンスがある。やるな。
「え、俺の顔そんなにピンクだった?」
「いや、そこじゃないでしょ。」
***
そんなとりとめとかけがえのない会話を続けていると広い交差点にやってきた。この交差点にはなぜか二つのドラッグストアが面している。
過疎化とか年齢別人口比によってはドラッグストアがかなり多くなる地域があるらしい。とりあえず何でも売っているので学生にはありがたいが流石に密度が高すぎる。
「そういえばのどの調子大丈夫?真由?」
「あ、この前買ってきてくれた薬でよくなったよ。ありがとね。お兄ちゃん。」
柊真由は大切な妹である。一緒に登校できるのも恐らく今年が最後。今年で守矢市立桜ヶ丘学園の三年生になる柊結人は最後の学園生活の始まりをいつも通り過ごすのであった。
「って、真由はこっちじゃないでしょ。」
「っち。ばれたか。」
さっきの交差点を左に曲がり、さらに直進してドラッグストアを2つ越えるとT字路がある。ちなみにこっちのドラッグストアのほうが品ぞろえは良い。
妹とはここでお別れだ。実は真由はとても優秀で、国が直接運営する中央守護学園に、この春から進学することになった。学費どころか給料が国から支給されるすごい学園だ。しかし、原則として招集されたものは入るのが決まりで拒否は基本出来ない。
この国では侵食体と呼ばれるモンスターみたいなものによって人々の生活と命が脅かされている。その対抗手段として、教育機関では魔法の教育がなされる。そのなかで特に優秀な資質を持つものは国直属の機関に送られるというわけだ。とても名誉なことだが、真由はあまり望んでいなかったらしい。
「一緒がよかったなあ。」
「まあ、そうだな。でもすごいことなんだからさ。親戚のおばちゃんも喜んでたよ。」
「いやそれはうれしいんだけど、やっぱ一緒がよかったの。」
嬉しいことを言ってくれる。兄妹仲は悪くないんじゃないかな。
「帰ったらまた一緒にゲームやろうぜ。約8時間後にはまた会えるさ。頑張ってな。」
「うん。わかった。」
「気を付けてね。楽しんで来いよー。」
「お兄ちゃんもね。」
正直楽しくはないけど。俺も頑張るか。
「おお、じゃあな。」
***
自分は左、真由は右に通う学園がある。自分が通う守矢市立桜ヶ丘学園には付属校があり、2歳下の真由は去年まではそこに通っていた。
学園、付属校ともに基本的には3年間の教育が施されることになっている。以前は高校、中学校とも呼んだらしい。もちろん昔の小学校に相当する機関もあり、今でもそこで初等教育が行われている。
守矢市立桜ヶ丘学園とその付属校は同じ敷地内にあり、去年までは真由と一緒に通うことができたのである。
「おい、誰だ今の美少女は、データにないぞ。」
「あ、そっか、恒一は見たことないのか。そもそも通学路違かったもんな。」
「俺はっ!データを捨てるっっ!」
実は妹の進学に合わせてちょっと通学路を変えたのだ。少し遠回りにはなるが、妹も送ることができて、こうして友人と会えるならなかなかよい選択であったように思う。
「んで、結局だれなん?さっきの子。」
「ああ、妹だよ。前に言わなかったっけ。」
「俺はっ!データを捨てるっっ!」
「いや、何のデータもってたの?」
「えへへ、秘密。」
「なんか怖いんだけど……。まあ、今の時代色々厳しいからデータの扱いには気を付けなよ?特に個人に関するものには。」
この方は高梨恒一さんという。入学式のときに何といえばよいかわからない恐ろしい出来事があり、それ以降は会ったら話す感じの仲である。
もう少しで謎にヨーロッパ風の校舎に入るというところで、隣を歩く恒一がどこか遠くを見るような顔で口を開いた。
「懐かしいな、俺とお前はここで出会ったんだっけな。」
「う、頭が……。あんまり思い出したくないんだけど。」
恒一さんはその恐ろしい出来事を思い出したいらしい。しょうがないな、俺も気合を入れて思い出すとするか。
***
あれはそう、二年前の春のことである。
お読みくださりありがとうございます。
前書き、後書きを追加いたしました。(2026年4月25日)




