十七日目・前編
階段をゆっくりとした足音が降りる
扉が開き、閉まる
鉄の音が地下牢に落ちる。
ヴェリアは顔を上げた。
歩き方はいつも通り。
表情も変わらない。
ヴェリアは黙ったまま見つめる。
男は机の前まで歩き、椅子を引く。
石の床が木に擦れる音。
腰を下ろす。
紙を机に置く。
ペンを取る。
「昨夜、考えたことはあるか。」
低い声。
ヴェリアは肩をすくめるだけ。
目は男の手元に落ちる。
「特に。」
男は微かに笑う。
紙にペン先が触れる。
小さな音。
ヴェリアは観察を続ける。
右手の指先はほとんど曲がらず、腕ごと動かしている。
動きに微かなぎこちなさがある。
男は気付かない。
「戦場で、恐怖はどう扱う。」
ヴェリアは淡々と答える。
「隠す。」
「全てか。」
「見せれば死ぬ。」
男は少し黙る。
ペンを軽く握り直す。
「では、弱さを見せない者ほど…」
「生き延びやすい。」
ヴェリアは視線を逸らさない。
「君は…観察が鋭い。」
肩をすくめるだけのヴェリア。
「誰かに心を許すことはあるか。」
問われ、ヴェリアは少し考えた。
沈黙を保つ。
「いない。」
男は頷く。
左手で紙をめくる。
動きが慎重だ。
ヴェリアは目を細めた。
注意深く観察する。
「仲間に対しても?」
「言う必要はない。」
「なるほど。」
男は微かに笑う。
沈黙。
水の滴る音が地下牢に響く。
冷たい空気がわずかに揺れる。
「君は…自分の立場をどう考える。」
「必要なら戦う。」
言葉少なにヴェリアは答える。
「戦場では、信頼は危険か。」
「感情で死ぬ者は多い。」




