十六日目・前編
扉が開いた。
重い鉄の音が地下牢に落ちる。
ヴェリアは顔を上げた。
男が入ってくる。
いつもと同じ歩き方。
同じ表情。
ヴェリアは黙って見ていた。
男は机の前まで歩くと椅子を引く。
石の床を木が擦る音。
腰を下ろす。
紙を机に置く。
ペンを取る。
「体調は。」
低い声。
ヴェリアは肩をすくめた。
「昨日と変わらん。」
男は頷く。
「そうか。」
沈黙。
ペン先が紙に触れる。
小さな音。
ヴェリアは男を見ている。
男の手元。
ペンを握る指。
ゆっくり動く。
動きが硬い。
昨日よりもはっきり分かる。
ヴェリアは何も言わない。
男が顔を上げた。
「戦場の話を続けよう。」
「好きにしろ。」
ヴェリアは壁にもたれる。
鎖が小さく鳴る。
男は紙をめくった。
左手で。
右の手は机の上に置かれている。
軽く。
力をかけないように。
ヴェリアの視線がそこに落ちる。
男は気付かない。
「兵士は。」
男が言う。
「なぜ生き残ると思う。」
ヴェリアは即答する。
「運。」
男は少し笑う。
「身も蓋もないな。」
「事実だ。」
ヴェリアは男を見た。
「技術もある。」
男が言う。
「判断もある。」
「それでも死ぬ。」
ヴェリアは淡々と言う。
「優秀な奴ほど先に死ぬ。」
男は少し黙る。
それから頷いた。
「否定できない。」
沈黙。
男はペンを動かす。
紙に文字を書く。
ヴェリアはまた手元を見る。
指の動き。
細かい動きが少ない。
ペンは握っている。
だが。
指先で動かしていない。
腕ごと動かしている。
ヴェリアは目を細めた。




