十五日目・後編
男が言う。
「兵士はよく空を見る。」
ヴェリアは眉を動かす。
「空?」
「理由は。」
「さあな。」
ヴェリアは少し考える。
「癖だろ。」
「癖。」
「上を見れば弾は来ない。」
男は少し笑った。
「なるほど。」
ペンを取る。
紙に何か書く。
ヴェリアはまた手元を見る。
指の動き。
やはり少し硬い。
ヴェリアは何も言わない。
男は書き終えるとペンを置いた。
「君は。」
男が言う。
「戦場で何を見る。」
ヴェリアは答える。
「地面。」
「理由は。」
「死体が落ちてる。」
男は少し黙る。
それから頷いた。
「確かに。」
沈黙が落ちる。
地下牢は静かだった。
男は椅子から立った。
動きはゆっくりだ。
ヴェリアはその様子を見ている。
体重の移動。
ほんのわずかに間がある。
だが不自然というほどではない。
男は椅子を机に戻した。
「今日はここまでだ。」
ヴェリアは言う。
「短いな。」
「十分だ。」
男は紙をまとめた。
左手で持つ。
右手は少し机に触れている。
一瞬だけ。
それから離れた。
男は扉へ向かう。
歩き方は変わらない。
扉を開ける。
光が少し差し込む。
男は振り返らない。
そのまま出ていく。
扉が閉まる。
鉄の音。
足音が遠ざかる。
静けさ。
ヴェリアはしばらく動かなかった。
やがて小さく息を吐く。
「……妙だな。」
鎖がわずかに鳴った。
ヴェリアは天井を見た。
さっきの動き。
手。
指。
立つ時の間。
ほんの少し。
違和感。
ヴェリアは目を閉じた。
「……気のせいか。」
静かな声だった。




