十五日目・前編
扉が開いた。
重い鉄の音が地下牢に響く。
ヴェリアは顔を上げた。
男が入ってくる。
いつもと同じ歩き方。
同じ顔。
同じ無表情。
ヴェリアは黙って見ている。
男は机の前まで歩くと椅子を引いた。
木の脚が石の床を擦る。
腰を下ろす。
紙を机に置く。
ペンを取る。
「体調は。」
男が言った。
ヴェリアは肩をすくめる。
「地下牢の生活に体調も何もないだろ。」
男は小さく頷く。
「それもそうだ。」
少し沈黙。
男は紙を見た。
ペン先が紙に触れる。
小さな音。
ヴェリアは静かに口を開いた。
「呼び出されてたな。」
男の手が止まる。
ほんの一瞬。
それだけ。
男は顔を上げない。
「そうだ。」
短い返事。
ヴェリアは口元をわずかに歪めた。
「報告か。」
男は何も言わない。
ペンを動かす。
紙に何か書く。
ヴェリアは続ける。
「ちゃんと出来たのか?」
男のペンが止まる。
ヴェリアは構わず言う。
「報告。」
鎖が小さく鳴る。
「俺の尋問。」
少し間。
「上は納得したらしいな。」
男はゆっくり顔を上げた。
ヴェリアと目が合う。
沈黙。
ヴェリアは肩をすくめた。
「続投が決まったんだろ。」
男は何も言わない。
数秒。
それから視線を紙に戻す。
ペンを持つ。
「任務は継続中だ。」
静かな声だった。
ヴェリアは小さく笑う。
「そうか。」
少し間。
「よかったな。」
男は反応しない。
ただ紙に何か書く。
ペン先が滑る。
ヴェリアはその手元を見た。
ペンを握る手。
動きはゆっくりだ。
指があまり動かない。
ヴェリアは視線を外す。
男が言う。
「戦場では。」
「判断を誤る瞬間がある。」
ヴェリアは鼻で笑った。
「毎日だ。」
「理由は。」
「色々だ。」
ヴェリアは壁にもたれた。
鎖が小さく鳴る。
「疲れ。」
「怒り。」
「恐怖。」
少し考える。
「あと油断。」
男は頷いた。
「確かに。」
少し沈黙。
男は紙に何か書く。
ヴェリアはその手元を見る。
書く動き。
やはり少し硬い。
不器用というほどではない。
だが。
どこかぎこちない。




