十四日目・後編
そして。
もう一つのことを思い出す。
男の反応。
あの時一瞬だけ。
男の顔が変わった。
軍人の顔ではなかった。
ただの人間の顔。
自然に口角を上げた。
素の表情。
ヴェリアは目を細める。
「……あれは何だ。」
男はすぐ戻った。
何事もないように。
だが。
完全ではなかった。
思い出す。
机の上。
紙。
ペン。
男の手元。
書く量が少し増えていた。
筆圧も。
わずかに強かった。
ヴェリアは小さく笑った。
「……気付いたな。」
間違いない。
あの男は気付いた。
だから書いた。
報告するために。
それは当然だ。
尋問官だから。
だが。
ヴェリアは目を閉じた。
違和感がある。
あの男。
何か隠している。
最初からそう感じていた。
普通の尋問官ではない。
怒らない。
急がない。
情報を取りに来ているようで
——そうでもない。
昨日の顔。
あれは演技ではない。
本当に驚いた顔だった。
ヴェリアはゆっくり息を吐いた。
「……変な男だ。」
地下牢に声が落ちる。
少し沈黙。
ヴェリアは天井を見た。
もし尋問官が交代すれば
この男は来なくなる。
その可能性は高い。
そうなれば。
また別の人間が来る。
拷問。
威圧。
叫び声。
ヴェリアは少しだけ眉を動かした。
「……それは嫌だな。」
正直な感想だった。
そして。
もう一つ思う。
あの男。
もし戻ってくるなら。
あの違和感。
あの素。
あれは。
——使えるかもしれない。
ヴェリアはすぐに首を振った。
「……いや。」
まだ早い。
分からない。
何も確証がない。
ただの勘だ。
ヴェリアは目を閉じた。
地下牢は静かだった。
石の匂い。
湿った空気。
遠くで水の音がする。
ヴェリアはゆっくり息を吐いた。
「……まだ分からないな。」
静かな声だった。




