十四日目・前編
静かな時間が続いていた。
ヴェリアは壁にもたれたまま、動かなかった。
地下牢は相変わらず湿っている。
空気は重く、石の匂いがする。
彼女はゆっくり目を開けた。
「……来ないな。」
小さく呟く。
鎖がわずかに鳴った。
男が来ない。
ヴェリアは天井を見た。
窓はない。光もない。
それでも彼女は日数を把握していた。
ここに来てから——十四日。
「呼ばれたか。」
自然にそう考える。
今までの尋問官もそうだった。
ある日、突然来なくなる。
その前には決まって
上の呼び出しがある。
報告。
判断。
そして——交代。
ヴェリアは小さく息を吐いた。
「……交代かもしれないな。」
そうなると面倒だ。
今の男は、まだいい。
話をする。
怒鳴らない。
無駄な威圧もない。
だが新しい尋問官は違う。
経験で知っている。
拷問になる。
爪を剥がす。
指を折る。
眠らせない。
そういう連中だ。
ヴェリアは目を閉じた。
「……面倒だ。」
静かな声だった。
鎖がわずかに鳴る。
そのまま少し考える。
そして。
昨日のことを思い出した。
戦場の話。
静けさ。
山。
補給。
ヴェリアはゆっくり息を吐いた。
「……油断した。」
短い言葉だった。
あれは完全に失言だ。
自分でも分かっている。
山側の補給ルート。
小さい情報だ。
だが。
小さいからこそ
尋問には十分だ。
ヴェリアは目を開けた。
仲間の顔が浮かぶ。
小隊の連中。
長く生き残った四人。
あいつらは今も動いている。
補給は生命線だ。
もし帝国が
あのルートを疑えば——
「……面倒なことになる。」
静かな声だった。
部下が危険になる。
それが一番嫌だった。
反乱軍全体で見れば
大きな情報ではない。
だが現場では違う。
補給が止まれば人が死ぬ。
ヴェリアはゆっくり首を振った。
「……くだらない。」
自分に言う。
感情で考えるな。
戦場で一番重要なものは何だ。
冷静さ。
昨日、そう答えたばかりだ。
ヴェリアは壁にもたれた。
少し沈黙が続く。




