29/41
十三日目・後編
「続けてくれ。」
ヴェリアは男を見る。
数秒。
沈黙。
男の目は静かだ。
何も探っているようには見えない。
だが、もう分かっていた。
気付いた。
確信が胸に落ちる。
ヴェリアは視線を外した。
石壁を見る。
「……山は嫌いだ。」
短く言う。
男は小さく頷いた。
「分かる。」
それ以上は聞かない。
会話はそこで終わった。
しばらく沈黙が続く。
やがて男が立ち上がる。
椅子が石床を擦る。
「今日はここまでだ。」
ヴェリアは男を見る。
「短いな。」
「十分だ。」
男は椅子を戻す。
扉へ向かう。
足音が地下牢に響く。
規則的な音。
扉の前で止まる。
振り返る。
ヴェリアを見る。
何も言わない。
ただ一瞬だけ視線を置いた。
そして扉を開ける。
廊下の灯りが差し込む。
男は外へ出る。
扉が閉まる。
鍵が回る。
足音が遠ざかる。
やがて消えた。
静けさ。
ヴェリアはしばらく動かなかった。
石壁を見ている。
さっきの言葉が頭の中で繰り返される。
山側を押さえられると面倒だ。
小さく息を吐く。
「……馬鹿か。」
呟く。
地下牢は静かだ。
水滴の音。
鎖がわずかに鳴る。
ヴェリアは目を閉じた。
胸の奥に重いものが落ちている。
油断した。
その言葉が、ゆっくり沈んでいった。




