十三日目・中編
ヴェリアは一瞬だけ目を細める。
今の笑い方。
ほんのわずかだが、仮面が外れたように見えた。
ただの男の笑い方。
ヴェリアの中で、何かが少し緩む。
男は気付いていないようだった。
「君の部隊は」
男が言う。
「補給は安定していたのか。」
ヴェリアは少し首を傾ける。
「急だな。」
「戦場の話だ。」
男は淡々と言う。
「長く戦うには必要だ。」
ヴェリアは少し考える。
確かにそうだ。
兵站の話は珍しくない。
「まあな。」
短く答える。
男は続ける。
「前線は補給が止まると崩れる。」
「当たり前だ。」
「帝国軍も同じだ。」
ヴェリアは男を見る。
「意外だな。」
「何が。」
「自分の弱点を話す。」
男は少し肩を動かした。
「隠しても意味がない。」
ヴェリアは小さく笑う。
「確かにな。」
沈黙が落ちる。
地下牢は静かだ。
遠くで水滴が落ちる。
ヴェリアは男を見ている。
さっきの笑い方が頭に残っていた。
少しだけ、人間らしかった。
男が言う。
「山の戦場は厄介だ。」
ヴェリアは頷いた。
「補給がな。」
男は軽く視線を上げる。
「道が限られる。」
「そうだ。」
ヴェリアは答える。
「だから山側を押さえられると面倒だ。」
言った瞬間だった。
ヴェリアの意識が止まる。
一瞬。
ほんの一瞬。
言葉が遅れて頭に戻る。
山側。
その言い方。
ヴェリアの背中を冷たい感覚が走る。
しまった。
だが顔は動かさない。
視線も変えない。
男は何も言わない。
ただ聞いている。
表情も変わらない。
沈黙。
ほんの短い時間。
男は視線を落とした。
膝の上の紙に目を向ける。
ペンが動く。
さら、と音がする。
書く量は多くない。
だが、少しだけ強い。
線がはっきりしている。
ヴェリアはそれを見ている。
鎖がわずかに鳴る。
男は何も言わない。
書き終えると、紙を少し整える。
そして顔を上げた。
表情は変わらない。




