十三日目・前編
重い音を立てて扉が開く。
廊下の灯りが細く差し込んだ。
男が入ってくる。
歩き方は変わらない。
ゆっくり、静かで、一定の歩幅。
部屋の中央まで来る。
扉が閉まる。
鍵の音。
地下牢はまた静けさに沈んだ。
男は椅子を引く。
石床を擦る音。
腰を下ろす。
ヴェリアは壁にもたれたまま、その様子を見ている。
鎖は昨日と同じ長さだ。
手首と足首を押さえ、動ける範囲は狭い。
男はしばらく何も言わない。
ヴェリアも黙っている。
地下牢の空気は湿っている。
石の匂いが強い。
遠くで水滴が落ちた。
ぽつ、と音が響く。
ヴェリアが口を開く。
「今日は遅いな。」
男は少しだけ視線を向けた。
「そうか。」
「いつもより。」
男は肩をわずかに動かす。
「仕事があった。」
「尋問は仕事じゃないのか。」
男は少し考える。
「仕事だ。」
「便利な言葉だな。」
ヴェリアは小さく笑った。
男は否定しない。
椅子に座ったまま姿勢を整える。
「昨日の話だが。」
ヴェリアは目を向けた。
「戦場の静けさか。」
「ああ。」
男は言う。
「夜の前線は妙だ。」
「何が。」
「敵が近いほど静かだ。」
ヴェリアは少し笑う。
「知ってる。」
「そうだろうな。」
男は続ける。
「音が少ない。」
「誰も撃たないからな。」
「だが全員起きている。」
ヴェリアは小さく頷いた。
鎖がわずかに鳴る。
「遠くで火が見える。」
男が言う。
ヴェリアの目が細くなる。
「村か。」
「焚き火かもしれない。」
「だいたい村だ。」
男は少しだけ口元を緩めた。
「冷たいな。」
ヴェリアは肩をすくめる。
「戦場だ。」
男は小さく息を吐いた。
「そうだな。」
その時だった。
男が短く笑った。
声は小さい。
だが、軍人の作る笑いとは少し違った。




