十二日目・後編
ヴェリアが言う。
「長いな。」
男が目を向ける。
「何が。」
「戦場の話。」
ヴェリアは肩をすくめた。
鎖が小さく鳴る。
「長く戦ってると、同じ話ばかりになる。」
男は少し考えた。
「そうかもしれない。」
ヴェリアは男を見る。
黄色の瞳が静かに向く。
「そっちは。」
「何が。」
「戦争。」
ヴェリアは言う。
「飽きないのか。」
男はすぐには答えなかった。
視線を少し落とす。
地下牢の石床を見ている。
「飽きる。」
やがて言う。
ヴェリアは眉を少し上げた。
「正直だな。」
「だがやめない。」
男は続ける。
ヴェリアは少し笑った。
「仕事だからか。」
「そうだ。」
短い答え。
ヴェリアは壁に頭を戻す。
「便利な言葉だ。」
男は否定しない。
沈黙。
水滴の音。
地下牢の空気は変わらない。
だがどこか、昨日よりも硬さが薄れている。
男が立ち上がる。
椅子が石床を擦る。
「今日はここまでだ。」
ヴェリアは目を細めた。
「また短いな。」
「十分だ。」
男は椅子を元に戻す。
扉へ向かう。
足音が地下牢に響く。
規則的な音。
扉の前で止まる。
振り返る。
ヴェリアを見る。
少しだけ考える。
「君は」
男は言う。
「話すようになった。」
ヴェリアは小さく笑った。
「地下は退屈だからな。」
男は何も言わない。
扉を開ける。
廊下の灯りが差し込む。
男は外へ出る。
扉が閉まる。
鍵の音。
足音が遠ざかる。
やがて消えた。
静けさ。
ヴェリアはしばらく動かなかった。
地下牢の天井を見上げる。
石の隙間をぼんやり眺める。
戦場の夜の話を思い出していた。
撃ち合いが止まる時間。
遠くの火。
誰も眠らない夜。
やがて小さく息を吐く。
「……退屈、か。」
呟く。
鎖がわずかに鳴った。




