六日目・前編
牢の扉が軋んで開いた。
ヴェリアは壁に背を預けたまま、ゆっくりと目を上げる。
入ってきた男は、いつもと同じ場所に椅子を置き、静かに腰を下ろした。
六日目。
彼女は数えてはいない。だが、身体が覚えている。
男は書類を広げない。
机の上も空のままだ。
ヴェリアの視線がわずかに動いた。
(今日は違う)
男は指を組む。
右手の動きが、わずかに硬い。
「質問を変える。」
低い声だった。
ヴェリアは何も言わない。
「戦争についてどう思う。」
一瞬、沈黙が落ちた。
ヴェリアは男の顔を見る。
厳つい顔。感情の薄い目。
(思想か)
尋問の段階が変わった。
普通なら、もっと後に出る質問だ。
精神を削ったあとに使うもの。
六日目で出す意味が分からない。
ヴェリアは小さく息を吐いた。
「抽象的だな。」
「そうかもしれない。」
男は淡々と返す。
「君は十五で軍に入った。」
ヴェリアの眉がわずかに動く。
「よく調べている。」
「仕事だからな。」
男はそれ以上続けない。
ただ待っている。
ヴェリアは少しだけ首を傾けた。
鎖が小さく鳴る。
「どう思う、か…。」
言葉を転がす。
それから肩を壁に預け直した。
「別に。」
男の視線が動く。
「ただの戦争だ。」
静かな声だった。
「どこにでもある
誰かが勝って、誰かが死ぬ。」
ヴェリアはそこで口を閉じる。
男は黙っている。
沈黙が続く。
ヴェリアはその視線を受け止めたまま、わずかに口角を上げた。
「虚無的か?」
男が言う。
「現実的と言ってほしい。」
ヴェリアはすぐに返した。
男の口元がわずかに動く。
「では質問を変えよう。」
男は椅子に背を預ける。
「君はなぜ戦う。」
ヴェリアは答えない。
視線を外さず、男を見る。
数秒。
男は急かさない。
それが妙だった。
普通の尋問官なら圧をかける。
沈黙を破らせる。
だが、この男は待つ。
本当に答えを聞くように。




