六日目・後編
ヴェリアは小さく息を吐いた。
「質問が下手だな。」
男の眉がわずかに動く。
「そうか?」
「軍人なら分かるだろう。」
ヴェリアは肩をすくめた。
鎖がまた鳴る。
「理由なんていくらでも作れる。」
指を一つ立てる。
「復讐」
もう一つ。
「正義」
三つ目。
「祖国」
そこで指を下ろした。
「どれが聞きたい?」
男はしばらく黙っていた。
ヴェリアは男の顔を観察する。
目。呼吸。姿勢。
ほとんど変わらない。
(興味、か)
そんな気配だけがある。
ヴェリアは少しだけ視線を外し、天井を見た。
それから言う。
「仲間だ。」
男の目がわずかに深くなる。
「部下か。」
「そうだ。」
ヴェリアは視線を戻す。
「私が死ねば困る。
…だから生きてる。」
それだけ言って口を閉じた。
男はしばらく黙っていた。
やがて頷く。
「合理的だ」
「そうか?」
「多くの軍人は、もっと大きな言葉を使う。」
祖国。栄光。
そんな響きが言外にある。
ヴェリアは鼻で笑った。
「士気の道具だ。」
男は否定しない。
むしろ、わずかに頷いた。
ヴェリアはそこで確信する。
(やはり妙だ)
尋問官の反応ではない。
男は立ち上がった。
椅子を戻す。
姿勢は崩れない。
元エリート軍人の動きだ。
扉へ向かう。
そこで一度だけ振り返る。
「君は」
少し言葉を探すように間があった。
「思っていたより現実的な軍人だ。」
ヴェリアは肩を壁に預けたまま言う。
「失望したか?」
男は首を振る。
「いや」
短く言った。
「興味深い」
扉が閉まる。
重い音が牢に残った。
足音が遠ざかる。
静けさが戻る。
ヴェリアはしばらく動かなかった。
やがて目を閉じる。
(興味深い、か)
普通の尋問官はそんなことを言わない。
彼女は小さく息を吐いた。
「…妙な男だ。」
独り言のように呟く。
鎖がわずかに揺れた。




