五日目・後編
地下牢の奥で、どこかの水滴が落ちた。
ぽたり。
ぽたり。
時間だけが進む。
彼はもう一つ質問を投げる。
「独立軍上層部の指揮系統。」
ヴェリアは視線だけを向ける。
「それを知ってどうする。」
「答えろ。」
声は低い。
しかし怒りではない。
ただ、強くなっている。
ヴェリアはそれを見ていた。
少しだけ。
興味深そうに。
「…焦っているな」
「尋問の話だ。」
「違う。貴様の話だ。」
「質問に答えろ。」
沈黙。
彼の指が、書類の端を軽く押さえた。
「そう見えるか。」
「見える。」
ヴェリアは首を傾ける。
「お前は急がない男だと思っていた。」
彼はようやく顔を上げた。
視線が合う。
その目は落ち着いている。
少なくとも、外から見れば。
「…急いではいない。」
静かに言う。
ヴェリアは一拍置いて笑った。
「そうか。」
それ以上は何も言わない。
沈黙。
しばらくして、彼は書類を閉じた。
「今日はここまでだ」
椅子が引かれ、立ち上がる。
去ろうとする彼に、ヴェリアが口を開いた。
「よく調べてきたな。」
彼は振り返らない。
「無駄ではなかった。」
そう答える。
だが成果でもない。
一定の足音が遠くなる。
ヴェリアはしばらく動かなかった。
それから、ゆっくりと立ち上がる。
鎖が鳴らないよう、重さを確かめながら足を運ぶ。
捕虜が立ち上がる理由など、本来はない。
それでも気がつけば、鉄格子の前まで来ていた。
視線の先にあるのは、男ではない。
さっきまで彼が座っていた椅子。
……隠している。
ヴェリアはそう思う。
だが、何を。
それだけが、まだ見えない。
地下牢には、また静けさだけが残った。




