五日目・前編
地下牢の空気は、今日も変わらない。
湿り気を含んだ石壁。
狭い格子窓から落ちる弱い光。
鉄の扉が閉じる音が、奥へ奥へと響いていく。
足音が止まった。
鍵が回る。
扉が開く。
彼はいつものように入ってきた。
表情は落ち着いている。
姿勢も、声も、三日前までの“帝国軍人の仮面”に戻っていた。
机を引き寄せ、椅子に腰を下ろす。
書類が開かれる。
紙の擦れる音だけが、小さく響いた。
ヴェリアは壁にもたれたまま、それを眺めている。
「……今日は静かだな。」
彼が言う。
ヴェリアは肩をすくめた。
「お前が静かだからだろう。」
短い沈黙。
彼は視線を紙から上げない。
「昨日は、少し喋り過ぎた。」
ヴェリアの眉がわずかに動く。
「自覚はあるらしい。」
「軍人として当然だ。」
淡々とした声だった。
そこにはもう、昨日のような揺れはない。
だが――
尋問は、変わっていた。
「東部の補給線。
三月の移動記録が途切れている。」
ヴェリアは答えない。
「その後、反乱軍の補給が急に回復している。」
沈黙。
「偶然とは思えない。」
ヴェリアは天井を見上げた。
「帝国軍の記録はずいぶん優秀だな。」
「優秀でなければ帝国は保たない。」
彼は書類をめくる。
紙が一枚、静かに裏返る。
「お前の部隊が動いた日と一致している。」
ヴェリアは小さく笑った。
「仮説としては悪くない。」
「否定はしないのか。」
「証拠がないだろう。」
彼は答えない。
沈黙が落ちる。




