6-6 魔人
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会場として設けられた大広間の中央には巨大な円卓が置かれ、卓布に鏡面のような光沢のある絹を用いられている。
既に魔導大国ヴァヴェンデット、工商国家カリブレア、学芸の都クラウムーサの代表が席に着いており、正面の出入口から見て最奥にここ魔導先進国ヴァイスの君主、オニキス女王が口元を黒色の扇で隠し優雅に待機されていた。
卓上を見やると国名とその代表の名前が表記されたプレートが置かれている。指定したその場所に着席しろとの意向だろう。
席へ近づくと女中が畏まりながら椅子を引く。軽く会釈をしてから腰を掛けた。それに倣いエルミラ様も隣の席に座る。胸中で安堵を漏らしそうになるが厳めしい表情を保ちつつただ頷く。まだ会議は始まってすらいないのだから脇を緩める訳にはいかない。
「ちと早いが揃った様じゃし、会議を始める」
扇を静かに畳み、オニキス女王が言葉を発する。
端正な顔立ちに長い黒髪。ドレスではなく黒を基調とし金糸の刺繍が施された振袖羽織を纏い、この世すべての男が魅了され、誰もが見惚れるであろう絶世の美女。
そう、顔だけであれば。
我々の席は柔らかで上品な緩衝材が施された背凭れのついた座り心地も申し分無い高級に違いない椅子が宛がわれている。対してオニキス女王は脚が極めて低い背凭れもない座椅子に近い造りの腰掛だ。
それもその筈、女王陛下は一般的な意匠の椅子に座ることが出来ない。
何せ、その下半身はヒトではなく、節足動物と同一で、蜘蛛の胴体をしているのだから。
この世には数々の人種が存在する。丸耳族、尖耳族、獣耳族が三大人種と称され殆どがこの何れかに属するだろう。
オニキス女王は耳の像だけを見れば尖耳族のようではあるが、そもそもヒト属に分類されない。
彼女は所謂、魔人と称される存在だ。
ヒトはヒト同士の交配により繁殖し進化した種族だ。対して魔人は魔獣が何らかの影響で異質な進化を遂げた結果誕生したヒトに近しい姿形をした存在。それを異常個体とは差別化し特殊個体と呼ぶ。
生態系に於いて自然現象の摂理から逸脱した超越種。ヒトの見た目でありながら、身体能力も内包する魔素も寿命もヒトを遥かに凌駕する。
先進的な技術と施策で繁栄したこの国は賢王ヴァイスの偉功の他に伴侶であられる魔人のオニキス女王の後ろ盾も大きいとも言われている。それだけ魔人の持つ力は強大で絶大だ。
こうしてお目通りするのは今日が初めてではない。しかし、やはり異形の存在であられる女王陛下に敬意以上に畏怖の念を抱いてしまう。差別や中傷ではなく本能的な問題。それは私だけではなく、他国の代表も同様のようである。
「お言葉ですが、中央七大国家の内まだ二か国の代表の姿がないようですが」
そんな空気の中、臆することなく意見する者が一人。私の左隣の席、魔導国家ヴァヴェンデットの代表で出席するイーサン・スムマヌス・カリドゥス宰相だった。
「帝国と連邦国は今回欠席じゃ。本来は年明けの予定を急遽早めてじゃから文句も言えんでの。ただそれでも強行せねばならん急迫した事態でな。改めて無茶な日程の調整とこの場にお集まりいただけた事に感謝いたします」
上品に頭を小さく下げ謝辞を述べるオニキス女王にイーサン宰相も「承知いたしました」とだけ告げ口を噤む。
ヴァヴェンデット嘗て世界の中心であり誰もが憧憬に焦がれる大国だった。しかしそのお株を奪い現在はヴァイスがその地位にある。ヴァヴェンデットからすれば反感を持ち面白くない話であることは間違いない。理由はそれだけではないのだが、イーサン宰相も例に漏れず友好的とは受け取れない気丈な態度を隠す気はないようだ。御二方とも私よりも年嵩であられるが得てして確執や矜持というものは簡単には拭えないものである。
「では、只今より会議を開催いたす」
やや重苦しい雰囲気を肌で感じながら、首脳会議がはじまった。




