5-14 起死回生の弾丸
魔法を使役する上で必要不可欠な魔法術式。その中に集団魔法術式と呼ばれるものがある。
単独での運用は術式の形成・展開・維持が困難であり、消費魔力の観点からも実用のため複数人で協力して発動する魔法のことを指す。
エルミラが提案したのはそれ……などではなく、至極単純で基礎的な攻撃魔法のひとつ、魔弾を協力して発動する事だった。
魔素を一点に集め射出するだけのもの。魔法の心得があれば誰もが習得し記憶しているだろう術式。ただし、魔力の出力を上げ、錬磨し、極限まで威力と性能を高めてぶちかます。集団魔法ではなく、協力魔法と云った所か。
術式の構築をエルミラに任せ、俺は彼女が展開し発動の待機状態になっている魔法陣に直接魔力を流し込む。
展開した魔法陣には魔力の許容量が定められている。カップに注げる水嵩に定量があるように、ひとつの魔法陣に注入できる魔力には限界値がある。限界以上の魔力は魔法陣に収容出来ず外へ溢れて漏れ出てしまう。そうならない様エルミラは魔弾の術式に魔法陣を追加し、より効能を増幅させる為に魔力を蓄積させる受け皿を作った。
複数の魔法陣を用いて術式を連立させる技術。俺の炎の属性を附与させた魔弾もこの手法を使っていたのだが、シグニス曰く高位魔法師の扱うテクニックらしいが、俺もエルミラもさもありなんと扱えるのでいまいち実感が湧かない。
エルミラの足元に広がる内側の魔法陣が魔弾の術式。外側の二つ目が頑強さを増幅させるものだろう。
大鬼型の異常個体から吸収した魔力がまだまだ消費しきれておらず、まだまだ余力は十二分以上にある。
「エルミラ、もうひとつ術式を追加してもいいか?」
「構わないわよ。言ってくれれば追加するわ」
「いや、俺がやる」
魔法陣に触れたまま追加の術式を構築する。効能は、回転。
エルミラの指先に集まる魔力の塊に螺旋運動が加わる。これで威力は勿論、貫通力も増加するだろう。
「これくらいでいいかしら。あまり騎士団の方々を待たせるのも酷だものね」
白兵戦を続け土留色の球体を引き付けてくれている騎士団たちはエルミラからの支援攻撃が止まり陣形が乱れる虞も危惧したが、いち早く目配せだけでウェリスがこちらの意図を察し、化物の気を惹き持ち堪えてくれている。
「ああ、ぶっ放してくれ」
「じゃあ、騎士様。少し退ってくれるかしら」
「は、はいぃ!お願いしますう!」
ジニアはそそくさと盾を構えたまま横這いで蟹のように魔弾の射線用に道を譲る。
エルミラが前方に突き出した右手の指先の魔力は大砲の玉くらいの大きさにまで増長していた。魔弾としては規格外のサイズだ。
魔法での支援攻撃を停止させてから三分にも満たない時間にしては上出来な仕上がり。しかしその間も果敢に勇戦を続けてくれている騎士団たちに報いる為にも、なんとかこの一撃で戦況を覆したい。いや、覆さなければならない。
対魔法障壁は魔法に対して完全耐性のある防御術ではない。一定以下の魔法による干渉を打ち消し無力化させるものである。対物理もまた然り。
この強化魔弾が通用しなければ更に強力な魔法を構築するか、消耗戦を続けるかとなるだろう。瘴気が満ちるこの場での長期戦をこれ以上望む事は難しい。
「いけるか、エルミラ」
「出来る限りの強化は施したわ。多少なりに期待はしてもいいと思うわ」
「じゃあ、頼んだ!」
頷くエルミラを確認し、すぐさま自身の指先から魔弾を三発化物へと打ち込む。当然それは被弾せず掻き消される。これはただの合図でしかない。
ウェリスが振り向き瞬時に状況を読み取ると、攻撃を制止し団員が一様に化物と距離を取る。
それを見届けたエルミラは練り溜めた魔力を、一気に解き放った。
射出された魔力の弾丸は凄まじい速度で音もなく一直線に化物に突き進む。
そしてそれは展開する魔法障壁に衝突すると、無効化されることなく、いとも容易く貫通し、肉厚でぶよぶよと弛緩した身体を穿ち、風穴を空けた。
「―――――!!?」
化物が絶叫を上げる。それは先程までの山羊の呻き声のようなものではなく、女性、ヒトの断末魔のようにも聞こえる甲高く悲痛なものだった。




