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5-6 異常個体

 パルウァエ森林区画内に足を踏み入れ三十分弱。

 俺達四人の配置は最後尾、詰まるところ残党処理と異変や異常への警戒の任が最たる部分を占める。

 魔狼(ウルフ)魔蟲(インセクト)小鬼(ゴブリン)の強襲があったものの、その全てを先頭を歩くルキ一人で出会い頭に切り伏せてしまった為、俺を含む他三人の出番は皆無である。今しがた縦に横に両断された小鬼達の死骸を除けつつ黙々と森の中心へ向けて進むルキを追う中で、すぐ隣でシグニスが顎を指で摘みながら思案顔で神妙そうに目を細めている。

 「どうかしたのか?」

 「小鬼は他の魔獣と比べ身体能力は劣るものの知能は高く、道具を用いたり仲間同士で連携を図り狩猟する習性があります。しかし今の襲撃はまるで見境なしの狂乱と言っていいでしょう。つまり、考えて行動をする余裕がなかった」

 「騎士達が侵攻しているからか、或いは暴動の予兆か、という事か?」

 「分かりません。ただ、非常に差し迫った何かを感じました」

 冷静な考察を話すシグニスを他所に、ルキは構わず進んでいきその差は一歩ごとに離れていく。

 遭遇した魔獣はあの小鬼数体を含めても両手の指で数えられる程度しかない。魔蟲は兎も角、他は集団で行動する事の多い種族だ。シグニスの言う通り、狂乱に至った要因があるのかもしれない。それが瘴気によるものなのか、または別の何かなのか。

 そんな事を考えているとルキがまたしても現れた魔獣を討ち取っていた。拙い言葉遣いと打って変わり、凄まじい身体能力と動体視力をしている。一切の被弾なく、扱い難そうな大太刀を器用に抜刀し、その勢いを利用し一刀に伏す。抜刀するだけでも一苦労しそうなものを涼しい顔で手足のように扱っている姿は素直に美しいと感じた。

 「気になりますか」

 彼女の得物を見ていた事に気付いたシグニスが声を掛ける。

 「凄いですよね。騎馬用くらいに長い剣を軽々と。実は私も憧れていまして、こっそり近いサイズの剣を購入して扱えるように練習してはいるのですが、恥ずかしながら武器に僕の方が振り回されっぱなしでして。実践登用はまだまだ先になりそうです」

 俺の購入したばかりのアーミングソードは柄の先端まで含めた全長が大凡九十(センチメートル)。ルキの大太刀は刃渡りだけでもそれを超えるだろう。シグニスとジニアの武装は背中に背負った丸盾と腰に提げた片手剣で聖騎士の標準的な装備な所を見ると矢張りあれが特殊なのだろう。鎧すら着てないし。

 「そ、そもそも、ルキさんは相手の攻撃を回避したり剣で受け流してから反撃するスタイルで、真似しようとしても出来ないと思いますう……。重くて疲れるけど、防具がないと死んじゃうかもですし……」

 いつのまにかシグニスとで俺を挟むように隣に現れたジニアも会話に加わり、「そうだよね」、とシグニスが頷く。

 「ルキは二人の先輩なのか?」

 「いいえ、私たち三人共に入団は同期です。ただルキさんはウェリス団長の」

 「お喋りもいいけど、任務しないとウェリス怒る」

 「ひゃ!?」

 突然目と鼻の先にルキが顔が出現し思わずたじろいでしまい、同時に間の抜けた声が漏れ出てしまう。その表情は眉を顰めて吊り上がり、怒っているというよりかは不満そうという表現が近い。

 「ですね。ルキさんばかりを働かせていては本当に叱られてしまいます。申し訳ありませんでした」

 「ごご、ごめんなさい……」

 「すまない……」

 三人で謝罪するとルキはいつもの平坦な態度に戻って「分かればいい」とまた先頭を歩きだした。なんとも不思議な娘だ。

 暴動と異常の調査で緊張感に欠けるのも確かに問題でしかない、とそこからは無言で進行を再開した。



 ◆◇◆◇◆◇◆



 

 それから暫くして、パルウァエダンジョン跡地の周辺に到着した。

 森林に立ち入ってから妙な気配を感じてはいた。しかし希薄でぼんやりとしたそれが何処から発せられているものかまでは分からず、煩慮からくる気のせいくらいに思っていた。


 そうであれば、どれだけ良かっただろう。


 「……地震?」

 最初に大地の揺れに気付いたのはルキだった。

 俺達は異様な雰囲気を察知し一様に武器に手を掛け警戒を強める。

 地響きは治まる様相なく次第に大きくなっていく。

 木々が騒めき、空気が凍ったように張り詰める感覚が身体中に突き刺さる。

 めきめきと樹木が壊裂し崩れ倒れる低く重い音と何かが這いずるような音が連続し近づいてくる。

 天蓋のように空を覆う枝葉の隙間から野鳥が怪声を上げて飛び立つ姿が微かに見えた。

 地盤がより激しく振動して震える。空気に伝わり低く唸るような不気味な鳴動が惧れ(おそれ)を煽る。

 身構えて固まっている間に眼前の地中が盛り上がり、すぐ上に自生していた大木の根本から傾いて他の木々を巻き込んで倒れた。

 土煙、そして瘴気ともつかない濃密な魔素の霧と共にそれは現れた。


 体調四メートルを超える巨体。頭と額から不揃いの角を幾本も生やし、大きな一つ目と牙が剥き出しとなった口、この森林の大木同等に太く屈強な腕と脚。鎌のような湾曲し鋭利に変形した爪と御伽噺に登場する(ドラゴン)を彷彿とされる大蛇のような尻尾を付けた化物。

 「異常、個体……!」

 禍々しく圧し潰されそうな魔力を放出しながら地中より這い出てきたそれに、この場に居合わせる全員が息も呑み込めずに佇むしかなかった。

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