5-4 コミュニケーション
キャリッジに乗り込み間もなく、御者の扶助で馬が短く低く鳴くと進行を開始した。
エルミラをティティに押し付ける形になったが、エルミラだって子供ではない。俺の意思や事情を考え酌んでくれるだろう。ティティには……うん、また今度謝ろう。お礼もまだだし。
現在向かうパルウァエ森林を死地と表現したが、俺に死ぬ気は更々ない。命の危険を感じたのならリオン支部長が言ったようにみっともなく逃げてでも生き抜いてやる。
とはいえ、暴動の予兆と異常個体の報告とただならない状況である事に変わりはない。暴動が現実となり制御を失った魔獣がフェイリックスを襲えば……と考えるとぞっとする。不本意でも現地での任務を預かったからには、精々そうならない為に力は尽くす。まったく、あの森は呪われているんじゃなかろうか。
キャリッジの同乗者は俺を除き三人。何れもフェイリックス騎士団の刻印が入った鎧や外套を着用している。その中で対面に座る人物に見覚えがあった。
亜麻色の長い髪と凛とした風貌の女性の騎士、ウェリス団長にルキと呼ばれていた人物だ。
「申し遅れました。ご助力に遣わされました冒険者組合所属のナナシです」
初めて見る面々にも向けて挨拶を試みる。ルキはただ一言、
「左様でございますか」
会話は終了した。
「瘴気浄化の際にご一緒しましたよね。宜しくお願い致します」
挫けずに対話を試みる。ぎすぎすするよりは多少は意思疎通や関係の構築がある方が指示や連携も取りやすいだろうという素人なりの配慮である。
「仰せの通りです」
……会話は終了した。
「申し訳ありません。ルキさんは外交モードになるとこの二つの言葉以外話せないんです」
俺の一方通行なやり取りを見かねた男性騎士が割って入る。どういう仕組みだそれは。
「私はシグニス。ナナシさんの対面がルキさん、その隣が……」
「ジニア、ですう……」
慇懃で明朗な男性騎士シグニスと分厚い透鏡の黒縁眼鏡を掛けやや陰気な印象を受ける女性騎士ジニアが共に頭を下げる。ルキは相変わらず無表情で窓の外を眺めている。
「ルキさん大丈夫ですよ。今回は任務ですから、普段通りにしていただいて問題ありません」
「ん、分かった」
シグニスの顔を見てこくりと頷くルキ。その口調と挙動は見た目に反し子供っぽい拙さが残る。
「ウェリスが言ってた」
許可を得て他の言葉を発せる様になったルキが俺を指差して言う。
「……何と?」
「魔女の色香に拐かされた哀れな男って」
あの野郎とは一度しっかり話さないといけないだろう。




