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4-1 昇級

 帰宅したエルミラは巫女の装束ではなく薄着に外套と頭巾の服装に戻っており、部屋へ戻るや否やそれを脱ぎ捨てて既に俺が寝転んでいたベッドに潜り込んできた。

 時刻は日付も変わり深夜未明。中央広場での演説の後、俺はすぐに解放されこっそりとエルミラの部屋へと帰ってきた。エルミラはそこから瘴気発生の経緯と顛末の調書と諸外国への通達文の作成に明け暮れていたらしい。

 彼女より先に休むつもりはなかったが、生憎この部屋に興味を引くものはなく、布団の上で物思いに耽て時間を消費していた。まさか早々に裸で隣に来るなど思ってもいなかった。本当に。

 「こんな遅くまでご苦労様。疲れているんじゃないのか?」

 「少し、ね。でもこれが療養になるわ」

 二晩連続での目合(まぐわい)。それもあの一件を終えた後。彼女も俺も大概にタフだと痛感する。



 ◆◇◆◇◆◇◆



 明朝。

 「これを渡し忘れていたわ」

 エルミラが俺に差し出しのはギルド証だった。

 昨日作成したばかりのそれではなく、銀箔があしらわれたもの。等級には銀級の刻印。姓名欄には間違いなくナナシの文字。つまり、俺のギルド証。銀級の。

 「……なぜ?」

 「貴方のお陰で瘴気の被害は最小限で収束したわ。前代未聞の空間の裂け目の事例を発見し、それを消滅させた。そして丸耳族にも関わらず豊富で卓越した魔法の知識と素養。これだけ武勲をあげれば当然でしょう。私とムスターの推薦で昨日の内に発行させたわ。おめでとう」

 本当は金級を推したのだけれど、それは早計とムスター大司教に諭され断念したとのこと。尚、俺の耳に言葉は届いても咀嚼できず何も入ってこない。

 冒険者にとって等級は力の証明だ。数々の武功と能力と人格を認められ与えられる評価であり、ギルドもそれに基づき依頼を斡旋する目に見える信用でもある。ぽっと出の、それもたった一日で授受されていいものではない。

 「貰えるものは受け取っておくべきよ。昨日の件は国民……いえ、国の外でも周知される所。誰も貴方を偶然の成り上がりだなんて揶揄しないわ」

 素直に喜べないどころか困惑している俺の胸の内を見透かしたエルミラが窘める。説き伏せる、ともいうか。

 「それより、今日も冒険者ギルドに行くのでしょう?」

 「ああ。そのつもりだけど」

 功労者のような扱いをされているようだが、昨日は薬草採りをしながら少しだけ魔法を使用しただけであり疲労が蓄積されている訳ではない。昨晩の情事を除けば。

 暇を持て余していても記憶が戻るとも思えない。丸耳族の俺が魔法を生身で行使できる理由が本当に大いなる神秘(エニグマ)による賜物なのかも定かではないし、手掛かりを得る切っ掛けは多いに越したことはない。収入も欲しいし。

 「じゃあ今晩は何か精がつくものでも用意しておくわ。期待していてちょうだい」

 それは労働に対する犒工(こうこう)なのか今夜も一戦を交えるという暗喩なのかは分からないが、好意には違わないだろうとぎこちなく笑って感謝の言葉を伝えた。

 「そうそう。これも渡さないと」

 エルミラが俺に小さな麻製の巾着を手渡した。重くはないが軽すぎる事もない。紐を引っ張り開封すると中から姿を現したのは五枚の金貨だった。

 「……これは?」

 「昨日の報酬。冒険者ギルドからではなく聖教からの、ね」

 貨幣制度は万国共通だ。金貨一枚で余程贅沢しなければ成人一人が一か月は生活できるだろう。それが、五枚。

 もう驚くまい。

 因みに薬草採取の依頼の報酬金は見つからなかったものもあった為、差し引きあって銅貨十枚だった。

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