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神は痛みを与え、真実を隠した?

作中で地名や物の名前が色々出てきますが、全て実話を参考に作ったフィクションです。

アリスや源太の見た目をそろそろ確定させたいなぁ、と思っています。

居眠りしかけるほど時間が経った後…

「先生がお見えになりましたよ」

パタパタと軽い足音と共に看護師がそう伝える声がする。その声で段々と長時間待っていたことによる眠気から覚め、んっと背伸びをすると体がシャキッと切り替わって目が開いた。

「…ようやっとか…」

ちらりと時計を確認すると、針はくるりと回っていて空の色にも多少の変化が見られた。やはり結構な時間がかかっている。

「こちらへどうぞ」

「ありがとうございます」

看護師についていき個室の方へ向かう。実を言うと、自分がベンチで眠りかけていた時から医者は到着はしていたのだ。だが、入院中の患者の診察や急患の対応もあり、こうして話せる時間になるまでかなりかかってしまったのだ。

別にそれを不公平だとか、客人に失礼だと怒る気はない。お医者様として患者を優先するのは正しいことだろう。むしろ、急に訪ねてきたこっちが悪い。

「どうぞ、お入りください」

落ち着いた低い声が個室のドア越しに聞こえてくる。この先にいる人物こそ、この診療所の先生、なのだろう。

「…失礼します」

職員室に入るときのように、少し緊張した気持ちでドアを開ける。

ドアの先に待っていたのは、頬に少しの皺がある、30だか40だかぐらいの男性だった。優し気な彼はドア越しに聞こえた声の印象通りの見た目をしていて、小皺は目立つがそこそこ顔立ちのいいように見えた。

「…こんにちは。急にお尋ねしてすみません」

こうしてまじかに会ってみると案外言葉と言う物は思いつかないもので、なんとなくドアの前で立ち止まったまま目の前の優し気な男にそう伝えた。

「全然、大丈夫ですよ。ささ…おかけください」

「…ありがとうございます」

キィと軽く沈む椅子に腰を掛けると、男はまっすぐにこちらを向いて、軽く微笑みを浮かべながらこちらに何か紙を渡す。

「私は秋野実あきのみのると申します。よければこちらを」

しっかりとした長方形の紙のそれは、彼の名刺だった。

秋野実あきのみのる、彼はこの診療所の医者だが、元々は八日街で診療所を開いており、研究もそこで行っているようだ。丁寧に電話番号や診療所の住所まで印刷された名刺は、彼の誠実なイメージを表している様だった。

その紙を丁寧に学ランの中にしまい、秋野先生の方へ顔を戻す。さっきまで微笑むような表情をしていたはずだが、いつの間にか彼はキリリとした真面目な表情になっていた。

その表情で思わず源太はハッとする。今自分が踏み込もうとしている場所の重さに気が付いたのだ。

「…神痛病の事でしたね」

「…はい」

「………」

緊張した源太の表情に実も思うことがあるのか、ゆっくり慎重に資料に目をやった。びっしりと文字が印刷された資料は、難しい文字ばかりが並び、それだけでもこの事態の難しさというものも伝わってくるようだった。

「…神痛病はここ、四日村だけで発病が確認されている原因不明の奇病です」

「…四日村…だけ…」

これまでのピースがこの言葉で一つかちりとハマったような感じがした。これであの時の桃実や桃太の言葉や感情が理解できた気がした。

「神痛病は前身の神経に異常が起きる病です。手足が勝手に動いたり、酷い麻痺が起きたり、神経痛があったりと症状も神経系に関わるものが主です。……悪化すると脳に異常を来すようになり、最終的には脳の機能が停止し亡くなります」

「………なるほど……」

確かに自分が目にしてきた患者はそのような様子が見られたような気がする。特に手足が勝手に動く、という部分は顕著で、病室の方からは度々何か打ち付けるような音がしたはずだ。

「症状が酷い人だと全身の強い痛みや身体の急激な衰えが見られたりするケースもありますが………一貫して捜査はまだ進められておらず、神痛病自体……原因がまだ不明な点が多いのです」

「…治す方法もまだ……ないんですよね……?」

「……残念ながら」

実は苦渋の表情を浮かべながら資料を丁寧にファイルに綴じてしまう。深く刻まれた皺はまるで彼の心の傷のようで、思わずこっちまで泣き出しそうな気持ちになってしまった。

膝の上でぎゅっと拳を握る。一体何があの病の原因なのだろうか、一体何が彼らの中で悪さをしているのだろうか、解決されないモヤモヤに心はキュッと締められる思いであった。

「……神痛病は……病が確認された当初、「(しん)」からの天罰であると言われ……その名前が付きました」

「なんとっ!?私は確かに神だがそんなことはせん!」

アリスは立ち上がって大声でそう実に訴えかける。勿論実には見えてないのだが……アリスの表情は至って真剣で、その言葉が噓でないことはすぐに分かった。

「……でもそんなのおかしいです、神からの天罰なんて……非現実的すぎるじゃないですか…それに、神が居たとして、四日村の人々がそんな罰を受ける筋合いなんてないでしょう………」

アリスの気持ちを伝えるべく実にそう言った。すると実は真剣で強い眼を向けながら頷いた

「その通りなんです。天罰も祟りもあるはずがない。神痛病は……立派な病の一種です」

「秋野先生………」

「だから必ず……我々が解明して、この病の治療法を探さなければ行けないのです」

その強い言葉に強く心が引かれ、共感する。そうだ、解明して、解決せねばならない。それこそ、それが自分がここに来た理由だ。

「先生、僕にも何か、出来ることはありませんか」

「………神痛病を理解して……神痛病にかかった患者さん達の支援をしていただければ幸いです。……そして…もし出来るのであれば……神痛病の原因を探してください」

医学に明るい者でなければ、神痛病の原因解明は普通難しいだろう。だからか実は患者の支援というものを提案したのだ。

「…分かりました」

強くはっきり、そう返事をする。そろそろ帰らなくては、と席を立ちドアを開けると、アリスがぴょんぴょん跳ねるように歩きながらこちらに話しかけてきた

「よし、神痛病の原因を探すのじゃ!」

「……原因ったって……僕は顕微鏡の使い方もようわからんし、細菌にも詳しくありませんよ」

「んやんや、そんな根本的なものではない!環境的要因を探せと言っておるのじゃ!」

「環境的要因……」

「だって病は四日村だけに現れておるのじゃろう?ならば、四日村と他の場所では何かが違うはずなんじゃろ!」

「……確かに」

言われてみればそうだ。四日村には、四日村だけに神痛病がある原因が何処かにあるはずだ。確かにそれを探るなら出来るような……気がする

「いようし!ほれほれ!探すぞ〜!」

「はいっ…」

足早に診療所を出て道をゆく。最初は取り敢えず田畑からだろう。

四日村は農村であり、恐らく一番村民から身近なのは田畑だ。

じっくり周辺を見渡すように歩いていると、道の奥の方に、ひときわ大きな民家があった。大きいと言っても、武将でも住んでそうな豪邸というわけではない。ただ単純に他の民家より大きいなぁ、という程度だ。その家は人が居ないのか知らないがポストには手紙やらがぎっしり詰め込まれ溢れそうになりかけて、地面は草でボーボーになっている。

「……村長…?」

気になってじっと家を見つめれば、表札には「四日村村長宅、花白」と消えかかった字で書かれていた。

「そこの坊主ー村長さん用事ーか?」

気が付いて声をかけてくれた農夫が大声で畑からそう叫ぶ。そうだと返事をしようとしたが、その前に「村長さんおらんよ」と帰ってきた

「居ない?」

「もー数日家開けとるよ」

「村長さん、またどっか行って…村がこんな非常事態に…」

「前聞いた話じゃ、また酒飲んで栄誉桜んとこで寝とったと」

「やぁねえ…はよう村長交代させなあかんのとちゃうの」

「んでもなぁ…跡継ぎなぁ…」

気が付けば畑仕事をしていた人々が手を止め顔を上げ、次々に村長の悪口にも近い噂話を垂れ流していた。訛があるのか多少分かりづらいが、どうも村長は神痛病の広がるこの四日村を捨て、毎日飲み歩いてる…らしい。主婦の井戸端会議程度の会話であるからそれが本当なのか噂に過ぎないのかは分からないが、村長の印象がよろしくないのは概ね事実なのだろう。

「この前もまた工場と言い争って警察に連れてかれたって?」

「農業も全くやらんとね…」

「今だからこそお金も大事やってのに…」

話を聞けば聞くほど、他人の自分もその村長とやらに対してイライラとする気持ちが積みあがってきた。さっきまであんな誠実な秋野先生と共にいた影響もあるのだろうが、より村長という存在に嫌気がして、その家のポストに「四日村と向き合え」と書いて勝手に投げ込んでやりたいと思った。

だがしかし、ここは冷静になろう。そんな話だけで人を判断するのはよろしくない。実際に見て見なければ、断定はできないだろう。

少しモヤモヤする気持ちを抑え、農家の人々に頭を下げてから別の道へと進んでいった。

「んー…村長とやらはどうも評判が悪いようじゃな!」

「なんかモヤモヤしますね…悪い話聞くと…」

「そうじゃのぉ…となれば村長に村の調査を要請したりは無理…なのじゃろうか」

「聞いたところじゃ、性格もそこそこなんでしょうし、上手くいけば村の出入りを自由にしてくれたり…」

「…おい汝よ…今凄く悪いことを企んだのではないか…?」

「…んや別に?酒で酔わせて村の自由な行き来の許可を取れば堂々と歩けるな…と」

「全くそういった妄想ばかり…どうするのじゃ!もしその村長が良いやつじゃったら!」

「いい人なら四日村の人もこんな怒っとらんでしょう…」

「それはぁ…確かにそうじゃな」

「…取り合えず行きましょ、怪しい所とか」

「そうじゃの!」

二人は再び民家の方へと戻ってゆく。ザクザクした砂利の道が段々砂っぽく変わって、随分歩きやすいようになると、段々農家の仕事着ではなく主婦の仕事着を着た人々が表れ始め、下校の長い道をようやく帰ってきた子供たちの姿も見えるようになってくる。

「…あ!お兄さん!」

「あちょっと桃太…!」

下校中であろう桃太が姉の静止を振り切りこちらへ駆け寄ってくる。この前の事は忘れたんか…と呆れる気持ちと駆け寄ってくれた嬉しさですっと心が軽くなって、不意に口角が上がる。

「おかえり。…それ、何なん?」

ふと源太が気になったのは、桃太の持っている少しカラフルな色が浮き上がった大っきい袋だった。

「へっへっへ…これ買ってきたんだ!」

ガサガサと袋から何か取り出したと思えば、それはチョコやらキャラメルやら飴やら…とにかく甘い菓子たちであった。

どれもこれも自分が元々居た時代では買えなかった代物ばかりだ。今は1960年にいるが、最初に飛ばされた令和の未来では、アリスになんでも買い物を自由にしていいと言われて真っ先にキャラメルを購入した記憶がある。久しぶりに食べたキャラメルの味は随分と甘く感じて心満たされてたものだ。それから何度か現代の菓子を楽しんだがどれも味か濃くて、最初は嫌いだったものだ。だが気が付けばアリスに進められ、ポテトを薄く切って揚げたポテトチップスなる菓子に今は心奪われている。

桃太が取り出した菓子を見て、そんなことが思い浮かんだ。

(…えぇ顔をしとるのぉ…)

菓子を口いっぱい詰め込んで幸せそうにする桃太の顔のなんといいものか。こっちまで口の中が甘くなり、幸せになれそうな気もした。

「あんたそうやってすぐお小遣い無駄にすると後で後悔するって…」

年頃の姉である桃実は呆れて何処か上から目線にため息を付く

「そやってお菓子ばっか食べるから晩御飯食べれなくなるんだよ!」

ふふんと鼻を鳴らすと桃太は嫌なとこを突かれたのか、ぐえぇっと嫌な顔をして反論する

「今日はちゃんと食べるもん…あ、お兄さんも食べる!?」

「いや、桃太が買ったんだから桃太が食べな」

大笑いしそうになるのを堪えて二人を見守る。ここに来てから些細なことが可笑しくて笑っている気がする。単なる兄弟姉妹の会話であるのに、まるでコントを見ているようだ。

「…今日、学校どうやった?」

何となく心配する気持ちで桃太に問う。桃太は最初困ったようにハッとして言葉に間が出来たが、ふっと軽い笑顔をこちらに向け

「いつもと変わんなかったよ」

と悲しくつぶやいた。いつもと変わらない、つまりいじめは終わっていないのだ。

「…そうか」

ポンポンと桃太の頭を撫でてやると、桃太はチョコレートを一かけら口にねじ込んでからまた笑顔になり、ぱっと自分からは離れた

「じゃ、お兄さんまたね!」

「早く帰るんだよ」

手を振って別れの挨拶をする桃太に手を振り返して二人を見送る。そろそろこの時間だ、自分たちも宿に変えるべきだろう。アリスも同じように思っていたのか、いつの間にか足が宿の方へと向いていた。

「私らも一度戻って話を整理しようか」

「はいはい」

地を行く足取りは軽やかであった。だがこの時はまだ二人は思いもしてなかった。悲劇のタイムリミットが刻々と減っていることなど。


四日村…源太達がポータルを使い訪れた田舎の農村。山に囲まれ、草木が生い茂っているが、大きな川が流れ水源は豊かである。


八日街…四日村の隣町。記憶フィルムの映像から察するに、四日村と比べ都会である。隣町といっても四日村からはそこそこ距離があるらしい。


栄誉桜…四日村の開けた地に聳え立っている、水色の巨大な桜の木。四日村の名物で、この世に1本しかない。


銀牙山…四日村の中でも特に高い山で、てっぺんには見方によって煙突の本数が変わる不思議な工場が経っている。桃太曰く、誰かの所有地らしい。


天ノ川…銀牙山のてっぺんから四日村の最端に至るまでの距離を流れている川。四日村にとって大切な水源であり、住民たちにとっても親しみ深い川でもある。


神痛病…原因不明詳細不明のナゾの病。患者は皆、強い痛みを訴えている。秋野医曰く、神痛病は神経に異常が起きる四日村でのみ発病が発見されている病らしい。症状は手足が勝手に動いたり、神経痛がしたり、ひどい麻痺など。治療法は存在せず、悪化すると脳が停止し死亡する。



桃太…記憶フィルムに移っていたいじめ被害者の少年。元気が良く明るい性格で、最初こそ疑っていたが源太にも優しい。地元である四日村のことが大好き。


桃実…桃太の姉。中学生で正義感が強い。外から来た人間に対してかなり警戒している。


秋野実…神痛病治療を目指している医師。四日村内の診療所で先生をやっているほか、八日街で神痛病の研究も行っている。年齢は若いものの、見た目のせいで老けて見られる。誠実な人間であり、いつも優しい顔をしている。

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