四日村巡り2日目
作中で地名や物の名前が色々出てきますが、全て実話を参考に作ったフィクションです。
最近検索アプリのAIで遊んでいたら、神巫女の色々な話をまとめられて教えてくれるので面白いなぁと思いました。
朝…源太は登校していく子供たちの少し重い足音で目が覚めた。
「…寝すぎてしもうた…」
くわぁっと大きく欠伸をして体を起こす。今日も非現実的な生活の始まりだ。
さて…昨晩は眠気が強すぎて後のことを全てアリスに任せてしまったが、大丈夫だろうか…
(…言ってた通り、ちゃんと布団で寝かせてくれてるな…)
まだ少し眠たい目で周囲を見渡す。寝る前にアリスと話し合ったことを描いた紙は机の上に畳まれて置かれていた。
(服……は……)
服は上着と帽子だけが外され、布団の横に綺麗に畳まれていた。流石に1日着て汚れた服だ、後で着替えておかねばならないだろう。
(……で、張本人のアリスは………)
キョロキョロと周りを見渡すと、少し離れた壁に背を預けスヤスヤと眠っているアリスが見えた。
軽く上着を羽織ってアリスに近寄るとハッキリとアリスの表情がわかるようになり、綺麗に解かれツヤツヤと色の良い髪も、シワ一つ見えないまるで洗いたての様な洋風なドレスも同じくハッキリ見えた。
(……いつ見ても……不思議なもんじゃのぉ………)
手がすっと好奇心から伸びてゆく。指先で感じる温度や触り心地は、人間と大差ない気がして、アリスが神であることなんて、すっかり忘れてしまいそうだった。
(……いかんいかん……神とは言えどアリスも女子じゃからな………)
アリスにバレないうちに……と離れようとしたところ、宝石箱かのようにゆっくりとアリスの瞼が上がって真紅の瞳がギロリとこちらを見据えた。
「……バレておるぞ、汝の悪戯など……」
「……すんません」
「全く!神である私だから良いとして、他の女子に同じことをしてみぃ!殴り飛ばされるぞ!」
「……次からは気をつけますよ」
今更になって考えれば、普通女子に軽々しく触れるなんてありえないことだ。失敗したな……と思う反面、自身がそこまで行動に移したことを疑問に思い、モヤモヤした気持ちのままアリスから離れ着替えを始めた。
「……今日はどこを見て回るか……」
ザクザクと砂利の道をゆく。今日はどうも平日らしく学生の姿は見えず、かわりに農家たちがキビキビと働いていた。農業は休みがなくて大変そうだな………とぼーっと考えたが、今の自分はマトモな仕事をしてるわけでも、学校に行ってるわけでもないからそれよりずっと良いか、と謎の納得をして直ぐにその事はどうでも良くなった。
「ふむ………やはりあの病のことを調べてみるのはどうじゃ?」
「そうですね……何処かに病院でもあれば……」
「うーむ……何処かにあるじゃろうか……ちぃと待っておれ」
ふわりふわり、まるで川を泳ぐ魚のようにアリスは空を泳ぐ。アリスは神であるからなのか、移動も人並外れている。いつ見ても原理は全く理解できないが、その姿は立派な庭園で育てられている鯉のようで見ていて何処か心地がいい。アリスが空を泳ぐ姿は見栄えがいいだけではない。泳ぐスピードはそこそこ速く、自分が走るより数秒早く移動できるだろう。そして何より…
「……ここでもない……うーむ……ここでもないのぉ……あそこか?」
建物の壁を通り抜けられるのだ。
アリスという存在は確かにそこにいるが、そこにはない。まるで煙の様な、所謂幽霊と同じ様な生態なのだろう、こちらから触れたりなども出来ないのだ(アリスがこちらを触れることは出来るが…)
おかげで建物は通り抜け放題。アリス自体も普通の人間には認知できない為、バレることもない。捜査をする上、この特性はかなり役立つと言えよう。
まぁ普通に不法侵入であるのでハラハラするが…アリスにそんなこと言っても軽くあしらわれるだけだ、とにかく今はアリスに病院探しを頼もう。
「…お!見つけた!見つけたぞ!」
少し興奮気味にこちらへ戻ってきたアリスは、びしっと建物を指で差しながら目を輝かせる。まるで主人に駆け寄る犬だ…と神の威厳を全く感じない姿は逆に彼女らしく思えよう。
「…あれが病院なんです?」
「恐らくな。看板と建物内にいたナース、独特な薬品と消毒の匂い…まぁ間違いなく病院じゃろうな!」
「んなら行ってみますか」
ザクザクと砂利を鳴らしてアリスの指さした先の建物に向かうと、確かに診療所の文字が見えてくる。
ひっそりと風景に混ざりこむ外観とは裏腹に聞こえてくる患者の声。異様であるが近くで仕事をしている農家たちは、それが日常であるように気にも留めない。実際は気に留めてないわけではないのだろう。けど、何もできないから、関わることを諦めているのだ。
(…痛々しい)
この場所は静かなのか煩いのかわからない。
確かに民家に近づけば痛いと泣く患者の悲鳴も、大声で泣き叫ぶ患者の家族たちの声も聞こえてくるだろう。だがこの場所ではそれがまるで夏場のコオロギや蛙と同じような、ただの背景音にしかならないのだ。
ザクザクと砂利の道を進めば進むほど、四日村のそんな現状は目に見えて分かるようになってきた。異様だ、見れば見るほどに。だがその異様さに、何故気が付かなかったのだろう?
自分がそんなことを気にしなかったから?偶然それが見えなかったから?
…いや、少し違う気がする。この場所は村の中でも比較的奥の方だ。昨日まで歩いていたのは比較的村の入り口や、民家から離れた山ばかり。…考察の域に過ぎないが、もしや…隠されていたのではないだろうか。
「…源太?何をぼさっとしておるのじゃ?」
「…あ、いや…なんでもありませんよ」
昨日の桃太や、民泊の女将さんのことを思い出し、そうやって四日村を疑うことが申し訳なくなって、そう思った気持ちを心の奥にしまった。
「…ただ、病気でも怪我してもないのにどうやって院内に入るかな…と」
「は…確かにそうじゃ…病気のことを調べようと思って病院に来たが…逆に不自然か…」
「医者と話が出来たら良いんでしょうけど…」
ひっそりと窓から院内を覗いてみても、医者の姿は見えない。ここに長く滞在していれば、不審者としてすぐ警察を呼ばれるだろう。
仕方なく一歩後ずさりした時、ガラガラと病院の戸が開く。
「…なにか…御用ですか」
疲れた様子の若い看護師がこちらに声をかける。流石に不振に思っていたのだろう…
「あ…あー…その…」
流石に病について聞くのは怪しいがすぎる。昨日あれだけ桃実に外の人として警戒されたのだ、ここでヘタに病のことを聞いたら二度とこの病院には近寄れなくなるかもしれない。
ちらりとアリスに助けを求める。だが人からは姿が見えないアリスは今は戦力外。めんどくさそうに早くどうにかしろと言いたげだ。
(…心苦しいけど…嘘をつくしか…)
時間にしてわずか数秒、丁度いい嘘を思いついて、その瞬間から息を吐くようすぐ嘘をついた。
「親戚が病に伏せたって聞いて…でも病の事は何にもわかんねぇもんですから、先生たちに教えていただこうと思ってきたんです」
「…病…神痛病ですか…それとも…癌か何かで?」
はぁとため息をつくかのように吐き捨てられた言葉を聞き逃しはしなかった。
「神痛病」聞いたこともない病名が看護師の口から零れた。神と聞きすぐ隣のアリスを見たが、どうも神からの祟り病ではないような気がする。
「…神痛病?」
その言葉をすぐさま拾い上げ問う。ここで聞き逃してはきっと後から後悔するだろう。
「…ここ数年…この村で流行りだした病ですよ」
「…どんな病気なんですか?治療法は?」
「…………」
治療法、そう問われて看護師は何も言えなかった。何度か言葉を紡ぎかけ口をパクパク開いては音は出ず、最終的には首を横に振って
「わかりません」
小さくそう呟くだけだった。
「…分からない…」
そう鸚鵡のように復唱する。昨日見たあの病は、治らないのか、治らないままずっと長く苦しむのか?と心苦しく思った。
それが表情に出ていたのか、看護師は申し訳なさそうに小さく頭を下げた。あぁ、きっとこの看護師は何度も自分のような表情をしてきた人を見てきたのだろう。家族が苦しんでいるのに、治せるか分からないと言われ、絶望する姿は容易に想像が出来るし、今なら共感も出来る。看護師はそれを見て、病人を診る立場の人間として悔しやを感じただろう。
(…皆…病に苦しめられている……病を患った者も、病にならなかった者も)
とはいえまだ病の詳細な部分は何も分からない。そこを聞かない分にはまだ理解はできないだろう。
「詳しく教えてはくれませんか?…どんな病なのか…できりゃお医者様でもいたら…」
こういった専門は医者に問うべきだろう。少し上から目線と言うか、浮いた考えな気もするがこっちはこの時代の人間ではなく、隣に神もいる。より詳しい調査の為だ、医者に直接聞いたって大丈夫だろう。
「…秋野先生は不在です」
「そこをなんとか…」
「…少々…お待ちください」
足早に看護師は診療所内に戻ってゆく。奥から少し高い電話用の声とベルの音がしたので、多分、誰かに電話をかけている。恐らくその秋野先生という人にだ。
「…もう少々お待ちいただければ先生が見えますので…上がってください」
「…ありがとうございます」
どうやら上手くいったようだ。
緊張がほぐれ少々安堵のため息をつき、アリスと共に診療所内へと、足を進めた。
ギシギシと少しだけフローリングの軋む音を立てながらも診療所へ足を進めると、入院をしている患者たちの声が聞こえてくる。
「痛い…痛い痛い…」
「あ…ぁぁ…」
「嫌ぁぁッ!!!」
患者の声は落ち着いていたり、激しく泣いていたり、か細かったり、大きかったり…十人十色であったが、共通してそのどれもが痛々しく、聞いていてこっちまで体の節々が痛くなってくるような訴えであった。
(…恐ろしい…)
昨日の出来事を何も知らず、神の使いでもなければ、かっこ悪く情けないがすぐにこの場から逃げ出してしまっていただろう。現実逃避の為か、あるいは自分の身を病から守るためか、どっちにしろこの空間に耐えられなかったはずだ。
自分は医者では無いし、誰かを助ける妖術は待ち合せてはいない。自分がどうしようと直接彼らを助けられはしない。何もできない、そんな気持ちだけが残ってそれを言い訳に逃げ出しただろう。
「源太」
「…アリス…」
その心情を察してか、アリスはそっと、肩を掴んでゆっくりと押す。
「大丈夫じゃ。汝ならば、彼、彼女らを助けられる」
(…助けるったって…僕は医者でも無いし、貴方のような神様じゃありませんよ)
「なぁに、助けると言っても方法は一つではない。その方法を探すためにも、早く病について突き止めるのじゃ!」
それが慰めか、それとも立ち止まった態度にイライラしてそういったかは定かではないが、とにかく応援であったと思って前に進もう。
逃げ出したいし、自分では彼、彼女らを治すことが出来ないのは確かにそうだ。でもそれと同じかそれ以上に、四日村の人々を助けたい気持ちはあるのだ。今はその為に、進まなければならない。この村の問題を、突き止めねばならない。
「…はい」
決心してそう呟き、待合室のベンチにジッと座り込むのであった。
四日村…源太達がポータルを使い訪れた田舎の農村。山に囲まれ、草木が生い茂っているが、大きな川が流れ水源は豊かである。
八日街…四日村の隣町。記憶フィルムの映像から察するに、四日村と比べ都会である。隣町といっても四日村からはそこそこ距離があるらしい。
栄誉桜…四日村の開けた地に聳え立っている、水色の巨大な桜の木。四日村の名物で、この世に1本しかない。
銀牙山…四日村の中でも特に高い山で、てっぺんには見方によって煙突の本数が変わる不思議な工場が経っている。桃太曰く、誰かの所有地らしい。
天ノ川…銀牙山のてっぺんから四日村の最端に至るまでの距離を流れている川。四日村にとって大切な水源であり、住民たちにとっても親しみ深い川でもある。
神痛病…原因不明詳細不明のナゾの病。患者は皆、強い痛みを訴えている。
桃太…記憶フィルムに移っていたいじめ被害者の少年。元気が良く明るい性格で、最初こそ疑っていたが源太にも優しい。地元である四日村のことが大好き。
桃実…桃太の姉。中学生で正義感が強い。外から来た人間に対してかなり警戒している。




