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四日村の謎を追い

作中で地名や物の名前が色々出てきますが、全て実話を参考に作ったフィクションです。

夕暮れの下、とぼとぼと田んぼの間にある小道を歩く。

あれからあの場所に居続けるのが気まずくなり、一言も話さず桃太と別の場所へ向かっていた。別の場所、と言っても行先は特になく、ぐるぐると四日村中を彷徨うだけであったが

「…あ、あのね…お兄さん…」

「…どうした?」

勇気を出してこの気まずい空気をどうにかしようと思ったのだろう、桃太は袖を引きながら口を開いた

「さっきのあれは…」


「桃太!!」

桃太が何かを言い出そうとしたその時、背後から若い女性の声が割り込んできた。その声色は、焦っているような怒っているようなもので、それを聞いた瞬間に、桃太の表情が苦虫嚙み砕いたようなものになった。

誰だろう?と思いゆっくり振り返ると、そこに立っていたのは中学生と思わしきおさげの少女だった。

「…姉ちゃん…」

「全く…探したんだよ!?」

おさげの少女は頬を膨らませ、プンスコ怒りながら桃太の耳を掴んで強引に源太から離させる。

恐らくこの少女は見たことのない男性と自身の弟が一緒にいることを不安に思い、桃太をこうして強引に離れさせたのだろう。無理もない、今の自分は何度も言うが部外者で不審者だ。

「イでででで…あ、お兄さんこいつは桃実姉ちゃん!鬼っぽいけどボクのお姉ちゃん!」

「だぁれが鬼だってぇ!?」

「ちょっ…!ぎゃぁぁ姉ちゃん痛いって!」

「あんたねぇ、知らない人に着いて行っちゃいけないって言われたでしょう!」

「で、でもお兄さんは悪い人じゃ…」

「だまらっしゃい!」

姉は容赦なく弟の頭をぐりぐり押して説教をしている。当人たちにしてみれば必死の戦いであろうが、見てる分としては微笑ましい。

…と、そんなこと考えている場合ではない。今の自分は不審者だと思われている、このままでは最悪警察に突き出されるかもしれないし、塩を投げられるかもしれない。ここは何かある前に立ち去ろう、丁度時間も時間だ、離れる口実ならある。

「…それじゃお兄さんそろそろ帰るから、またな、桃太」

「…外から来た人ですか」

その場から立ち去ろうとしたその時、少し低い声で桃実に問いかけられた。相当源太の事を警戒しているのだろう、あんな小さな姉弟げんかをしていても、やっぱり姉弟は姉弟なのだ。家族が危機的状態にいるかもしれないのに、黙って逃げるだけなわけがない。

「…もう金輪際、弟に関わらないでください。これ以上近寄るなら、お巡りさん呼びますよ」

「…わかった、もう離れるよ」

さて、これ以上はさすがに警察を呼ばれる、何処かへ行かねば…

「どこかに宿でもあれば良いがのぉ…」

桃太達と別れ、トボトボと道を行く。ふわふわと浮きながら移動するアリスを横目に見つつも、確かに今日泊まる場所をどうするか…と悶々考えていた。

泊まる場所を考える上で一つ引っかかるのは、お金のことだ。どれだけ泊まれる場所があれど、お金が無ければ元も子もない。お金じゃなくても何か物々交換が出来ればいいのだが、生憎差し出せそうなものはマフラーぐらいしかなく、聞けば現代で売り買いの取引で物々交換は出来ないそうだ。1960年代でも恐らく物々交換は無理だろう。

「…金もないし、最悪野宿か…」

「ふっふっふ…源太よ安心せぇ、お金ならちゃーんと持ってきてある!」

じゃじゃ~ん、と光の効果音が付きそうな感じでアリスはがま口の財布を取り出した。がま口財布は見たところ掌に収まるぐらいのサイズをしているが、アリスが軽くがま口を揺するとジャラジャラと小銭がぶつかる大きい音が聞こえた。令和に来てから教えてもらった青狸ロボのごとく、あの財布の中は見かけよりずっと広いんだろう。

「ほらな!」

「これで野宿せんですみますね」

「私に感謝するがよい!」

自慢げにしているアリスを軽くあしらいつつ、一安心して次は宿を探す。

幸運なことに、近くに民泊があって急だったが泊まらせてもらえることになった。本当に急な宿泊だったのに止めてくださって本当にありがたい。


「…超絶長い一日だった気がする…」

「本当ご苦労様じゃ…」

宿の畳に寝っ転がると、ドッと一日の疲れが流れ込んできて背中と地面がくっついて離れなくなってしまった。

無理もない、急にまた知らない世代に飛んできて、わんぱくな少年の相手をして、恐ろしい病気を目の当たりにして……濃い、濃すぎる一日だった。

「…明日休みが良い…」

「ゆっくり休むがよい。まぁこの時代にいる時点で休まるかどうかは知らんが…」

アリスは少し眉を下げながらパタパタと団扇で風を送ってくる。そよそよと優しい風に当たると何処か落ち着く気がして、眠気までしてきそうだ。

「それで…そうじゃったか?あの記憶フィルムに移った解決せねばならん問題が何なのかは分かったか?」

「…ん…何となく…半分憶測で、確証は無いですが…」

眠たい目を擦って何とか起きる。

記憶フィルムで映っていた映像は桃太が学校でいじめを受けている場面だったが、アリス曰く問題はいじめ以上に大事であるらしい。そのいじめ以上の問題の手掛かりになりそうな物は四日村を一日巡って分かった気がするが、道筋建てれるまでには至っていない。

「一度今日で分かったことや見つけたものをまとめるか」

よいしょ…とアリスはそこそこ大きめの用紙を取り出してそう言った。確かにこのままだと寝て今日の事や気になったことを忘れてしまう。

そう思ってようやく地面から起き上がった。


「えーと、取り合えずまずは最初の出来事とかからか…今ここは『1960年代の日本』じゃな」

「僕達はあの記憶フィルムを見てここに来た。記憶フィルムの内容は『桃太が学校でいじめを受けている場面』だった。今は何となくその理由を予測出来たが、記憶フィルムを見た時点ではいじめの原因は不明…」

「では最初に見た記憶フィルムは以後『桃太の記憶フィルム』としよう」

「…それと補足するなら、記憶フィルムに映っていた学校は、桃太の住む四日村ではなく、隣町の八日街だ」

紙に線を引いたり文字を書いたりしながら議論を開始する。話が段々とまとまって一筋になるのは何となく見ていて気持ちがいいものだ。

「で、私の力を使って現代、令和から1960年代までやってきた」

「最初は桃太の記憶フィルムで見た八日街に行くもんだと思ってたが、たどり着いたのは、田舎の農村である「四日村」だった。そんで「栄誉桜」を見たんだ」

「あの桜、見事じゃったのぉ…じゃが栄誉桜は普通の桜とは違って薄桃ではなく、水色じゃったな…理由は知らんが、特殊な品種なのじゃろう」

「現代でも僕のいた時代でもあんな桜は見たことが無いわけだし…四日村だけの特別種なんでしょうね」

今考えてみても、あの栄誉桜は異質だ。なんというか、霊的なものにすら見えてしまう。もしやあの栄誉桜もまた、今回解決しなければならない問題に含まれているのだろうか?

神様が解決しなければならない問題と言うし、もしかしたら霊的存在が関わっていたり…なんて考えてすぐ否定しようとしたが、アリスと言う存在がそこにいる手前、簡単に否定出来る気がしなくてもどかしさがあった。

「そんで、栄誉桜があるあの場所で桃太と出会ったんじゃったな」

「桃太に四日村のいろんな名所を教えてもらって…疲れたけど楽しかったな…教えてもらった所は「天ノ川」と「銀牙山」とそのてっぺんにあるあの煙突か…」

「こうしてみると本当に自然豊かな村じゃなぁ四日村は…農業も畑の様子からして豊富なようじゃし」

「そうだな…天ノ川はデカい川だし、銀牙山もたっかい山だ…あの煙突もデカいし、規模感が全部大きいな」

「…んで、その後に起きた出来事が…」

「…あの病か…」

少しだけ声が小さくなった。きゅっと喉が締められるみたいな感じが一瞬して、その出来事を思い出したくないと思う自分がいた。

「…あの病気については詳しくわからなかったが…『痛い』と声を上げて叫んで…体がひん曲がってたな…考えるだけで痛々しい…」

「感染症なのか、食べたものによるのか、遺伝なのか…それすら分からんのぉ…正直私も記憶を飛ばしてしまってるから全く分かっておらん」

情報を紙にまとめ終わり、パッと隅々まで確認してみる。

情報の中から考えるに大きな点は「栄誉桜の謎」「桃太のいじめの原因」「謎の病」この3つぐらいだろう。この3つがそれぞれ違う問題なのか、それとも同じ問題なのかはまだ分からない。だが少なくとも問題はは四日村に関係するものや人の間で起きているため、関連が無いとは考えられない。

「…つまりなんだが…この問題点が、神様の解決しなければいけない問題ってわけ…なのか?」

確かに病や栄誉桜のことを考えれば、いじめ以上によりやばいことに発展していると言われても納得が出来る。一応言っておきたいのだが、これは決していじめを軽んじているわけではない。ただ、いじめであれば学校側の対応次第でも解決できる。だが病や特異な植物となれば、そんなすぐに解決できるわけがない。最悪政府が動く可能性すらある。

「うーむ…恐らくそうじゃろうな」

「…これをどうやって解決しろと…」

「ともかくまだ情報が集まりきっとらん…一旦各問題について調査してから考えようではないか」

「…そうですね」


大方話し合いが終わると疲れ切ってまた床に寝っ転がった。

(…今日は…このまま寝るか…)

「汝よ…寝るなら布団を敷いてからにせぇ…」

「…はいはい…」

そう返事したものの、体力的には既に限界で、一度寝転がってしまっては体が睡眠をとることに集中してきてしまい、瞼は瞑ったまま全く動かなくなってきた。頭では布団を敷くなり電気を切るなり色々と思いつくのに…

「…仕方ない…私が色々してやるから汝はもう寝るのじゃ。おやすみ」

「…おやすみんさい…」

アリスにそういわれたことにより動く気力は完全にゼロとなり、そのまま眠ってしまった。

四日村…源太達がポータルを使い訪れた田舎の農村。山に囲まれ、草木が生い茂っているが、大きな川が流れ水源は豊かである。


八日街…四日村の隣町。記憶フィルムの映像から察するに、四日村と比べ都会である。隣町といっても四日村からはそこそこ距離があるらしい。


栄誉桜…四日村の開けた地に聳え立っている、水色の巨大な桜の木。四日村の名物で、この世に1本しかない。


銀牙山…四日村の中でも特に高い山で、てっぺんには見方によって煙突の本数が変わる不思議な工場が経っている。桃太曰く、誰かの所有地らしい。


天ノ川…銀牙山のてっぺんから四日村の最端に至るまでの距離を流れている川。四日村にとって大切な水源であり、住民たちにとっても親しみ深い川でもある。




桃太…記憶フィルムに移っていたいじめ被害者の少年。元気が良く明るい性格で、最初こそ疑っていたが源太にも優しい。地元である四日村のことが大好き。


桃実…桃太の姉。中学生で正義感が強い。外から来た人間に対してかなり警戒している。


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