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四日村巡り1日目

正直今回の作中描写や源太の心境は、作者でも色々危ういんじゃないかと思って描きましたが、それが危ういと思う心が皆様にあると信じて描写しました。

作中で地名や物の名前が色々出てきますが、全て実話を参考に作ったフィクションです。

農村、四日村は春らしい風が吹いて暖かい。長らく現代(令和)にいた源太にとっては少し違えどようやく春らしさを取り戻せた気がして、なんとなく安心感を覚えていた。

でも何故だろうか、四日村の空気は何処か重く沈み、虫の泣き声もあまり聞こえてこない。

さわざわと風が静かに草木を揺らし、弱弱しい作物の芽が日の光を浴びている。穏やかであるはずなのに、違和感は何故か拭うことが出来なかった。

「まずはここ!天ノ川って言う川なんだ~」

桃太は大きく腕を広げて、人が渡るには少し大変そうな川を見せてきた。天ノあまのがわは横幅が広いのは勿論だが、流域もそこそこ広いらしい。ずっと先に見える山々から、四日村の最端まで、天ノ川は続いている。

「大きな川だな…入りたい」

「これ、子供じゃあるまいに…川遊びなんてするでないぞ」

「…はいはい」

「天ノ川はね、四日村の畑全部の水源で、村のみんなが大切にしてる川なんだ!」

「ほう…大切な水源…つまるところこの村の神様のような川なのじゃな」

日が反射してキラキラ光って見える天ノ川は、サラサラと流れて涼しい風を運んでいる。アリスがこの川を神様と称したから、なんとなく手でも合わせようか、なんてちょっと思ってしまった。

「あの山の方からずっと続いとるんだな…」

「そうなんだ~。あの山、銀牙山って言うんだよ!」

銀牙山ぎんがさん…これまた高い山じゃのぉ」

「あの山は登れるのか?」

「う~ん…登れるけど、あそこのてっぺんって所有地なんだって…」

「所有地か…」

高く聳え立っている銀牙山のてっぺんを桃太と二人して指さして、じっと山を観察してみる。よくよく見てみると、山からは煙が上がっているようだった。

煙は濃い灰色でもくもくと上がり、まるで空に浮かぶ雲を生成しているようだ。

「煙…火事か?」

「あ〜、あれはね、工場の煙だよ。てっぺん所有地って言ったでしょ?あそこ、工場があるんだ」

確かによく見てみると煙突らしいものが2本立って見える。モクモクと濃い灰色の煙ははっきりと空を汚すように風に乗って流れていた。

そういうと桃太は何か思い出したようで一瞬あっと声を漏らし、すぐににこやかな表情になる

「あの工場も教えなくちゃ……お兄さんついてきて!」

「お、おう」

小学生というものはやんちゃで元気で良い。とにかく四日村の事を教えたくてたまらないのだろう、桃太はそそっかしく道を駆けてゆく。

見れば見るほど微笑ましさに口角が上がり、落ち着いた気分になる

「一歩間違えば犯罪者じゃな」

「……何言うとるんですか」

アリスの言葉にムッとしつつも、置いていかれないよう桃太についていく。

桃太が駆けていった先は、銀牙山とはまた別の少し高い山だった。山を少しだけ登った先には崖のようになっている開けた地が広がって、違う角度の銀牙山が見えた。

「あれ、見える?」

崖から少し身を乗り出して、桃太は銀牙山のてっぺんを指さす。桃太が崖から落ちないかヒヤヒヤしながらもその指の先をじっと見つめると、ふと違和感が走った。

「ん?煙突の数が違う……?」

先程天ノ川周辺から見えた工場の煙突は、確か2本だけであったが、この崖から見てみると工場の煙突は4本立っているように見えた。

「えっへへ……面白いでしょ?あっちのさ、向こう側の山から見ると、次は煙突が3本に見えるんだ」

あっちからは1本、あっちからは2本……と、桃太は先にある山を指差しながら言う。見る角度によって、煙突の数は違って見えるそうだった。

「でもどうして見える位置によって本数が変わるんだ?」

「それはえっとね……」

桃太はその辺に落ちている石っころを菱形に並べた。菱形に配置された石より外側を楕円を描くように指でくるくる回ると、だんだんと仕組みを理解してきた気がした。

「先生が教えてくれたんだけど、煙突はこういうかたちになってて、ボク達が見える位置はこう変わるから、違って見えるんだって。……あ、指がボク達で、煙突が石ね!」

ニコニコと早口で説明された仕組みに、感心して「ほぉ………」と思わず言葉が漏れた。設計者は恐らくそういった事は考えてなかったのだろうが、遊び心と言うものを感じて何となく気分がいい。

「面白いでしょ?皆この煙突の見え方を合言葉に遊び場所を決めたりしてて面白いんだ」

「確かにこんな仕掛けは童たちならば喜ぶじゃろうなぁ」

桃太が並べた石を適当に除けて手をパンパンと払うと、こちらにニカっと笑顔を向け手を差し出す。

「次、どこ行こっか!」

あぁ、この少年は純粋で暖かな子だ。元々弟が居た身として、自分より幼い子供たちが元気そうにしている姿を見ると、心が豊かになった気がしてホッとする。

だが桃太の笑顔を見ると、複雑な気分にもなる。桃太はあの記憶フィルムなのかで酷いいじめにあっていたのだ。正直許せない。腹がぐつぐつ鍋のように煮え立って、噴き出しそうなぐらいには許せない気持ちでしかたない。怒りの感情だけではない。疑問も産まれてくる。理由が分からないのだ、桃太がいじめられている理由が。

「…桃太君が通っている国民学校は、何処にあるんだ?」

乗り込もうなんてそんな気ではない。ただ、一目見てどんな学校なのか見定めたかっただけだ。でも少し、声色に重さがあったかもしれない。

「国民学校…?え、学校のこと…?え…えっと…」

「源太よ、この時代では国民学校ではなく、小学校じゃ」

「あ、そうか…小学校は、何処にあるんだ?」

四日村を見渡しても、学校らしき建物は無い。確か記憶フィルムで見た時には、木造ではなく、もっと丈夫な素材で建てられたちゃんとした小学校が映っていたはずだ。周りの風景も、整備された都会の街並みだったはず。

もしかしてなのだが、桃太が通う小学校は四日村ではなく、別の街にあるのではないだろうか?自分が初めて四日村に入って栄誉桜を眺めていた時桃太から疑いの目を向けられていたように、桃太もまた、別の地域出身だからと、仲間外れにされていたんじゃなかろうか。

だとしても、おかしいとしか思えない。そんなことだけであんないじめを受けるなんて、阿保らしくてしかたないことじゃないか!

「…隣街だよ!八日街って、言う…」

やはりいじめの件があったからだろう、桃太は少し言葉を濁している様子だった。

「隣街…遠いのか?」

「ちょっとね。山を下ってバスに乗らないと行けなくて大変なんだよ~」

「…そうか」

「さては汝、学校に乗り込む気じゃな?」

「…違う。気になっただけじゃ」

アリスへの返事に訛りが出てしまい、いかんいかんとマフラーで口元を隠す。確かに複雑な心境はあるが、それを今表に出してはいけない。桃太にその心境を悟られるのは、神様に一応使えてるものとしても、桃太に気を使われたくないにしてもどちらでもまずい気がする。

「…お兄さんって、なんか不思議だね?…まぁいいや…取り合えず、家がある方行こう!ずっと山の方にいたら、暗くなってきたときに怖い…」

「あぁ、そうだな」

桃太と共に住宅が集まっている方へ帰る。空はまだ水色をしているが、時間は確かに過ぎており、午後3時ぐらいにはなったろう。よくよく思えば、今は何時頃なのだろう?生憎時間を確認するすべはない。何処か建物でもあれば、時計で時間は確認できるだろうが…


田畑の合間を通り、住宅地の方へ着く。桃太曰く、四日村の住民たちの家はすべてここに集まっており、近所付き合いが良いらしい。

「…ん?」

「なんじゃ…なんだか騒がしいのぉ…」

四日村は銀牙山の工場付近まで行かなければ、基本シンと静かである。なのに家の方に戻って来てみれば、ざわざわとどよめきや困惑の声が聞こえ、甲高い悲鳴が耳を劈いた。

「っ何事じゃ…強盗かっ」

「あ…もしかして…」

桃太は不安そうな顔で、何かに気づいたように顔を下に向けた。桃太の表情や様子を見るに、悲鳴が上がったり、人々が集まって不安そうにざわざわ話ているのも、四日村ではよくあることで、桃太も何度か経験したことがあることなのだろう。

(もしかして…アリスが言っていた、いじめ以上の問題に繋がる?)

これはあくまでも人助け。どんなことでも何かのヒントのように思え、考える脳はぐるぐると回る。

脳がぐるぐる思考する度、源太の不安や疑問はさらに大きくなる。部外者風情がやるべきことではないのだろうが、人混みを避け、悲鳴が聞こえてくる方まで行こうとした。

「アッ…待って!お兄さん…!」

源太を静止しようとする桃太の声は少し小さくて弱弱しかった。

源太が人混みをかき分けて悲鳴の上がる方に向かうと、そこには古くなった家があり、縁側が開けられて、家の中の様子がまるわかりだった。

「…な…なんじゃ…あれ…」

思わず冷や汗をかいて声を漏らす。縁側から見える家の中では、少し皺をこしらえた中年女性が布団の上でバタバタと苦しそうにのたうち回っていた。その様子は非常に痛々しく、目を閉じたくて仕方なかった。

「痛い…痛い…!!」

「お、落ち着け落ち着け…!お医者様!お医者様はまだ来ないのか!」

一体どれほどの激痛なのだろうか…それ以外が何も喋れなくなったみたいに、声を枯らしながらそう訴える女性の体は歪に曲がって見えて、悪くいってしまえば、獣の様だった。

「隣ん畑の奥さん、やっぱり…」

「病気にかかってらっせたんやね…」

「いかんいかん、すぐ消毒せんと…」

「お医者様は…まだ来んのか…奥さん可哀そうにな…」

村の人々の反応は十人十色だが、大抵の話には「病」というキーワードが入っていることに気が付いた。病、この女性はなんらかの病に伏せ、こうなっているのだ。

(…恐ろしい…こんな病…聞いたこともみたこともない)

ゾワッと背筋が凍るような感覚が伝う。どうしたらそんな病にかかるのかは分からないが、もしかしたら、自分も…

(あぁなってしまうかもしれない)

「お医者様が来たぞ!そこどけ!!」

力強い農夫の声が響くとざわざわとしていた話し声は少し小さくなり、焦るような医療関係者の足音が大きくなってくる。

医者が来たのかとそちらの方を向こうとしたが、その前にきゅっと袖を引かれる感覚がして、体が止まった

「…お兄さん…あっち、行こ」

あぁ、不安だったのだろう。桃太は目にうっすら涙を溜めて、こちらの袖をぎゅっと掴んでいる。

ハッとした気分になって、桃太を連れ人混みの外へ行く。自分としたことが、好奇心で勝手なことをして桃太を困らせてしまった

「ごめんな」

慌てて口から零れたのは桃太への謝罪だった。外から来た部外者であり、桃太より年上で、保護者のような立場で今まで行動していたんだ、この行動は明らかに良くなかった。

「…お兄さんも…怖かった?」

「…」

言葉は出てこなかった。

正直怖い。見ただけで体の節々が痛くなるようなあの姿を見てしまったら、恐怖する以外の何物でもない。だがしかし、ここで怖くなかったと言ってしまえばかっこが悪い。

それに恐らく、桃太が求めている答えは「怖くなかった」なのだ。きっとあの病気と桃太、いや、あの病気と四日村は何かしらの繋がりがある。だからこそ、桃太は「怖くなかった」という言葉を欲しがっているのではないか?

深読みするべきなのか、正直に言ってしまえばいいのか分からない。正解が、分からない。

「…分からん」

今はそう答えるだけで精一杯な気がした。

四日村…源太達がポータルを使い訪れた田舎の農村。山に囲まれ、草木が生い茂っているが、大きな川が流れ水源は豊かである。


八日街…四日村の隣町。記憶フィルムの映像から察するに、四日村と比べ都会である。隣町といっても四日村からはそこそこ距離があるらしい。


栄誉桜…四日村の開けた地に聳え立っている、水色の巨大な桜の木。四日村の名物で、この世に1本しかない。


銀牙山…四日村の中でも特に高い山で、てっぺんには見方によって煙突の本数が変わる不思議な工場が経っている。桃太曰く、誰かの所有地らしい。


天ノ川…銀牙山のてっぺんから四日村の最端に至るまでの距離を流れている川。四日村にとって大切な水源であり、住民たちにとっても親しみ深い川でもある。


桃太…記憶フィルムに移っていたいじめ被害者の少年。元気が良く明るい性格で、最初こそ疑っていたが源太にも優しい。地元である四日村のことが大好き。

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