最初の記憶フィルム
一章、四日村の栄誉桜がスタートします。作中に出てくるものや人は、補足も踏まえ後書きに記載します。
作中で地名や物の名前が色々出てきますが、全て実話を参考に作ったフィクションです。
ー1960年代の記憶フィルム
少し古臭さの残る学校の校舎裏、ひ弱そうな少年は意地悪そうな顔をした集団に囲まれていた。
「お前もう学校くんなよ!」
意地悪そうな顔をした一人、裕福で所謂ガキ大将っぽい顔をした少年が、ひ弱そうな少年に向かって石を投げる。
「痛いっ…やめて…なんでそんなこと言うの…」
「学校から出てけ~」
ケラケラと少年少女の笑い声が校舎裏に響く。ひ弱な少年は今にも泣きだしそうだった。
「ばい菌はあっちいけ!」
「帰れ帰れ~!」
「っ…うわぁぁぁん!」
ついに少年は泣き出して、走って学校を去っていった。
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「…これが記憶フィルムですか」
ふぅと肩の力を抜いてフィルムから顔を上げる。
アリスに急かされ確認した記憶フィルムの内容は、典型的ないじめの現場であった。
「この少年をいじめから助けろと?」
「そうなのじゃが、どうもこの問題は、少年のいじめどうこう以外にももっと大きな問題が絡んでいるようなのじゃ」
「もっと大きな問題…」
「その問題が何なのかも含めて、解明して解決するのじゃ!」
「はぁ…大変そうじゃ…」
正直、人助けを出来る気がしない。神様が解決を求めるくらいには重大な問題なんだろう、タイムスリップしたと言っても自分は一般人。何なら現代のことも、さっきの記憶フィルムに移っていた1960年代の事すら分からないのだ。
(ホントに手伝いなんて出来るのか…?)
でも頼まれてしまったことには仕方あるまい。きっと失敗して解決出来なければ、アリスも失望して、自分に手伝わせることを諦めるだろう。それはそれでいいじゃないか。
「…やるなら早う行きましょ」
「よし来た!じゃぁじゃぁ…」
アリスは立ち上がり、フローリングの床に指で何かをなぞって行く。なぞられた部分は黒が混じったような虹色に発行して、黒魔術でもしているかのような文様が浮かんできた。
「ほれ!!」
いつの間にかフローリングの上には謎のポータルが浮かび上がって、怪しげな雰囲気を放っていた。
「神様ってのはようわからんなぁ」
「ここ一カ月で思ったのじゃが、案外汝は神の力に驚かんの…」
「そうですか?」
アリスは軽く服や荷物を整えてから、ゆっくりと僕の背中を押してポータルの真ん前まで連れてきた。
「このポータルに触れれば、先ほどの記憶フィルムの出来事が起こった場所までタイムスリップできるぞ」
「一応聞きますけど…人体に影響はないですよね?」
「そこは安心するのじゃ。汝安全は私が保証しよう」
「…その言葉信じてますからね…」
恐る恐るポータルに触れる。指先に不思議な感覚が伝い、ポータルに体が飲まれていくと、水の中に落ちていくような感覚がして、自然に目を瞑っていった。
ー1960年代
日本は高度経済成長によって大きく発展し、インフラ設備が向上。オリンピックが開かれ、生活はとても豊かになっていた。
街の様子は現代に近づく一方、貧富の差は広がって、工業の進化に飲まれて苦しむ人々もいた時代でもある。
そんな時代の中、源太達が降り立った場所は、自然豊かな田舎の村であった。
「…村…記憶フィルムで見た景色とは全然違うな…」
「そうじゃな…う~む…じゃが別に転送に失敗したわけでもあるまいし…ここは何処なのじゃ…」
キョロキョロと周りを見渡す。当たり一万雑草が生え虫や小さな哺乳類たちが歩き回っているここは、どうやらここは、村の中でも入口のような場所であるようだった。
「村の方へ行ってみようぞ、何か見つかるかもしれん」
「確かに…分かりました」
源太とアリスは村の方へ足を進める。見れば見るほどここは田舎で、当然源太の生きた時代よりは良い暮らしをしているかのように見えたが、それでも時代の進化の流れを感じず、ちょっとだけ寂しいような雰囲気がした。村には大きな川が流れており、それに沿う形で沢山の田畑や家々が並んでいる。
「…おぉ…」
少し歩いてみると、急に開けた叢に出た。そこで源太が目にしたものは、まるで現実の物とは思えない驚きの物であった。
思わず声を上げ、何度も目をこする
「な…なんじゃぁあれは…?」
「…水色の…桜…?」
源太とアリスが見たもの、それは水色の大きな桜の木であった。その桜の木は、川に挟まれた向こう岸に聳え立っており、花の一枚一枚確かに水色をした、不気味にも思える大樹だった。
「…本当に桜…なのか?別の花じゃ…」
「じゃがこの花…桜としか思えんぞ」
「どうするんですか…まさかこれ、何かおかしい世界に飛んでしまったんじゃ…」
「お兄さんこんなところで何してるの?」
急に背後から声がして、びっくりして肩をビクつかせてから、勢いよく後ろをふり向いた。ふり向いた先に立っていたのは、絆創膏だらけだが元気が良さそうな小学生ぐらいに見える少年だった。
少年の姿には見覚えがある。確かこの少年は、あの記憶フィルムでみた、ひ弱そうな少年のはずだ。
「われ…記憶フィルムの…」
「お兄さん外から来た人でしょ…何しに来たの?」
じっと目を細めて怪しんで居そうな顔をしながら、少年はこちらを観察している。やはり場所によってはよそ者をよく思わない場所もあるだろう。正直怪しまれても仕方のないことだ。元よりこの時代でも浮いている格好に、よそから来た人であること、疑わしい証拠は出そろっている。
「あー…えっと…気ままに歩いてたらここに辿り着いて…」
どう答えるべきか迷い、とっさに出た言い訳がそれだった。きっとすぐばれて、ここを追い返されるに違いない。でも追い返されると困る、何とか言い訳をして回避しなければ
「…綺麗な桜だったから、つい見とれてたんだ」
「ふ~ん…よくここまで来たねお兄さん…もしかして、県外から来た人?」
「…まぁそうだね…県外からここに…」
「そっか…えへへ…綺麗だよね、この桜!」
案外単純なのか、段々こちらへの警戒心が無くなってきたのがなんとなく伝わる。少し離れていた少年は元気そうにこちらのすぐ近くまでやってきた。
(…出来るだけ怪しまれないように…話をそらさんと)
「これねこれね、【栄誉桜】って言うんだ!」
少年は宝物を自慢するかのようにその桜を指さして、笑顔でそう言った。栄誉桜、恐らく水色をしたこの桜の名前なのだろう。
「栄誉桜…」
「そう!ここ四日村の名物で、皆そう呼んでるんだ~」
「四日村?」
「この村の名前だよ」
見渡す限り自然が広がる田舎の農村、ここの名前は四日村と言うらしい。自分には全く聞き覚えが無い為、恐らく元々自分が住んでいた場所とはずっと離れたところにあるのだろう。
「…四日村には栄誉桜以外にも有名なものはあるのかい?」
「うん!たくさんあるよ!」
「なら、どんなものがあるか教えてくれないかな?」
「もちろん!じゃぁじゃぁ、ついてきて!」
少年は元気よく雑草の上を駆け出してゆく。なんとなくその姿を見ていると懐かしいような、虚しいような気がして心が一瞬ジンと沈むような感じがしたが、弟を見ているような和やかな気持ちが僅かに勝ち、ゆっくりではあるが少年を追いかけ始めた。
「汝、中々捜査が上手いのぉ…これで少年について行って、あのフィルムに移っていた問題を探す気なのじゃな?」
「いやぁ別にそういうつもりだったわけじゃないんですがね…」
「お兄さん早く早く!日が沈んじゃうよ~!」
「おうおう…そういえばわれ、名前は?」
「われ…?」
「あー…君、君の名前は?」
「ボク?ボクは桃太!桃太だよ!…お兄さんは?名前なにー?」
駆け出した少し先でこちらを振り向き元気よく名前を教えてくれた。ひ弱な少年改め桃太君は、見たところ地元である四日村のことが好きな元気のいい普通の男の子みたいだ。
(…こんな少年がいじめを受けているとは考えられんな…どうしてあんなことになっていたんじゃ?)
「おに―さーん?」
「んぁ…僕は源太、中村源太だ。こっちの女の人は…」
「…女の人?」
「ん?」
アリスを指さして説明しようかと思ったが、何故か桃太は困惑したように首を傾げた。するとアリスはくすりと笑ってこちらを向く
「私の姿は汝以外には見えておらんぞ。幽霊や妖怪と同じように、特別な人間にしか私の姿は見えんのじゃ」
「…ぁあそういう…やっぱなんでもない」
「そっか…まぁいいや!早くついてきて!源太お兄さん!」
「…おう、すぐ行くからな」
桃太を追いかけ雑草の道を行く。源太達の後ろでざわざわと風に揺れ、水色の花を散らす栄誉桜の姿は、まるで村を思い涙を流す守り神の様であった。
四日村…源太達がポータルを使い訪れた田舎の農村。山に囲まれ、草木が生い茂っているが、大きな川が流れ水源は豊かである。
栄誉桜…四日村の開けた地に聳え立っている、水色の巨大な桜の木。四日村の名物で、この世に1本しかない。
桃太…記憶フィルムに移っていたいじめ被害者の少年。元気が良く明るい性格で、最初こそ疑っていたが源太にも優しい。地元である四日村のことが大好き。




