第七十七話 アーシャ、失敗する
大した時間待つ事もなく、大きな猛禽が羽音を響かせて現れる。肉眼でも大きな鳥だとわかるほど大きい。つまりあの上空であれだけの大きさで見えるという事は、その実際の大きさが、洒落にならないという事だ。
それはなるほど、魔物の一種と呼ばれてもおかしくない。
肉食で、食い殺される可能性もある事に納得だ。
その大きな猛禽は、数回神殿の上空を旋回し、肉を見つけたのだろう。羽音がやむ。
そしてそのまま、物凄い速度で、急降下して肉目がけて来る。
今しかない!
おいらはその時、猛禽が肉を掴んだ瞬間に、猛禽の足に飛び乗った。
がっちりと肉を掴むその足に、おいらは命綱を留める。
ディアノン様は乗れたっぺか?
周囲を見回してみると、同じ鳥には乗り損ねたらしい。
ここから単独行動か……と思いつつ、おいらはゴーグルで保護された視界で、物凄い速度の猛禽から、落とされないように、命綱を握り締め、猛禽に気付かれないように、歯を食いしばって悲鳴を押し殺した。
びゅうびゅうと耳を切り落とさんばかりの風が吹いている。遠く見えていた北の魔の山が、あまりにも近くに見えるから、おいらは大神官さんが、超短縮できる、といった事が事実だと知った。
しかし、この風の勢いは並ではない。風の風圧はすごいし、耳は切り飛ばされそうだし、何より寒さで手がカチカチに凍えそうだ。
おいらの手足、壊死しない? という事が気になってしょうがなくなる寒さだ。
なるほど、荒っぽい方法である。
さらに、大神官さんたちが、おいらに皮の手袋とかを勧める理由もさもありなんだっぺ。
そんな事を考えていると、だんだん山の岩肌が近付いてくる。
そこには……何かでかいひなが見える。
あそこが巣なのか、じゃあ巣に入ったらすぐ逃げ出さないと、そのまま食われてしまうっぺ。
……こんな命からがらな感じは、ずいぶんと久しぶりだ。
そうだ、この感じは……
「魔王を倒すために、旅してた時に、魔物の巣穴に落ちた時以来だっぺな……」
あの時は皆で死に物狂いで逃げ出したわけだ。あの時めちゃくちゃがんばって、しんがりを務めて、何とか皆生きている状態で、巣穴から脱出したっぺな、懐かしい。
その時の仲間たちは、今はもう、偽物の勇者にさえいらない物扱いされて、居る。
そう思うと、なんだか運命という物の不思議ささえ感じた。
おいらより、何でも恵まれていた彼女たちが、そんな事になるって、人生何が起きるかわからない。
「皆腕利きだったのになあ……」
誰だって正確には多少難があるものだ。おいらだって結構頑固で人のいう事聞かないし、やみくもに突っ走ったりしている自覚は……あるのだ。
あるけど直らない物、それが個性という奴である。仕方がないと言ってくれ。
さて、もう巣穴が目の前に迫ってきている。そこではふわっふわな猛禽のひなが、ぴいぴいどころか、ぎゃあぎゃあと怪獣のような鳴き声を上げて、餌を待っている。
あの日なの中に落っことされたら、そのまま丸呑みされちまうっぺよ……
そんな未来が想像できたため、おいらはせーの、という勢いとともに、命綱を外して、着地をする事に決めた。
巣は目の前だ。さん、にい、いち……
「せいっ!!」
おいらは気合を入れて飛び降りた。飛び降りたのに、そこでおいらは目算が間違っていた事に気付いて、血の気が引いた。
まずい、ひなの大きさで崖との目算が狂ったっぺ! このままじゃ地面に向って真っ逆さまだ!
足一本分の距離が足りない。おいらは飛び移ろうとした場所が、どんどん視界の上に上がっていくから、自分がそこよりも落下しているとわかる。
なんとかしないと、なんとかしないと、なんとかしないと!
落ちて死ぬ!!!!!!
でたらめに腕を伸ばしても、岩肌に指がかからない。体は落下していく一方だ。
本格的に、まずいとしか言いようがない、なにか、何か、何か!!
おいらはそのまま宙を舞い……ばきん、と枝にぶつかった。そのまま色々な枝をばきばきと折っていき、ぼすん、という何かとぶつかった音とともに、意識を失った。




