↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/85

第二十七話 アーシャ、謎の女性として推測される

きっとやってこないだろう、とスーズさんは判断していそうだ。だから慰めのようにそういうのだが、その根拠は何だろう。


「スーズさんはどうして、その人がまた参加しないって思うっぺ?」


「昨日の時点で、殿下がここまで心を奪われたのに、その女性が名前も素性も、何も教えていないからですよ。きっと身分の事を良くわきまえた、田舎の女性だったのではないか、と考えた結果ですよ」


おいら、確かにご婦人方からも、身の程を知っていてよかった、みたいな事言われたっぺな。

もしかして、ディアノン様と仲良くしていたら、誰も助けてくれなかったのでは?

ああ、なら、あの時名前も何も言わないで、興味ないですっていう姿勢を貫いてよかった。

変な揉め事は避けたいっぺ。

おいらはそう思うと、丹茶にお乳を足して、お茶菓子を一つつまんだ。

バターがたっぷりなそのお菓子は、昨日のパーティーで出されなかった残り物だ。

しかし昨日の残りものだから捨てるなんて事は起きない。食料は大事な物なのだから。

今日はそのお菓子に、シロップがたっぷりしみていて、甘くて甘くて、心底美味しい幸せの味がした。



翌日である今日も、ディアノン様のお気に入りの女性を見つけ出すべく、国中の若い娘を集めたお見合いパーティーは行われるものの、本日、おいらは真面目に物置の片付けをする予定である。

何故かって、そりゃあ、昨日綺麗に変身できたから、うれしくってさぼってしまったからだ。

だから今日は、真面目に仕事をするのである。

今日のパーティは昼間から行われていて、おいらは今日一日は、ディアノン様のもとに行く事も出来ない。

夜じゃないのに……と思うのだが、昼間のパーティでも、おいらみたいなのがちょろちょろしているのは、望ましくないんだそうな。

と、いうわけで、おいらは物置の中で、スーズさんに渡された紙の中に書かれている、たくさんの品物を一つ一つ、そこにあるかどうか確認して、危なそうな物とそうでなさそうな物に分けて、という作業を日がな一日行う事が決定していた。

本当は、麗しの鏡の立て掛けられた場所に近付いて、昨日の事を話したい。

だがそれはだめだ。

麗しの鏡の所に行ったら話しかけられて、きっと、長い時間お喋りしてしまうから、作業がひと段落したら、お礼を言うのである。

年相応の女の子の姿になった事は、すごくうれしかったし、あんな風になれたらいいな、と思う夢を見せてもらえたのだ。

予想していなかったけれども、お見合いパーティーの会場に入って、年相応の扱いを体験した事も、なかなかおいらにとっては、貴重な事だったわけだし。

何度も言うようだが、お礼を言わないわけがない。

だがそれは、きちんと仕事を一段落させてからというわけだ。

そしてお城の鐘がお昼ご飯の時間を告げたから、おいらは厨房で手に入れたパンとハム、それから野菜を挟んだ物に、熱い丹茶を片手に、麗しの鏡の立てかけられている所に向かった。

鏡が移動する事があるわけないので、麗しの鏡は、今日もそこで、昨日おいらがかけた布をかぶせられていた。

おいらがその布をめくると、途端に、麗しの鏡が喋りだした。


「ああ、今日も来てくれたんだ!」


麗しの鏡は元気だった。人の見た目を変えてみせるなんて、結構力を使いそうなのに、麗しの鏡の声は、全くくたびれた様子がなかった。

それどころか、かなり興奮しているようにも聞こえる。


「どうだった、綺麗な女の子になった感想は」


やっぱり、自分が変身させた後の事が、気になるんだろう。麗しの鏡が聞いてくる。

おいらは一つ頷いてから答えた。


「年相応って素晴らしいな、って思ったっぺな。皆お子様だから、なんて言わないんだ。いつも子供だから、って扱いだったから、とっても新鮮だった。ありがとう。一日だけでもあんな体験ができて、すごくうれしかったっぺよ!」


おいらは本当にうれしかったので、正直に答えると、麗しの鏡が、吐く息はなさそうなのに、安堵したように息を吐きだす音を立てた。


「それはよかった、うれしいって言ってもらえるのが一番幸せ。変身させたかいがある。でもなんか大変だったみたいだね」


おいらの顔を見て何を判断したんだろう。妙に鋭い麗しの鏡である。

誤魔化したって意味がなさそうなので、おいらは答えた。


「お散歩がしたかったのに、お見合いパーティーに連れて行かれちゃったんだ」


「ああ、大広間の鏡から大体見ていたよ」


その発言を聞いて、おいらは恐る恐る問いかけた。


「他の鏡に映っている物も、麗しの鏡は見られるんだっぺか……?」


それってのぞき見し放題だってやつじゃないっぺか?

そんな離れ業が出来る鏡だったっぺか?

大魔法使いの作った鏡って、皆そんなすごいんだっぺか……?

おいらが心の中で戦いていると、麗しの鏡が、あっけらかんと答えてくれた。

秘密にする能力でもないらしい。


「できるよ! 最近は女の子に出会えないから眠ってばかりだったけれど、他の鏡に映っている物を、自分の体に映す事も、自分だけ見る事も自由自在だよ」


……改めてだ、大魔法使いの作った鏡ってすごいっぺな。

そんな風に、驚きが一周まわって、感心しながら、パンをかじっていると、麗しの鏡がこう言って来た。


「パーティには出たくないんだ? 今まで映してきた女の子たちは、パーティに出てなんぼって感じだったけれど」


「性に合わないっぺな」


おいらは断言した。きらきらした素敵な世界は、あこがれて、遠くで眺めているのが一番楽しいと思ったのだ。

実際に参加して、知らない男の人たちに、踊らないかって誘われるのは、あんまり楽しい事じゃない。

ご婦人方にも言われた通り、おいら、断り方知らねえし。


「でもパーティは見たくない?」


「そりゃあ、見るだけなら楽しいっぺな」


華やかな物を、無関係にみられるのは楽しいものだ。無関係だからこそ、他人の恋愛も楽しく見物できる物だろう。

参加者は何かと苦労するものだと、いっぺんでおいらは学習したわけだ。

同時に、それに三日間も付き合わされるディアノン様は、可哀想だと同情する。

しかし王妃様の肝入りのパーティだから、逃げ出すわけにもいかないだろうし、ディアノン様は、それもお勤めの一つなわけである。

そんな気持ちで答えると、麗しの鏡がこう持ち掛けてきた。


「じゃあ、今夜も行われるお見合いパーティー、映してあげるから、今日もここにおいでよ」


「……なんで麗しの鏡はそんなに親切なんだっぺ?」


裏でもあるんじゃないかと疑ったおいらに、麗しの鏡はこう言った。


「君が久しぶりに会った女の子だからだね」


そんなものなのか。きっと麗しの鏡からしてみれば、そんなものなんだろうと、おいらは納得する事にした。あまり深く考えて疑っても、意味がなさそうだったから。

今日の夜もまたここに来る、という約束をして、おいらは一度部屋に戻った。

部屋に戻った時、疲れ果てたディアノン様が、スーズさんを連れて戻ってきた。

ちょうどそういう時間だったのだろう。昼間のパーティと夜のパーティでは、着る衣装のマナーとかも全然違うって、西の国にいた時に聞いた気がする。

そしてそう言ったマナーは、どこの国でも共通していそうだ。


「ディアノン様、大丈夫だっぺか?」


ぐったりと長椅子に寝転んだディアノン様は、ちょっとつつけばそのままぺしゃんこになってしまいそうなほど、くたびれているようにおいらの目には映った。

大丈夫じゃなさそうだっぺ。


「何故あんなに女性という物は、王子という物に目の色を変えて近寄って来るんだ……」


「王子様という物の運命ですよ、殿下。王子様という物に、女性という物は弱い傾向があるのです」


「昨日の娘は、王子だとわかっていても逃げ出したぞ……」


「それはその娘が、よほど夢を見ないからでしょう。しかし、それほどの田舎の娘であれば、一生分の土産話として、本日の夜も、パーティに参加するでしょう。昨日とは趣向を変えている、と王妃様がおっしゃいましたからね」


「趣向なんて変えなくていいから、三日も続けてくれるな……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。