第二十三話 アーシャ、呪いの鏡と会話する
とにかく、ディアノン様の気が変わる前に、と王妃様はせっかちな部分を見せたけれども、パーティの準備には何かと時間がかかるもの。
まして国中の年頃の娘を招く、という前代未聞の大規模な物であるから、一週間は準備に時間がかかる事になった。
そのための予算とかはどうなってんだ、と思う部分はあるものの、何と王妃様、意地でもディアノン様のお見合いをするためという理由で、結構な金額を稼いでいたらしい。
なんでも高利貸しにお金を貸し、儲けていたそうだ。
自分でも稼ぐ王族ってすごいな……と思う物の、これが海の国では普通の事のようで、ディアノン様は自分の統治する街の税金を活動資金にしているし、王妃様程度の事はおかしな事でも何でもないらしい。
王族って結構稼ぐの大変なんだな、と思ったのは内緒だ。
さてそんな風に、お見合いパーティーの準備が進む中、おいらは信じられない事を聞いた。
「え、おいらはパーティに出ちゃいけないんだっぺか!?」
「お前は子供だろう。子供がお見合いパーティーなんていう物に顔を出してはいけない。他の子供は寝ている時間なんだ」
おいらは実年齢を信じてもらえない。
それがここでも現れていて、おいらはお子様に見えるから、夜中まで続くお見合いパーティーで、ディアノン様の護衛が出来ないらしいのだ。
「そんな事ないっぺよ! おいらこの前の宴には出たっぺ!」
「あれはお前が主役だからだ。いいか、お子様が夜更かしをするなんて、背丈が伸びないぞ」
もうすでにお年頃の年齢だし、背丈とかに関してはまだ希望を持ちたいのも事実だ。
おいらがそれでも地団太踏むと、ディアノン様はふむ、といった。
「そんなに夜更かしがしたいのか」
「ディアノン様の護衛がしたい! お仕事だっぺよ!」
「アーシャ、お前は確かに腕っぷしの確かな護衛ではある。だが俺の外聞もあるのだ。俺が年端も行かない子供を、夜中まで延々と連れまわしていたら、悪い意味での噂しかでてこないだろう。それに、王室が、子供まで使うほど人員が足りないと思われるのは、父上にとっても不快だ。つまりお見合いパーティーで父上と母上の機嫌を損ねる事になる。それだけは避けたい」
「うぎぎぎぎ……」
こう言われたらぐうの音も出ない、反論が思いつかない。
確かにお子様はやってこない夜会という物に、見た目が子供……14歳くらい? と信じたい……な奴が王子様の周りをちょろちょろしていたら、可哀想に、こんな夜まで働かされて、と思われる。
イカ釣り漁のお手伝いとはわけが違うのだ。あれはおいらが稼がなきゃならないって知っている皆様と、利害が一致したからやったわけで、そんな毎回は連れて行ってもらえなかった。朝っぱらの仕分けは、結構呼び出されたけれども、それとこれとは違うのだ。
まさか護衛なのに、見た目が子供だからって理由で、仕事ができないなんて! 想定外だっぺよ!
おいらがぎりぎりと歯ぎしりをしそうになると、ディアノン様はいい事を思い付いた、という声で言った。
「そんなに夜更かしがしたいお年頃なら、ちょうどいい。俺の相続した物置部屋を片付けてもらおう」
「物置部屋って、おいら護衛なんだけど」
「スーズには触らせられない理由があってな。三代前の王子の時代から積み重なった、古いものが積みあがっている物置部屋を、父上から押し付け……譲られたのだが、これの片付けに人を使えなくてな、困っていたんだ。そんなに夜更かしみたいな事がしたいなら、この物置を片付けてくれ」
おいらはじっとディアノン様を睨んだ物の、おいらの眼光なんて大した事はないらしい。
スーズさんも止めない。
「よかった。私は魔法の波動を強く受けすぎるため、あの物置に近寄るとそれだけで、倒れてしまうんですよ」
にこにこと嬉しそうなスーズさん。おいらはそれまで、スーズさんがそんな敏感な体質だとは知らなかったから、結構同情した。
魔力とか魔法の波動の影響を受けやすい、敏感な体質の人というのは一定数いて、彼ら彼女らは、あまり外に出かける生活が出来ない。
魔力に対して過敏なら、なるほど、スーズさんがおいらにいちいち、外に出る用事を言いつけるわけだった。確かに、廊下で倒れたら問題だっぺな……
「わかったべ」
おいらはそのため、色々考えて、ちょっと不貞腐れた声になった物の、同意した。
さて、ディアノン様のお嫁様を探すというパーティーの御触れで、町というか、国中が大騒ぎになったのは間違いなかった。
街の先生の家に一度顔を出した時も、若い娘たちが着飾るための布を買ったり飾りを買ったりと大騒ぎらしいし、お貴族様のお嬢さま方は、新しい、自分に相応しい衣装とか髪飾りとか化粧品とかを、大枚をはたいて手に入れているそうなのだ。
おいらは知り合いたちが、儲かりまくっているというから、そうなんだっぺな……と聞いている身の上だ。
「ねえ、ディアノン王子様は、どんな女性がお好みかしら」
「かかわってこない相手だっぺな。あの人女性苦手らしいっぺ」
「もう、せっかく護衛になったから聞いたのに、何の役にも立たないのね!」
なんていう風に、飾り物のお店にやってきていた知り合いに言われるくらい、皆ディアノン様のお后様の座を射止めたいらしい。
確かに玉の輿だっぺけど、ディアノン様がまず、女性と関わりたくない姿勢だからな……
おいらは難しいものだ、と思ってしまう。
さてそんな、浮ついた一週間が終わり、おいらは物置の片付けに取り掛かる事になった。
子供に見えるという事が、こんなに悔やまれる日はない。
それは置いておいて、おいらは目録の物と一致するものがあるかどうかの、確認から始める事になった。
だいたいの物は、どんな物かも説明がついているから、確認は結構簡単だった。
しかし……
「魔獣の毒腺付きネックレスとか、こすると呪いが発動するランプとか……変なものばっかりあるっぺなあ……」
なんとこの物置、がらくたというにはやや危険な、しかし値打ちものかと言われたら首をかしげてしまう、変な物で一杯だった。
水が満たされない水差しとか、意味あるんだっぺな……? と思う変なものも多い。
それらをいちいち確認し、並べ直していた時だ。
おいらは、おいらよりもやや大きな、姿見みたいなものを発見した。
しかしこの姿見、曇りに曇っておいらの姿は映らない。
おいらはさっそく、この鏡が何と目録にあるか、確認した。
「ええと……詐欺の鏡? なんだっぺこれ」
「誰が詐欺だ! 訂正を要求する!」
目録によると、この姿見は、映した人の望みの通りの美しい姿を見せて、あなたはこの姿になれる、という事を言う鏡らしい。だが誰一人その美しい姿になった令嬢はいないため、呪いの鏡として王宮預かりになったらしい。
また変なものだっぺなと思って、顔をあげた時だ。
おいらは気付いたのだ。今誰か喋らなかったっぺ?
「喋る物なんて目録にあったっぺか……」
「目の前、目の前! 無視するな!」
おいらは沈黙した。詐欺の鏡という名前の鏡から、声がしたのだ。
「……喋った?」
おいらは恐る恐る声をかけて見た。正直に言おう、目録の確認に飽きていたという理由もある。
それに、おいらはこの鏡がどんなものかわかっているから、被害にも合わないだろう、と思ったのだ。
「喋った、意思疎通ができる! ひゃっほう! 女の子だ! 磨き甲斐のある女の子だ!!」
の上部に顔が浮かび上がり、その顔が嬉しそうに喋りだしたのだ。
「長年待ってた! 初めまして! 僕は麗しの鏡というんだ!」
「目録には詐欺の鏡って書いてあるっぺ」
「それが間違い! 僕は麗しの鏡! 存在理由は女の子を綺麗にする事! 造り主が、女の子は皆綺麗になる資格があるから作ったんだ!」
「はあ……?」
話がよく分からなかったものの、麗しの鏡はそれに気が付いたらしい。
鏡なのに咳払いして、こう言った。
「久しぶりの女の子過ぎて、興奮しすぎた……ごめんね? わけわからなかったでしょ」
「え、うん」
「僕は、魔法使いが、女の子を綺麗にするために作った鏡なんだ。だから僕は、僕に映った女の子たちが、努力すればこんなにきれいになる、っていう姿を見せていたんだけど」
「見せていたんだけど?」
「誰も努力してくれないで、この鏡に映った姿にならないって怒っちゃって。僕はちゃんと、ご飯は食べ過ぎちゃいけませんとか、夜更かしは美肌の敵だとか、教えてたんだけど……誰も聞かないで、こんな綺麗になれるんだからとか言って、甘い物ばっかり食べたり、玉の輿に乗るんだって言って夜更かし三昧したりで、ちっとも努力してくれなくて」
「甘いものばっかりは虫歯になるっぺよ」
「そうそう。虫歯で変色した歯になった子もいる。夜更かし三昧でニキビだらけの顔になった子もいる」
「なんというか……鏡さん悪くないっぺな……」
深くため息をついた鏡だが、おいらが同情的だからか、嬉しそうな空気になる。
「そう言ってくれてうれしい。ねえねえ、試しに、君が努力すれば手に入る理想の自分、見たくない?」
「そんな事もできるっぺか! 見たいみたい!」
見るだけなら平気だろう。おいらはそれに騙されない。
身を乗り出すと、麗しの鏡が問いかけて来る。
「じゃあ、どんなのが理想?」
「まず年齢通りに見える事、おいら十七歳なんだ。それから、髪の毛も綺麗に腰くらいまであるのを、伸ばして結って……綺麗なお衣装着たいっぺな!」
「わあ、いいねえ、じゃあ行くよ!」
麗しの鏡ははしゃいだ声をあげて、ぱあっと鏡の部分が輝く。
そしてその光が消えた後、鏡に映っていたおいらは、なるほど、美人だった母さんによく似た女の子だった。
「わあ……こうなるの憧れだったっぺ……母さん綺麗だったから……」
「気に入った? よかったら、その姿のまま、あちこち歩き回るのもできるよ」
「そんなまやかしが出来るっぺか?」
それって相当高等な術だと思ったんだが、麗しの鏡はうれしそうだ。久しぶりに力を使ったのがよっぽど嬉しいのだろう。
「真夜中までの時間制限があるけどね。日付をまたぐまでは術を維持できるよ! 君も年齢通りに扱ってもらっても、いいかと思ってさ!」
「ありがとう! じゃあちょっとあちこち歩き回るっぺよ!」
おいらは別に、みすぼらしい恰好が好きなわけでも、子供扱いが好きなわけでも、男の子扱いで十分だと思っているわけでもない。
ただ、女の子らしい綺麗なおべべは、背丈も体形も合わないから着られないだけだし、子供扱いはいつも不利だし、男の子扱いだともう、近所の餓鬼んちょ扱いの時もあるから、年相応の、綺麗なおべべの女の子になれるなんて、夢みたいだった。
だから浮かれて、おいらは誰ともすれ違わなかったから、パーティー会場となっている大広間近くの、庭園まで歩いていた。
庭園の噴水とかに映る自分は、母さんに似た綺麗な女の子で、それだけでうれしかったんだが……
「お嬢さん、迷子になりましたか? パーティー会場はあちらですよ」
「ええ、っと……?」
通りがかった見回りの兵士さんに、抵抗する暇も逃げ出す暇もなく、パーティー会場まで連れていかれてしまった。




