第21話:居場所
タワーが完成すると猫たちは、順番に登り始めた。最初にももが一番上の台にひょいと跳び乗り、ゆずがその後ろをついて登った。檸檬は途中の穴に入って顔だけ出した。ラスクとショコラは、和也の足元から様子を窺っていたが、やがて一緒に登り始めた。あんずだけが最後まで下で見ていた。
「あんず。おいで」
ひなたが膝をついて手を差し出すと、白い体が少しだけ前へ出た。それから一段目の台に前足をかけ、慎重に登った。二段目、三段目。最後は一番上の台の端にちょこんと座り、ももとゆずのあいだに体を挟み込んだ。
「あんずが上まで行った」
「えらいね」
「みんな上にいる」
見上げると、六匹の猫が天井近くの空間に、思い思いの形で収まっていた。窓から差し込む光が、その背中に降りている。ひなたは、しばらくその景色を見ていた。
階下では、ムギと大福とミルクがその様子を見上げていた。ムギは座ったまま首をかしげ、大福は前足をタワーの根元にかけて立ち上がりかけ、ミルクはその脇でぐるぐる回っている。
ムギは短く鼻を鳴らして伏せた。自分は下で見守ると決めた顔だった。ひなたはその頭を撫でた。
「ありがとう。みんなを見ててくれて」
和也が工具箱を片付けながら言った。
「これで安心だね」
「うん」
「ひなちゃんが毎日確認するから、本当は俺の出番ないんだけど」
「そんなことないよ。和くんがいないと私は網戸も張れないし」
「そうかな」
「そうだよ」
和也が嬉しそうに顔を上げた。それからすぐに口元を隠した。ひなたはその仕草が好きだった。
夕方になって、二人は並んでソファに座り、猫たちが日だまりの終わりの光の中で、毛づくろいをするのを眺めた。ひなたは和也の肩にもたれた。ももとゆずがタワーの上で並んで眠り、檸檬が膝に乗ってきた。
「この家、ほんとに安全だね」
「うん」
「出られないし、入れない」
「入れない?」
「うん。外から変なものが」
「あ」
和也が少しだけ顔を曇らせた。
「大丈夫。危険察知は何も言ってない」
「ありがとう」
ひなたは目を閉じた。膝の上の小さな重さと肩の温もりがちょうどよかった。窓の向こうでは、浮き灯りが夕暮れの色に溶けていた。
その夜、猫たちが一匹ずつ寝床に収まるのを確かめて、ひなたは階段の上の扉をそっと閉めた。かちりと小さな音がした。
「おやすみ」
返事のかわりに小さな寝息がいくつも重なって聞こえた。ひなたは廊下の灯りを落として寝室へ向かった。




