↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傷ついた神獣と帝都の片隅の夫婦カフェ  作者: もも


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/33

第12話:プリン作り

 翌朝、一番に台所へ立ったのは和也のほうだった。


「ひなちゃんは座ってて。今日は俺が卵割る」


「プリンの卵は割り方で口当たりが変わるよ」


「じゃあ見てて」


 見ていてと言った割に、和也の手つきは危なっかしかった。ボウルの縁にこつんと当てたはずの卵が、思わぬ方向にひびを入れ、殻が白身の中に沈んでいく。


「あ」


「貸して」


 ひなたが指先で殻をすくうと、和也はばつの悪そうな顔で肩をすくめた。


「俺は食べる係でいいや」


「最初からそのつもりでしょ」


「バレてた」


 牛乳と卵と砂糖。昨夜ネットで取り寄せた材料が、作業台の上に静かに並んでいる。ひなたは小鍋で砂糖を煮詰め始めた。透明だった砂糖が縁から色づいていく。焦げる手前の一秒を、頭が先に教えてくれた。火から下ろして水を少し差すと、ぱちりと音がして甘く苦い匂いが台所いっぱいに広がった。


 足元でムギと大福とミルクが三角形に座って、鼻先だけを動かしている。けれど誰も作業台には前足をかけない。匂いに惹かれる顔をしながら、自分の器の置かれた壁際のほうを一度ちらりと見て、またひなたの手元に目を戻した。


「ごめんね。これは人間のおやつ。みんなにはあとでちゃんとあるから」


 ひなたが言うと、ムギが短く鼻を鳴らして伏せた。それを見て大福とミルクも並んで伏せた。


 蒸し器から立ちのぼる湯気を眺めながら、ひなたは思った。ホテルの厨房では毎日こうして何十個もの菓子を作っていたのに、自分のために焼いたものを誰かが待っている朝は、ずいぶん久しぶりな気がした。


 蒸し上がったプリンを粗熱が取れるまで置き、冷蔵庫に入れる。


「帰ってきたら食べられるよ」


「楽しみすぎて、出かけたくなくなってきた」


「ならやめる?」


「行く。ひなちゃんのプリンが待ってると思えば何だって歩ける」


「大げさ」


 玄関を出る前に、ひなたは犬たちを庭で遊ばせた。柵に囲われた広い芝の上を、大福がボールを追いかけて転がり、ミルクが追い越し、ムギは二匹が行き過ぎるたびに少し離れた場所から見守っている。三十分ほど走らせて水を飲ませ、疲れた体をリビングに戻すと、三匹とも日だまりに倒れ込んで動かなくなった。


 階段の上では猫たちがその様子を見下ろしている。檸檬が手すりの隙間から顔を出し、ひなたと目が合うと一度だけ瞬きをした。


「行ってくるね。すぐ戻るから」


 今度は檸檬も降りてこなかった。昨日のように足首にしがみついたりしない。ただじっと見送って、それからゆっくり尻尾を巻いた。ひなたは扉の前で一度だけ振り返ってから、二重の扉を閉めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。