第六回 異世界における探求の心得について
その後、ヒロは幾度となく【着火】の魔術をディナに披露させてはその様子を観察していた。
魔力感知によって知覚できるようになった魔力とマナの動きを日本語のメモと簡単な図解でノートに記す。自分が魔術の習得をするためというより、今はその仕組みを解剖することの方に夢中だった。
やがて音を上げたディナが癇癪を起こしながら自室に篭るのを機に、その日の授業は幕を下ろした。
そして二日目。この日のディナは朝から活動していた。
ヒロは朝食を終えると、そろそろと自室に逃げ込もうとするディナを捕まえて、さっそく授業の続きを再開させた。
前日と同様にディナの研究スペースで行われる授業に、今回はメイルゥも参加していた。二人の傍でその様子を見守っている。
「昨日の【着火】をもう一度試してみようと思う」
「あーそうかね。言っておくが私はもうやらんからね。昨日散々手本を見せてやったのだし、十分だろう」
「それは場合によるけど、とりあえず見てて」
「はー………」
ヒロは昨日と同様に【着火】の魔術を試みる。
右手にディナから借りた指し棒、左手に蝋燭が取り付けられた取っ手付きのキャンドルスタンドを持つ。
(ディナの手本を観察して魔力とマナの動きのイメージはかなり明確に掴めてきた。魔力感知ができるようになった影響なのか、今では自分の身体に流れる魔力が感じ取れる。なんとなく水を手で押し流すようなイメージをすると、その通りに魔力の流れを操ることもできるようになった。あとは手本で見た通りの動きをその要領で再現させるだけ…………のはず)
(……………よし)
指し棒を蝋燭の先端に差し向けると、息を整えて意識を集中させた。
「…………ジニレーッ!」
「おお?」
身体の中心をポンプに見立て、詠唱と同時に魔力を外側に押し出した。その魔力が身体に沿うように流れると、指し棒を伝い蝋燭の先端に向けて放たれる。
しかし、流れ出た魔力は蝋燭に届かず杖の先端付近に滞留する。魔力が滞留した位置のマナがわずかに細かく震えるが、すぐに何事もなかったように震えは収まった。
「…………あれ。イメージ通りにできたと思ったんだけどな」
ディナの手本とおおよそ同じような動きをなぞっていたはずだった。何か別の要因があるのだろうか。
原因を探ろうとしたところで、先に口を開いたのはディナだった。
「魔力操作はできるようになったみたいだがね。詠唱のタイミングが悪いようだ」
「詠唱?『ジニレ』ってやつか。そういえば確かに手本だと詠唱する前に魔力を押し出していたっけ。でもそれが何か関係あるの?」
「呪文はなにも決め言葉で詠唱しているのではない。魔術には、どんな些細なものであってもマナとそれに作用する魔力の働きを決める『術式』というものが存在している。術の用途や術式の複雑性によっては魔法陣や魔法印で表されるが、【着火】のような単純なものであれば呪文の詠唱を術式とする場合が多い」
「なるほど、呪文がその術の仕組みそのものになっていると?」
「概ねその認識でよろしい。そして、詠唱の術式は魔力の作用を決めるものであるからして、その対象となる魔力が予め存在していなければならない。でなければ術式は術者から自然に漏出している僅かな魔力に作用し、十分な出力を得られない」
「えーと、さっきのは詠唱が早かったのか。分かった」
ディナの指摘を受け、引き続き【着火】の魔術を試す。先ほどよりも手応えは感じられたが、その後何度か試しても蝋燭に火が付く気配はなかった。
「詠唱のタイミングも直したし、それ以外も手本通りにできているはずだけどな」
「………………」
ヒロが困ったようにディナに視線を向けると、最初こそ退屈げにしていたはずだった彼女は、いつしかヒロが【着火】を試す様子を神妙な面持ちで観察していた。
「……………黙ってないで何か気の利いたアドバイスちょうだいよ。教授なんでしょ」
「喧しい。今言おうとしていたところだ。………そうだね、どうもキミは勘違いをしているようだ」
「勘違い…………何を?」
「さしずめキミは私の素晴らしい魔力操作をそっくりそのまま模倣すれば【着火】が成功すると思っているのだろう。しかし残念ながらそうはならない」
「………え?」
「術にはそれぞれ適切な魔力の強さが決まっている。とりわけ【着火】のような下級魔術であれば僅かな魔力で十分だ。そのため強大な魔力を持つ大魔術師の私が【着火】を使うなら、その出力を限りなく弱めなければならない」
「しかし、無論キミはその限りではない。キミの粗末で矮小な魔力で私と同様の魔力操作をすれば、ただでさえひ弱な魔力をさらに抑えることになる。それでは【着火】の必要出力に満たない」
「………………」
「どうした。私の講釈が有り難すぎて声も出ないか?」
「いや、それ先に言ってくれればよかったんじゃ………」
「成程、責任の所在を追求するつもりか。学徒たるもの知識の探求を第一に優先すべきなのだがね。……………ともかく、これで解ったろう」
「あ、ああ。要は出力が足りていなかったってことだよね。もう一度やってみるよ」
ヒロは再び杖を構えた。
ディナの手本をそのまま再現するのではない。少ない魔力を全身からかき集め、杖の一点へ送り出すように意識する。
十分な魔力が杖先に集まったのを確かめてから、ヒロは呪文を唱えた。
「…………【着火】!」
ぽっ、と蝋燭の先端に火が灯った。
魔術が成功した。
「………………………できた」
「わああ……、ヒロさんすごいですう!ディナ様の教えがあったとはいえ、一から魔術を習得されるなんてえ!」
「ふん。この私が教えたのだ。それくらい出来てもらわなければ困る。ま、これで魔術で料理くらいはできるようになったな。良かったではないか」
「……………」
二人の反応を他所に、ヒロは自分が灯した火の揺らめきを無心で眺めていた。
奇妙な感覚だった。
魔術が使えるようになったことが嬉しいわけではない。魔術の火の揺らめきが特別不思議だったわけでもない。
今はただ、知らなかったものを理解し、それを通して一つの成果を成し遂げたというたったそれだけの事実が、不思議と心地良かった。
「ところで、今回の失敗の原因は出力不足という極めて単純なものだったわけだが、どうしてそのような間違いに至ったと思うかね?」
「え?…………いやだって、魔術なんて使ったことも見たこともなかったし、最初は勝手なんて分かるわけないでしょ」
「それは客観性のないただの言い訳に過ぎない。今回の実践過程を遡れば明白だ。キミは魔力感知で私の誉れ高き魔力操作を観察し、それを正確に模倣しようとした。しかし本来であれば魔力の存在さえ知らなかった初学者がいきなり魔力の動きの機微を事細かに捉えることは難しい。模倣するなど以ての外だ」
「えっ、そうなの?」
「つまり、キミの魔力感知が鋭敏すぎたことが今回の失敗の根幹にあると私は考えている。キミはどのくらい感知できている?」
そう言われ、ヒロは再び周囲に意識を向けた。
室内でゆっくりと流れる気配の波。床や壁、家具といったあらゆるものが発する存在感。それは一度意識を凝らすと、鋭敏に感じ取ることができる。
「えー、いろいろ…………説明が難しいくらいには」
「ふむ。であれば突然情報量が増えたのだから無理もない。魔力の細かい動きまで知覚できたばかりに、出力よりも挙動に意識を捉われたのだろう」
ディナは考察を披露してみせたが、それが冗長に感じてヒロはあまり良い気分ではなかった。
「…………術は成功したんだからよくない?」
「ハッ、浅はかだなキミは。失敗のデータは貴重な研究材料だよ」
「はあ……。失敗は成功のもとみたいな?」
「キミの世界の格言か何かかね。成功が最終目的ならばそれでよいだろうが、私からすれば失敗も成功も過程の一つに過ぎない。何かを為そうとすれば新しい知見が得られる。新しい知見は何かを為す手掛かりになる。そうした円環を巡ることで人の文明は進歩するのだよ」
「文明とかそんな大層な話をしたつもりないんですけど」
「ともかく、キミのその鋭敏な魔力感知は大変興味深い。現状ではただの素質なのか、言語習得同様の召喚魔術の副次作用なのかは判断できないが、いずれにしても研究価値のあるサンプルだということには変わりない」
「凄いですうヒロさん!価値ですって!」
「実験動物としてのね……」
* * *
その日の午後。ヒロはメイルゥと共に食材や日用品の買い出しに街へ出ていた。
【着火】の魔術を一度成功させたものの、その後の試しではまだ安定して成功させることは難しかったようだ。それでも試験までになんとか習得する目処は立ったと言っていい。一区切りついたところで、ヒロは気晴らしがてらにメイルゥの買い出しの手伝いをすることにした。
二人はメイルゥが行き付けだという商店街へ向かい、人の往来で賑わう大通りを歩いていた。
「せっかく人生初の魔術が成功したのに、本当にお祝いしなくていいんですかあ……?」
「いやいいよ。別にそういう独特な風習があるわけでもないでしょ」
「それはそうですけどお……………。あ!そういえばこの前なんかは、ディナ様が初めて自ら進んで苦手なお野菜を召し上がっていて、その時はそれはもう豪勢にお祝いしてさしあげたんですよお。やっぱり、その人にとって難しいことを成し遂げられた時は、精一杯お祝いしてさしあげたいです」
「……………ふうん」
子どもみたいだ、と小馬鹿にしてやりたい気持ちはあった。しかし、メイルゥの気持ちまでも一緒に否定するみたいになる気がして、素っ気ない相槌を打つことしかできなかった。
「それにしても、本当にすごいですよお。私も以前試しにディナ様に魔術を教えてもらったことがありましたが、その時はてんでダメでした………。私には魔術の才能はなかったようです」
「いやどう考えても教え方でしょ。昨日の最初なんて、ちょっとお手本を見せたら杖を押し付けて『ほれ、やってみたまえ』だよ?あいつにはもう少し人の気持ちを考える能力があってもいいと思うけどね」
「そ、それはそうかもしれませんが………。でも、あの日はディナ様も頑張っていらっしゃいましたよ?前の晩も遅くまで準備されていましたしい………」
「準備?あいつが?」
「は、はいい。授業に必要だから〜と空き教室から黒板を用意されたり、どう教えたら分かりやすいか〜と台本まで用意されて………………ってあれ?もしかしてこれって言わない方がよかったのでは………!?あっあわわわわわっ!」
「台本用意してあれって…………」
と言いかけたところで、もし準備をしなかったらもっと酷いことになっていたのだろうかと思うと、それ以上口にするのはやめた。
しかし、そもそもあの生意気で、傲慢で、自分のことを魔術の研究の副産物くらいにしか思っていなさそうなディナが、そんな健気なことをするとはとても考えられない。
何かの間違いじゃないかと思った。
「と、とにかくっ!ディナ様もご自分なりに頑張っていらっしゃいました。ディナ様は……………お生まれになったときから魔術の才能に恵まれていたそうです。言葉を話すより前に魔術を使いこなしていたとか。………ですから、そんな類稀な才能を持ったディナ様が人に魔術を教えるのは、そう簡単なことではなかったのだと思うのです」
「………それならまあ、そうなのかもしれないけど」
確かに自分がそれを使いこなすことと人に教えることは違うものだと思う。自分の中で完結することと、人との関わりであることの差だ。
ディナに至っては、あの様子からして人と多く関わってきたタイプではないことは明白だ。そんな彼女にとって、教えを授けたことで人を成功体験に導いたことには、何か大きな意味があるのかもしれない。その本人であるヒロが感じているよりも。
「お二人とも頑張ったんです。ですからほら、やっぱりお祝いしましょ。お祝い!」
「えぇ………」
「そうだ!私いいこと思いつきましたあ。ヒロさんの【着火】でお料理するのはどうです?ケーキを買って蝋燭に火を付けてもらうのもいいですねえ!」
「……………お断りします」
それから二人は商店街を巡った。
メイルゥはどうやら買い物に一家言あるようだ。似たような八百屋を何度も往復しては価格や鮮度を見比べたり、行き付けの精肉店の店主と他愛もない世間話を始めたかと思えばさりげなく値切ったりなどしていて、それはさながら熟練の主婦を思わせた。
ヒロはただ彼女の後について行っただけだったが、数時間に渡って続いた彼女の商店街巡りは不登校児だったヒロにとって些か過酷なものだった。
そうして買い物を終えた二人はようやく帰路に着く。その頃には日が傾いていた。
二人はそれぞれ数日分の食材を詰め込んだ紙袋を抱えていた。肉や野菜、果物が大量に入ったそれは、ヒロの男手でも堪える重さだった。
せめて手提げが欲しい。ビニール袋は少なくともこの街には存在しないようで、ヒロはほんの少しだけ元の世界に思いを馳せた。
ヒロがふと隣を歩くメイルゥを見ると、彼女は平気そうなどころか、鼻歌を響かせながら気分良さげに日暮れの帰り道を楽しんでいる。
使用人の仕事として慣れているのか、竜人だからなのか、はたまた単純に筋力で負けているのか。いずれにしてもヒロは、最低限備え持った男としてのプライドは守るべきな気がして、平気な素振りをしてみせていた。
「あ、魔法具店!そういえば、ヒロさんもアカデミーに入学されるならご自分の杖を用意しないとですねえ」
メイルゥは道すがら、通りの一角にある商店を見て呟いた。
アパートメントの一階をくり抜くようにして構えられたその店は、老舗の骨董品店のような風格を持った外観だ。
ヒロは、その軒先に掲げられた看板に目を向けた。なんのことはない。ただその看板にでかでかと書かれた文字に目を引かれ、そしてそれがたまたまヒロの識字学習による知識の浅いところにあったからだった。
「ル………ジーニ、魔法……具、…………工房?」
「……………………ええ!?」
「合ってる?」
「は、はい。合ってますけどお…………。ま、まさかもうヴェトム文字を読めるようになったのですか………?」
「いや、全然そんなんじゃなくて。たまたま読めそうだったから……………あ、あっちのもいけそう。えっと、なんだっけあれ。シ………、ルース…………?魔導………書……店」
「あ、あわわわわわわ」
「へー。なんか、この辺ってそういう魔術関連の店が多いっぽいね。あっちのも、あんまり読めないけど魔法なんとかって書いてる気がする」
「え、えっと………学長先生が仰るには昔この地区にはアカデミー工学科のサロンがあったとかでそれで……………ってそうじゃなくてえ!」
ヴェトム文字の学習を始めてから、まだ一日と少ししか経っていない。当然全ての文字が読めるわけではなく、形が単純で覚えやすい文字や、印象に残っている文字に限っては記憶を辿ってなんとか読むことができただけだった。
それでも、文字の学習を通じて少しずつこの世界の視野が広がっていくような感覚がした。
ヒロは重さに耐えかねてずり下がっていた買い物袋を胸元に抱え直し、帰路に着く足をほんのわずかに早めた。
* * *
「遅ーーーーーい!遅すぎるぞキミたち!この誉れ高き叡智の大魔術師をいつまで待たせる気だね!?」
研究室に帰ると、ディナのけたたましい喚き声が二人を出迎えた。
「ごめんなさあい。お買い物楽しくってつい………」
「楽しんでるんじゃあないッ!キミは道楽気分で買い出しに出かけたとでも言うのか!?キミの仕事はアルトニアが誇る大魔術師の給仕をすることだろうに!私はもうね、先ほどからずっとね、その、なんというか………………お腹がぺこぺこなのだよッ!」
「はあい、すぐお夕食作りますからねえ」
メイルゥが慣れた様子でディナのいちゃもんを受け流してキッチンに荷物を運んだので、ヒロもその後に続く。
荷物を運び終えたヒロが広間に戻ると、ダイニングテーブルに着いたディナがその頬を風船のように膨らませて、なにやらぶつぶつと愚痴をこぼしながら夕食が来るのを待ち構えていた。空腹で苛立っているのだろう。早く夕食を出せとまくしたてるように、その脚を宙でばたばたと振り回している。
メイルゥの話を聞いて、少しくらいは彼女への認識を改めてもいいのではないかと思っていた。しかし、目の前で空腹に駄々をこねるその珍妙な生き物の生態を眺めていると、その判断は早計すぎたのかもしれないと思った。
* * *
それからの日常が過ぎるのは早かった。
読み書きの練習から一日が始まり、ディナが度々自分の研究の合間を縫ってヒロの魔術を見る。そんな毎日が続いていた。
識字学習は、ひたすらノートに文字を書いてそれを読むというルーティンを繰り返すことから始まり、四日目になると大抵の文字はつっかえることなく読み書きできるようになり、簡単な文章なら意味を追える程度にはなっていた。子ども向けの本なら時間をかければ一人でも読み進めることができる。
字が分かるようになっても、それを綺麗に書けるかは別だ。書店で購入してもらった子ども向けのワークノートを使用したり、メイルゥと簡単な筆談を交えることで習字をする。一度ヒロの気まぐれでディナにも筆談を求めたことがあったが、乗り気でない上に彼女の書く字が初学者のヒロとそう変わりないほど稚拙だったため、すぐにやめた。
魔術の習得も順調だった。
こちらは実技面の課題なだけに、魔力の操作をいかに身体に染み付けるかが重要になっている。それでも、それをいかに言語化して自分の理屈として落とし込むかで道のりを短縮することは可能だった。
完璧とまでは言えないものの、それまで一割に満たなかった成功率は、五回に四回くらいにまで安定させることができていた。
ディナの指導はとても十分なものとは言えなかったが、それでも彼女の洗練された魔力操作の手本はヒロにとって良い教材となっていた。それにやはり彼女の大魔術師としての知識は確かなものなようで、大抵の質問には明確な答えが返ってくる。訓練の内容や方針を考えることは不得手なようだが、ヒロがその都度抱いた疑問を彼女に投げかけることによって、未熟ながらも最低限の指導としては成立していた。
そんな日々を送り、やがて試験の日を迎える。
「おはようございますヒロさん。昨日はよく眠れましたかあ?」
「おはよう。うんまあ。……………え」
受験当日のその朝、ヒロはいつもより少しだけ早く目が覚めた。
広間へ向かうと、既に身支度まで済ませて朝食を取っているディナの姿があった。普段なら早くてもヒロが起床してから一、二時間は経ってようやくのそのそと起き上がってくるだけに、ヒロは少し意外に思った。
「今日早くない?どうした?」
「たまたま早く起きただけだ。何か悪いかね」
ディナはヒロに目を向けることもなく、そう吐き捨てて黙々と食事を続けていた。
ヒロもいつものようにディナの向かいの席に座り、自分の分の朝食を大皿から取り分ける。
「だって、今日はヒロさんの試験当日ですもの。ヒロさんが行かれる前にお声がけしてさしあげないとですものねえ?」
「はあ?お声がけえ?そりゃあ確かに私は彼に魔術の指導をしてやったかもしれんがね、そんなのは人類の文明を牽引する大魔術師としての務めの一環なのであって?別に彼が試験に合格しようが滑って転ぼうが知ったことではないのだけどね」
「うん、別にいいよそんなの」
「……………なッ!なんだねキミは!誉れ高き叡智の大魔術師であるこの私が、折角激励の一つでもしてやろうと思っていたのにィ!」
「ディナ様あ、仰っていることが既にめちゃくちゃですう……」
「二人にはこの一週間で十分手伝ってもらった、ありがとう。必ず合格するとは言えないけど、やれるだけのことはやってくるよ」
「ふ、ふん。だから私はキミがどうなろうが知らんと言っておるだろう。せいぜい勝手に頑張りたまえ」
早々に朝食を済ませたヒロは、身支度を済ませ、食後のティータイムに差し掛かっていた広間の二人に向けて声をかけようとする。
「…………」
「ヒロさん?どうしました?」
「いや。……………いってきます」
少し気恥ずかしさのようなものを感じた。
「はい!頑張ってくださいねえ!」
「………せいぜい恥をかかんといいな」
二人を背に、ヒロは研究室を後にした。




