第4話:死体を「収納」できるんだ…あと、ピザはまだですか?
「大丈夫か?」
彼女が持ってる《《今朝見た拳銃》》を見て、俺はため息をついた。
彼女は俺の顔と、粉々になったクリスタルの灰皿と、廊下に転がる顔面陥没の死体を交互に見て、しばらく固まっていた。
「……あなた、何者?」
「いや、それはこっちが聞きたいんだけど。ピザ取りに出ただけなのに何なの、これ」
俺は本当にうんざりしていた。今日一日で何人殺したかもう覚えていない。指折り数えるのも馬鹿らしくなってきた。
彼女は腕から血を流しながらも、拳銃をこちらに向けたままだ。
プロだなと思う。バカだな、とも……。
撃たれた直後でもちゃんと警戒を切らさない。目つきも据わっていて、素人の反応ではない。
だが、助けてもらった相手に拳銃向けて、敵に回してどうするんだろうか?
「その男を、どうやって殺した?何も投げてないでしょう」
……見られてたか。まあそうだよな、目の前だし。誤魔化すにしても、もう少しマシな言い訳を用意しとくべきだったな。
「灰皿投げただけ。運が良かったんだねえ」
「灰皿で頭部が陥没するわけないでしょう」
正論すぎるなあ。
彼女の腕からは血が滴っている。治癒魔法を使ってやりたいところだが、あれは《《自分にだけ》》使える約束だったはずだ。
こっそり試してみたが案の定、何も起きない。
彼女は怪訝そうにこちらを見ながらも、銃口はまだ俺に向けたままだった。
「……本当に、何なの」
「とりあえず、外にまだいるんじゃないか?」
言っている間にも玄関側から物音がする。
「おい、拳銃は下ろしとけ。今の所は別に敵じゃないしな」
彼女は何か言いたそうにしたが、俺はもう玄関に向かって歩き出していた。
反射的に体が動いているのが自分でもわかる。
今朝までの俺なら、こんな真似はしなかったはずだよなあ。
ドアの外、廊下の角に二人。
銃口をこちらに向けている。見える範囲だ、問題ない。
俺は片方の肺に水を、もう片方の頭に土を出す。声も出さずに崩れ落ちる二人。
今日何度目だこれ。手慣れてきた自分が少し怖いな。
念のため階段とエレベーターホールも覗いてみるが、もう気配はないようだ。
三人で来て、これで全員らしい。
他の住人と鉢合わせしなかったのは幸いだったな。
部屋に戻ると、彼女はキッチンの陰から拳銃を構えたまま俺を見ていた。
……俺、もう銃向けるなって言ったはずだよな。
「外の二人は片付けたぞ、拳銃をおろせよ」
「片付けたって、簡単に言うけど……」
「簡単じゃないよ全然。今日はもう七人目だぞ、正直イラっとしてきたわ。……お前もいい加減にしとけよ、殺すぞ?あ?」
彼女は俺の言葉に絶句していたが、慌てて銃をしまう。
俺は倒れている男たちを見て、げんなりしながらも、廊下の死体もブルーシートに乗せて家に引き摺ってくる。
「うっ……なんでそんな死に方に…それって」
「あなた、警察じゃないの?」
「一般人。少なくとも《《今朝までは》》そうだったな」
彼女はますますわけがわからないという顔をした。
まあそうだろう。俺だってわけがわからんわ。
今朝、寝ていたはずが気づけばススキノに落とされて、気づけば人を七人殺している。
誰かに説明されても納得できる自信がない。
ブルーシートで包んだところで、ふと「収納とかできんかな」と思って、はみ出た脳とか収納してみたら出来たよ……。
死体ミキサーの苦痛は何だったんだよ、ふざけんなよ。
「……お礼を言うべきなんでしょうね。助けてもらったし」
「いらないから早く出てけよ」
「あなた、名前は」
「助けてやったら銃を向けるバカに教えるわけねえだろ」
彼女はしばらく黙っていたが、やがて小さく息を吐いた。
「私は陸上自衛隊情報保全隊、二等陸尉の――」
「いらん。聞かなかったし聞く気もないな」
朝のバカと同じ匂いがする単語だった。
これ以上首を突っ込みたくないわ。
せっかく手に入れた自由を、初日から棒に振るのはごめんだ。
「聞かなかったことにするって、あなた今日わたしを助けたのよ」
「助けたのと首突っ込むのは別問題だ。俺、平和に暮らしたいだけだから巻き込むなよ」
彼女は俺をまじまじと見て、それから倒れているブルーシートの塊に目をやり、また俺を見た。
「その割には、死体の量が」
「向こうが先に襲ってきたからな」
「面白い人ね。……とりあえず、助けてくれてありがとう」
「どういたしまして。それよりさっさと出て行けよ」
彼女は真顔に戻り、窓の外を確認してから言った。
「今夜はここに泊めてもらえる?隊に連絡取れる状態じゃないから」
俺は大理石のテーブルの傷を見て、それからブルーシートの塊を見て、深くため息をついた。せっかく買った家具が、今日だけでもう傷物と死体運搬用に成り下がっている。
「……もういいか面倒くさい」
「何?」
「どんな理由でここに来て、あいつらに襲われたか言え」
彼女は少し考えてから頷いた。
「わかった。……でもその前に、あなたの方も説明してもらうから」
「……お前、勘違いしてねえか、取引できる立場か?おい」
俺は少量の水を、気配を感じて拳銃を抜こうとした女の肺に出して、咳き込んでる間に拳銃を取り上げる。
後ろ手に縛ってからガムテープで巻いておく。
窓の外はもうすっかり夜になっていて、ススキノのネオンが遠くにちらついているのが見えた。
呑気にピザでも食って飲みにでも行こうと思っていたはずの一日は、こうしてとんでもない方向に転がっていった。
「……ピザ、まだ来てないなあ」
俺のつぶやきに、彼女は身をよじらせて返事をした。




