第3話:俺の自由と新居と、届いたピザではなく訳あり美女
「えーと、ちょっといいかな?」
俺は20代位の若い男の背中をさすってやる。
少し落ち着いた男は、落ち着きなく周りを見た。
「ダメだよ、余計なこと考えちゃ。次はああなるよ?」
周りには目を見開いて泡を吹いてこと切れている男に、肺をかきむしりながら死んでる男、それに顔面が陥没し首が不自然に折れた男の死体が転がっている。
俺は面倒なのでハッキリと聞く。
「俺は襲われる覚えがないんだが、何故襲ってきたんだ?」
男は何を言ってるんだと言う顔だ。
「いや、貴様たちがテロを……」
「……テロだって?全く知らんな。何の話だ?」
「しかし、あそこのコンビニであの時刻に、灰皿の吸い殻使って連絡事項を伝えたろうが!燃やして証拠隠滅して消したろう!」
「いや、あそこでタバコ吸っていて、なんか灰皿燻ってたから水かけただけなんだけどさ……?」
男はまだ食い下がる。
「貴様ら、陸自内にシンパ作って武器を流させたろうが!あいつらは確保済みだ、大人しく返せば反乱罪にはせんぞ?」
うん、コイツはバカなんだな。
陸自のトップ、いや、内閣だって軽く吹っ飛ぶような話を、ペラペラと。バカなのかね……。
しかし困ったなあ、いきなり初手で映画みたいなトラブルかよ。暫くはススキノ拠点に遊んで回るつもりだったのにな。
……コイツ殺して逃げちゃうか?
まあ、そんなわけにもいかんよな。
とりあえず魔法で殺した死体はどうにかしたい。
俺の手の内がバレるのは嫌すぎる。
うーん、せめて魔法で出した水や土って消せないのかな。
試しに念じてみると、口から出てた水や、眼から出てた泥が消えたよ。
どうやら魔法で作ったものは消えるらしい。
こりゃいいや、証拠残らないなら、ますます使いやすい。
男は余裕が出たのか、さっきからうるさい。
「貴様、必ず仇を取る」だの「反逆罪で裁いてやる」だの。
俺が《《生かしてやってる》》事を忘れているのだろう。
「貴様、この先自由に出来ると思うなよ」
……ああ、そうかコイツは、田荘奏介の前世と、この世界に存在してないという孤独と引き換えにして、それでも手に入れた自由を奪うと言うのか。
ならばお前が死ねばいい。
俺は男の心臓にコップ一杯の水を出す。
男は目を剥き、痙攣をして動かなくなった。
明らかにおかしいよなあ……。
俺、人殺してここまで冷静じゃ居られないと思うんだ。
あの『謎の光』が俺に何かしたのか?
……最初は異世界行きって言ってたし、よくある異世界なら血なまぐさいんだろうから、それに合わせて精神を調整とか?
うーん、これが無きゃヤバかったろうから良しとしとくか。
俺は、とりあえず身元わからないように、水魔法と土魔法を混ぜ、風魔法で回転させたものを死体の体内に出して、それで死体の中をかき混ぜる。
骨も筋肉もミキサーにかけられたようになり、それが人型の皮袋に詰まっているのだ。
目や耳や口など、穴と言う穴から酷い匂いのゼリー状の《《ナニカ》》がはみ出ている。
4人分終えた時には、吐き気が酷かったが、置いてあったブルーシートをかけてその場を後にした。
「あー、酷い目に遭った……」
そう言いながらも、あの後ユニクロで服や靴を一式そろえ、銀行で200万おろしてみる。
一日の限度額も残高も関係なく引き出せることも確認し、クレジットカードで設定されている電子マネーも使えた。
「じゃあまずは住むところを決めるか」
俺は中央区の不動産屋に向かう。
この辺りの不動産屋は、風俗や反社等の訳ありの人間には慣れていて、家賃支払いさえきちんとしてれば、うるさいこと言わない物件は、じつは沢山あるのだ。
「ここでいいかあ」
2DKの19階、ススキノにも中島公園にも近いマンション。
すぐに入れるそうなので、敷金礼金に前家賃を払う。
相場より高いが、いくらでも金は出てくるので何の問題も無い。
その足で電化製品、家具や寝具を買いに出た。
電化製品は金に飽かせて最新のものばかり揃え、憧れの大理石テーブルにイタリア製のソファに、昔の俺では買えないベッドだ。
うん、ちゃんとした家具って200万じゃ全然足りないのね……。
夕方、荷物が届く前に区役所へ向かう。
この世界に存在がない俺は、戸籍がないはずだ。
だがATMでわかる様に都合よくデータが改ざんされるなら、転入届出したら普通に住民票出てくるのではないのだろうか?
「田所さん、こちら新しい住民票になりますね」
そう言って渡されたのは借りたマンションが新住所で、書き込んでいた旧住所は知らない住所に変わっていた。
ゴーグルマップを検索すると、消滅集落の住所だった。
財布の免許証も旧住所で、裏面には裏書で現住所があった。
「……これひょっとして、名前変えてもいけるのかな」
別な区役所でやってみると、
「山田奏介」で住民票と戸籍ができたのだ。
ただし、免許やカードは新たに作らなくてはいけないようだ。
とりあえずいくつか口座を作り、金を振り込んでおく。
さらに携帯も二つの名義で持つ。
「うん、これならなんかあっても外国に逃げられそうだな」
俺は新しく届いたソファーで伸びをする。
「しっかし、いきなりバイオレンスだったけど結局アイツらは何がしたかったんだろう? あんなバカな奴らが、しかもいきなり街で発砲ってテロ並みにヤバいだろうに」
俺は、朝の陸自の連中を思い出し独りごちる。
あれが一般市民に当たってたらどうするつもりだったのか。
そもそも俺自身が一般市民で、誤認で撃たれてるのだからどうしようもない。
陸将どころか大臣、いや内閣案件である。
自衛隊の事は良く知らないが、自衛隊自体が想定してるのは『敵軍』であるから、調査には向かないだろうとは思う。
小説やドラマだと、こういう時は警務隊とか内調とかじゃないのかな、などと暢気に思っていた俺。
そのときドアのチャイムが鳴る。
「はいはーい、来た来た」
俺はピザを受け取りに玄関を開けたと同時に銃声が響く。
そこには腕を撃たれて奥に向けて拳銃を構えた、綺麗なお姉さんがチャイムにぶつかっていた。
「隠れなさい!」
俺はとっさにお姉さんを引きずり込み玄関ドアを閉める。
ドアの外に誰かがいる気配を感じる。
彼女が俺を庇おうとするが、逆に抱えて大理石のテーブルを倒して、彼女を陰に入れて覆いかぶさって防ぐ。
すぐに銃弾が撃ち込まれた。
……大理石テーブル憧れだったのに。
一回も使わないうちに傷物にしやがって……、許さんぞ。
外から撃ち込みながら敵が入ってくる。
ドアの外の敵に向けて、彼女が銃を腕だけ出して撃つ。
怯んだ隙に、クリスタルの灰皿を全力で投げつける。
灰皿は囮で、土魔法で作ったピンポン玉大の石を、顔面5センチからぶつけてやる。
ゴキイイン!
静止して倒れていく男は顔面が陥没して倒れて動かない。
俺は魔法を解除して石を消しておく。
「大丈夫か?」
彼女の《《今朝見た拳銃》》を見ながら、俺はため息をついた。
*新作が本日投稿です
『妹と死んで異世界に転生したら、妹が200歳のエルフのお姉ちゃんになっていた ~交換チートで、二度目の命を使い切る~』
本日20時より投稿です!初回は一挙3話掲載です!




