第2話:まずは検証からするのが大人の基本
うん。今日のススキノはいい天気だな。
俺は、その恰好でそこにいるのは当たり前みたいな顔で、軽やかに歩き出した。
人間、一瞬興味を惹かれても、相手が動き出した後まで、まじまじと見ることなどそうそうない。
ススキノの喧騒から一本入った小路のビルにあるコンビニ。
俺はトイレに入り、財布をチェックすると二万と少し。
最近はほとんど現金を持ち歩かないのだが、たまたま、週末に送別会の予定あるので、珍しく下ろしていたのだ。
とりあえず飯食って服くらいは何とかできそうだな。
キャッシュカードやクレジットカードも入っているが、名前もそのままで変わりないように見える。免許も住所がそのままだ。
トイレで考えていても仕方ないのでATMで金を下ろしてみる。
……金を下ろせたら、とりあえず何とかなるんだけどな。
でも、あの光が言うには、ここは俺がいない世界のはず。
なのにカード類はそのままとはどういう事だろうか?
思い切ってカードを入れる。
普通に入ったので残高を恐る恐る確認すると、
「#$%#$%#$%」
……見た事も無い表示だが、金を下ろせはするようだ。
俺は100,000と入れてみる。
『バババババ、ウィーン』
と、ATMの稼働音がやたらと煩く聞こえる。
普通に出たな。残高はそのまま「#$%」か……。
これ、どういう事だろう?
例のデータ改ざんチートのおかげか……。
すると金に困ることはなさそうだが、色々と検証が要るな。
俺は、コーヒーと何年も吸ってなかったタバコとライターを買って店を出る。店舗の敷地内の隅にある灰皿に向かい、タバコの箱を開けて久しぶりの煙を吸いこむ。
タバコを吸って缶コーヒーを飲んで空を見あげる。
金はある。カードも身分証明書もある。生きるには困らんな。
いま、俺は自由だ。
果てしない自由、この世界では誰も俺を知らない自由だ。
昔から自由を求めていたはずなのに、なってみると怖い。
ここはススキノで、周りにはたくさんの人たちがいる。
なのにそこで俺は孤独だ。
俺と言う存在を、この世で誰も知らないという孤独なのだ。
……などと気取ったが、実はワクワクが止まらないんだよな。
さっきのATMが、チートの影響で、あんな表示なら、貰った魔法も使えるはずだろ?
俺は早速、燻っていた店舗の灰皿に水を出す。
通りがかりの女の子の髪に、そよ風を吹かせてみる。
水魔法は燻っていた灰皿の火を消し、煙は消えた。
風魔法は、まだ夏の名残がある初秋の通りを歩いていた女の子の髪を素敵に揺らし、彼女は友達と楽しそうに笑っている。
ああ、魔法使える。
俺は思わず、ぐっと拳を握った。
俺の使えるのは派手な魔法じゃないけど、べつにこの世界で暴れまわる気も無いしそれでいいのだ。
異世界で、冒険者とかならともかく、地球でファイヤーボールだのウォーターアローだのウィンドカッターだの、いったいどこで、どう使う気なんだろうかと思うんだよね。
魔法使って捕まる法律は無いけど、どう見ても人殺してるんだから、警察や政府もいつまでも野放しにしないだろうしな。
それにいくら強力な魔法だって、撃ちだしている以上はいつかは躱せるし、防げるようになるだろ。
ファイアボールが時速200キロだと至近距離なら躱すの難しくても、30メートルも離れりゃ、なんとか躱せる。
それに、遮蔽物や戦車の装甲なら防ぐだろうしな。
それに比べ、俺の魔法は防げないんじゃないかな?
ファイアボールやウォーターアローなんか通じない戦車や、速く動き躱せる敵でも、俺には通じないのだ。
見える範囲なら、相手の体内に水だしたり、戦車の中に火や土出して風でかき回せるから、躱しも防ぎもできないだろ。
問題あるとすれば、特に敵なんかいないという事だな。
そもそも、普通に生きてたら、命狙う敵がいる訳がないのだ。
……と思っていた頃が俺にもありましたわ。
コンビニから出て、ススキノのビルを抜けて歩いてると、後ろからいきなり足に弾かれたような衝撃と、火箸が刺さったような熱さが襲ってきて俺は倒れた。
痛さと、何が起こったと言う混乱で俺は叫び声を上げる。
すると、後ろから来た連中が俺を拘束しようとしてきた。
暴れると何か金属の塊で殴られた。どうやら銃らしい。
ここまで来るとむしろ落ち着いてきた。
俺は相手を殺そうとかは全く思わず、とにかく見えてる敵の肺にコップ一杯の水を出す。
相手は突然咳き込み溺れる。俺はその間に足に治癒魔法を使う。
再び銃を向けてくる男の頭にむけ、土魔法を使った。
とにかく頭蓋内に一握りの土を出したら、痙攣しながら倒すことができたが、さらに前方から二人迫ってきた。
前方から来た二人組の一人の肺に少量の水を入れ、もう一人の股間を蹴り上げる。
そいつは格闘技の経験があるのか、まだ動きの悪い足での股間蹴りを防いだが、その間に両襟をつかんだ俺は、思いっきり顔面に頭突きをいれてから、そのまま通路の奥に引きずって行き、地下への階段に突き落とす。
落ちた拍子に首が変な格好に曲がってたが、構わずに肺に水入れられて溺れてる男と、頭に土を入れられて痙攣してる男も放り投げ、まだせき込む男と一緒に階段へ。
ここならば、夜までは地下の店は開かないので、入ってくる人間もいないから多少の時間は取れるはずだ。
俺は拾った拳銃を見る。
SIG SAUER P220だな……だけどなんかおかしい。
スライドを見てみると桜にWの刻印。
……おい、ライトなミリオタの俺でも知ってるぞ。
「嘘だろ?陸上自衛隊かよ……なんで?」
今になって人を殺した実感が出てきて少し震えた。
でも意外と平気だな、吐き気も闇落ちもないし。
いきなり死んだって言われて、ここに転移してきて考える暇もなく撃たれてだからなあ。
「そんなもんお前らが悪いだろ」
って感じはしてるんだよなあ、自業自得っていうかさ。
それか、人殺す適性あるのかね、……イヤだなあ。
……とりあえずコイツから色々聞きますか。
*明日から、投稿時間を12時に変更いたします。
もう1作品の新作
『妹と死んで異世界に転生したら、妹が200歳のエルフのお姉ちゃんになっていた ~交換チートで、二度目の命を使い切る~』
を投稿するので、それぞれ8時、12時、20時の投稿時間で行きたいと思います。勝手ですがよろしくお願いいたします




