第1話:謎の光
試される大地で会社員をしている田荘奏介は突然そこに《《落ちた》》。
トラックに轢かれたわけでもなく、誰かを助けて死んだわけでもなく、普通に寝ていて《《落ちた》》。
寝ている時に、落ちていくような感覚に襲われることがあると思うが、俺もそれだと思って「おー、落ちてるなあ」と暢気にしていたのだが、いつまでも落下が止まらないんだよね。
「いや、さすがにおかしいわ」とベッドから起きた時にも、俺はベッドごと《《何かの空間》》を落ちていく。
周りは空気のようにサラッとはしていなくて、水のような液体でもなく、感じたことのない感覚が皮膚を撫でてきた。
普通パニックになるのだが、「…漫画によくある白い部屋行きか?」とか考えてるんだよね。
俺は昔、心筋梗塞で死にかけたことがあるが、その時に似ているかな。
発作で動けない中で、「血圧みて!」とか聞きながら、他人事の様に(ドラマみたいだな!)とか思ったよね。
後に親や友人にその話をしたら「お前暢気だなあ」と言われたが、人間どうにもならない時ってそんなもんなのよ。
なんて、ベッドに座って考えてると、落ちるのが止まる。
そしてぼんやりとしながらも、見ようとするとまぶしくて見えない謎の光が近づいてきて……。
「君を《《落とした》》が、システムによるバグで本来はまだ生きる予定だった。それについて補償と賠償で異世界への転生を考えているが希望はあるか?」
とその光は言った。
……なるほど、これで簡単に「異世界に行きたいです!」とか言うやつが、異世界転移や転生するんだろな。
でも、獣人やらエルフに興味あったって、どんな場所かもわからんのは嫌だし、普通に令和の日本が良いわ。
ちょっと聞いてみるか。
「すいません、希望を述べる前に、お聞きしたい事がいくつかあるのですが、質問してもよろしいですか?」
「当然だ。なんでも聞くがいい」
(わざわざ希望聞くって事は、こっちの考えわかったりもしないんだな、こりゃ上司がいてバレたくないパターンかね…)
「まず、元に戻していただくと言うのは?」
「それは出来ない。すでに君が無くなった時間軸で動いている」
「では、『私が存在しない世界線』で同じ時間軸だと?」
「……君をそこに出すことはできるが、あまり干渉できないので戸籍などはこちらで用意などは出来ない。また君だけが居ないと言うのではなく、いないことで変化してる世界線だが」
「…なるほど、戸籍は無いと困るので、例えば賠償でチート頂けたりすれば、自分で何とかしますけど、いかかでしょう」
「特典?賠償で転移なのではないか?」
「それは『補償』であって『賠償』は別な話では? 別な世界線に放り出して終わりではあまりにも……であれば、このまま死なせていただいても構いませんが」
謎の光は沈黙して反応がない。
経験上こういう時はクライアントは、もうYESに傾いていて、自分が決断するためのきっかけが欲しいのだ。
俺は決心させるべく、さらに畳みかけてみる。
「神のような、世界を変える権能が欲しい訳ではないんですよ。戸籍作るために、コンピューターのデータを自由に弄れるとか、『せっかくだから魔法使いたい』程度なんですよね」
謎の光は沈黙している。
「どうしましょう?私の意思関係ないなら仕方無いですけど、私の希望はその辺りですね。無理ですか?」
「それは難しい。君がいく世界線には魔法がない中で、そこまでのチート与えるわけにはいかない」
「…凄い魔法とかじゃなく、コップ1杯くらいの水飛ばして喜んだり、ライター代わりに使ったり、身体強化って奴くらいなんですよ。出せる範囲も見えるくらいでいいですしね。ただ、コンピューターのデータを改変できる能力だけは、無いと戸籍を作れないのでお願いします」
謎の光が言う。
「……本当に大きな魔法は使えんぞ?」
「はい、もちろんですよ。水魔法はコップ一杯くらい、風はドライヤーのターボくらいで、土魔法もコップ一杯くらいの土と、石はそれを圧縮したくらいまで、火魔法も草焼き機くらいで、雷とかクリーンとかは自分で頑張る、治癒魔法と身体強化は自分にだけで、魔法出せるのは『見える範囲』で。あと、コンピューター内のデータの改ざんは出来る、と」
「…結構多いが、まあその位なら良いだろう」
渋々と言った感じで謎の光は了承した。
そこで、上手く行けば儲けものだと思い言ってみる。
「あと私ってどうなります?」
「なんの話だ?」
「若がえりは無しですかね。細マッチョで寿命伸びたり?」
「…どうなりたいんだ」
「うーん、中身は18歳で細マッチョにしてください。でも見た目は30過ぎ位が良いですかね」
「わかった、流石にもう希望は聞かんぞ」
「はい、以後は変更はないという『契約』で良いですか?」
「ああ、約束だ」
顔色は見えないのに、光はげんなりしてる気がする。
次の瞬間、『何か逆らえないもの』によって、契約が成されたのが魂で分かった。
「確認ですけど、魔法出せるのは『見える範囲』ですよね?」
「?…そうだが、それがどうしたのだ?」
「いや、『《《撃ちだした魔法の射程》》』ってことじゃなく、『《《魔法出せる射程》》』だと、遠くで水出したりね…」
「お前、さては私をだま――」
唐突に光は消えた。
消えたと言うか、消されて消滅していたようだが、大丈夫なのか……。
気が付いた俺は寝る時に着ていたルームウェアに、ベランダ用のクロックス、そして左手には財布を握っている。
そして俺は、明らかにススキノだと思われる雑踏の中に立っていたのだ。
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