第29話:奏介の告白と、前世の役立たず
俺達は、室蘭の街に入る前に封鎖線の前にある、国道36号線のイタンキトンネルの上から街を眺めていた。
街は、かなり上手に封鎖されているなあ。
この辺りは半島の根元だからな、太平洋と室蘭港が2キロ半程度しか離れてないんだ。
元々ある建物の間を上手く車両などで隙間を埋めて、後はコンテナやバスで仲町に向けて36号線に沿って封鎖してあるわ。
これなら知能が無いゾンビは、入ってくることはないだろう。
小雪が山頂から封鎖線を見回して言った。
「上手く地形を使っているわね」
「うん。しかも封鎖線の中に製鉄所や発電所もあって、総合病院は二件、そして港まである。冗談みたいな街だよなあ」
「虎杖浜みたいに温泉あったら最高なのにね!」
「お前は暢気だな…」
ランクルに乗り、トンネルを抜けて封鎖線に近づいていくと、警察や自衛隊の制服を着た人間が、バスを利用した検問所に詰めている。そのうちの一人の警官がバスの窓から聞いてきた。
「札幌からの避難民かな?」
と聞いてくるが、声に歓迎の雰囲気は無かった。
「避難民というか、実家がこっちでな」
「どこだ?」
「みゆき町。イタンキから観光道路抜けたいんだよ」
警官は頷いてバスを動かすように言う。
バスが移動すると道が開き、封鎖線の中に入った。
「すまんな。元々室蘭の人間なら知ってると思うけど、ここで封鎖したから、中島や高砂とかの人間が結構こっちに逃げてきるんだよ。住む住宅も足りないし、食料も配給だから、ただでさえもめ事多いのに、他の街から『室蘭が良い』って噂で沢山避難民が来てなぁ」
うわあ…
そりゃこれくらい検問もガチガチにもなるわなあ
「俺達は良いのかい?」
「ああ、ここに住民票あったり、親族いるなら入れてるんだよ。配給は実家に配給証あるはずだから、申請してくれ」
そう言って警官は積んであった段ボールから、カロリーバーや水などを三日分ほど俺達全員にくれた。
「……いいのかい?」
「ああ、それは追い返す避難民にも渡してるんだよ。アンタらも、配給証に3日以内に申請しなきゃその後は食料無いから、気をつけてな。ヤミで食料もあるらしいがバカ高いってよ」
「こっちに家が無きゃ、封鎖線の向こう住んでも良いのかな?」
「……やめとけ。ゾンビは玄関すら開けられないんだからどうでもいいけどな、危ないのは人間だ。正直、この封鎖線も今じゃゾンビじゃなく、人間防ぐためになってる」
ここでもかよ。
俺もクズだって意識はあるけど、人間って本当にクズだなあ。
そういや、俺ってゾンビは片手も殺して無いけど、殺してきたのってほとんどが人間なんだよ思ったわ。
いつの間にか俺ってシリアルキラーになってたんだなあ。
「了解、なるべく安全なところに行くさ、ありがとさん」
そして俺達は検問をあとにして、イタンキの第二駐車場に入り、ランクルから海を見ながらどうするかを決めることにした。
……まさかなあ、こんなことになってるとはな。
俺は中学時代から何一つ変わらない太平洋と、クジラのように見える、『クジラ半島』を見ながら缶コーヒーを啜る。
「やー、海が綺麗ですねえ。すぐそこが中学校って羨ましい」
夏子は能天気だね。
なんとなく沈んでた気分が軽くなっていく。
「でも、キチンと封鎖もされてて、中の『処理』も終わってるなら、やはりここは、条件が凄く良いですね」
うん、そうなんだけどねぇ
「実家が気になりますか?」
そう。あるのよすぐそこに、実家。
「あれですか、親と仲悪いとか?奏介さん、思春期ですか!w」
「……そんな理由ではないんだよ、夏子、小雪」
俺は二人の方を向いて、思い切って言ってみる。
「これから話すことは誰にも言ったことがない。言うつもりも無かった。だけど、故郷なのに誰も俺を知らないってのが、とても寂しくて怖くてさ。お前達に聞いてほしいんだ」
二人は顔を見合わせて頷く。
「ここは『俺が居ない』世界で、俺を知ってる人間はいない。俺は、『俺だけが居ない世界』に転移してきた人間なんだよ」
二人はじっと俺の事を見ている。
俺も二人を見返していると、二人が抱き着いてきた。
「あ、あれ?ど、どうした?そんな場面?!」
抱き着いたまま小雪が言う。
「何か隠してるんだろうとは思ってたんですが……誰も自分を知る人がいないって、自由だけど寂しいですよね」
同じく抱き着いてる夏子は笑う。
「今はアタシが奏介さんを知ってるじゃないですか。小雪さんも、春も。もうここは『奏介さんがいる』世界です!」
「そうですね。こんなに良い女二人も連れて旅をしてるくせに、自分の居場所がないと思ってるなら蹴とばしてあげます」
……俺は気がついたら声を上げて泣いていた。
「でも、よく『異世界から来た』なんて信じてくれたな?」
「だって、あんな変な事してたしねえ?小雪さん。」
「ええ。あの『収納魔法』はびっくりしたわ。『時間停止』は出来るのかしら?『生物』はどうなのかしら?」
「……ひょっとして小雪ってイケる口だった?」
俺は、なぜ転移することになったのかを説明していたんだが、女性陣は、途中で俺が見せた水魔法や土魔法に気を取られて、何も聞いてなかったよ。
魔法にすげえ興奮していた、特に小雪が。
実はウェブ小説が好きらしく、この状況も実は「ラノベみたい」と思ってて、『収納』の事も実は聞きたくてしょうがなかったらしいわ。俺の手を持って水魔法出して喜んでるのは可愛いな。
「という訳で、実家が気になるのは確かなんだが、向こうからしたら、全然知らない三十路のオッサンだしどうしたもんかとな」
「逆に、向こうは奏介さんの事分らない訳じゃないですか、実家の前まで様子だけ見に行けばいいんじゃないですかね?」
「私もそう思うわ。行きましょう奏介さ…奏介」
うん。そうだな、気になるし行ってみよう。
小雪が、俺を急に呼び捨てにし始めた方が気になるが。
なんか微妙に距離も近いし、オジサン勘違いしちゃうよ?
観光道路と呼ばれる高台の道から、昔から変わらない製鉄所の建屋が見える。その奥には室蘭港。
俺が子供の頃から、毎日見てきた景色だ。
懐かしさと、なのに誰も自分を知らない寂寥感を感じる。
高台から実家前の道を下っていく。
誰かが家の前で掃除をしてる。
五年前に死んだオフクロだ。早く結婚して子供見せろと煩かったが俺をいつも気にかけてくれていたオフクロ。
目が合わないように前を見て通り過ぎる。
その時、実家から子供を連れた女性とおっさんが出てきて、こちらをみた。姉貴と親父だわ。向こうでは夫婦二人で子供がいなかったのに、ここでは女の子を連れていて幸せそうで良かった。
坂を下りて、神社の駐車場に車を停める。
俺は、幸せそうな三人を見てホッとしていた。
「どうだった、奏介?」
小雪が聞いて来た。
「ああ、五年前に死んだお袋は生きててくれた。姉貴もあっちじゃ居なかった娘連れて、親父も良いジイサンになってたよ」
そのとき夏子が、顎に指をあてて天井を見ながら言った。
「あれ?奏介さんいない世界だとお母さんは心臓大丈夫で、お姉さんも結婚早くて娘さん出来てる、つまりあっちでは…ムグッ」
夏子は小雪に口を押さえられてる。
……あれ?
そう言われると、ひょっとしてお袋って俺が心労かけて死んで、姉貴も俺がフラフラして心配で結婚遅れたのか?
俺ってごくつぶしだったのか?
「奏介、大丈夫!こっちじゃ何もしてないもの!」
小雪、フォローありがとう。
でもそれじゃ、あっちじゃ俺のせいだって事でフォローになって無いんだよ……
俺はこっちの実家は、二度と行かなくても良いと思ったのだ。




