26話:想いとキス、そして旅立ち
残って半グレを狩るという、春に残す物を用意する。
まず四十フィートのコンテナを二本、裏山に埋めるつもりだ。
ユンボがあるからきっと穴掘りは楽なもんだ、頂いてきた甲斐があった、そう思ってた事もありました。
「土って収納できないの?」と夏子に言われて、収納して、土魔法で固めたら、普通にコンテナ置いても余る空間が出来たよ…
まあいいわ、入り口に壊れたトラック置いて隠蔽する。
入るときはフォークリフトやチェーンブロックで動かせばいい。
入れてあるコンテナの一本目が武器。
拳銃五十丁。M4を五十丁。MP5も十丁ばかり。弾薬を統一したいから、M2はやめてM249軽機関銃だけにした。これは三丁であとは予備の銃身、部品、工具。マニュアルは全部日本語に訳して突っ込んである。
弾薬はコンテナの殆どを占めてるな。あとグレネードと手榴弾もたっぷりと。クレイモアも入れた。ロマンだからな。
「……多くないですか」
春が引いてたわ。
といわれてもなあ、米軍基地から根こそぎ持ってきたから、ほんの一部なんだよ。無くなったらまたパクってくりゃ良いしな。
「多くないだろ」
「多いです」
「銃なんて消耗品だぞ。撃てば減るし、壊れるし、取り上げられることもある。あと、人が増えたらそいつらにも要るからな」
「人、増えますかね」
「知らん。増えるかもしれんだろ」
そう答えといた。まあ、増えるんじゃないかね。あんたが残るって決めたんだから。
二本目が消耗品。
タイヤ、バッテリー、ベルト類など、外で保管したくないもの
正直、こっちの方が大事だわ。銃はいざとなりゃ奪えばいいけど、タイヤは奪えないからな。
工具、灯油、発電機、オイルは工場内で良いだろ。
毛布や衣類に食料は、工場の奥に部屋を作って、そこに入れた。
鉄板で囲って、扉も鉄。内側から閂が下りる。壁の中に監視カメラのモニターを仕込んで、外の様子が見えるようにした。カメラは前に買い込んだやつがまだ大量に余ってたからな。
「これ、何ですか」
「セーフルーム。何かあったらここに籠れ。水も引いてあるし、飯もある」
「すごい……」
「なまら作るの楽しかったわ」
本音である。
三日くらい寝るの忘れてた。籠るだけじゃなく、銃眼から反撃できるように工夫したのよ。誰か俺を褒めてくれ。
「コンテナは、必要になったら開けろ。全部いっぺんに出すなよ。バレたら終わりだからな」
「はい」
「あとガソリンはとりあえず外のプレハブにドラム缶で入れてあるけど、あんまり多いと危ないからな。この奥に潰れた廃坑あったろ?あそこに別に入れてあるから、二年や三年は持つだろ」
「ここも好きに使え。湧水も下水も生きてる。防音もそこそこあるから、中で撃っても外に響きにくい、あと奥の定山渓には温泉もあるし、風呂も入れるだろ」
「……いいんですか」
「俺、もう戻らんし」
そう言ったら、春がちょっと黙った。
* * *
で、一月。
朝起きたら、外が完全に埋まってた。
降って積もって、また降って、もう地面がどこにあるか分からんわ。北海道の一月ってのはこれだから困る。
工場の前に、車が二台。俺のランクルと、春のランクル。どっちも同じような顔してる。俺が作ったんだから当たり前か。
積み込みは前の晩に終わってる。
除雪しないと道に出れないほどじゃない。
小雪が助手席で暖気をかけている。北海道の冬にこれをサボると碌なことにならんのよ。特にこういうキャブ車はな。
夏子は後部座席で、荷物の位置を直してる。もう旅の顔だ。
春が、雪の上に立っている。
装備は完全装備だ。防寒着の下にプレートキャリア、腰にグロック、車にM4。
二ヶ月前、マットレスの上で膝を抱えてた子と同じ人間には見えん。
「じゃあ、いくよ。死ぬなよ、春」
夏子が車から降りてきて、拳を出した。
「うん。夏子も」
春が拳を合わせる。
それから小雪が、春の前に立った。
「一人でも、落ち着いてやれば大丈夫。手順通りにやりなさい。焦った時だけ死ぬから」
「はい」
小雪が手を差し出して、春がそれを握った。
……この二人、なんか通じ合ってるんだよな。
一緒に街に出てた時間があるからか。教えた側と教わった側ってだけじゃない何かがあるわ。
で、春がこっちを向いた。
「奏介さん」
「あー」
俺は頭を掻いた。
「俺、こういうの苦手なんだけど」
「知ってます」
「……そう」
まあ、言うだけ言っとくか。
「俺は決めてるんだよ。『死ぬなら自分で決めて死ぬ』ってな」
春が、じっと俺を見てる。
「だから、春がこの武器でバカども殺して死ぬもよし。他にやりたいことができて、そっちに命懸けたいならそれでいいのよ」
夏子と小雪の方も見て、言っといた。
「自分で決めたことで死んだ方が、納得いくと思うんだわ」
しばらく、誰も何も言わなかった。
それから春が、「はい!」って大きい声で返事をして、いきなり飛びついてきた。
うおっ。
抱きつかれた。しかも力強い。
「自分で決めて死んでやります」
耳元で、泣きながら言うんだよな。
「もう他人に、私の人生決めさせません」
……ああ、そうか。
そりゃ、そうだよな。この子、家族殺されて、ここで尊厳奪われて、ずっと決められる側にいたんだから。
何か言ってやろうと思って、口を開きかけた。
その瞬間に、柔らかいものを押し付けられた。
「――んぐっ」
いや。いやいやいや。
唇。唇だわ。完全に唇。
泣きながら、押し付けるみたいに。
春が離れて、俺の顔を見て、笑った。
「じゃあ、さようなら。奏介さん」
――踵を返した。
そのまま、振り返らずに自分の車の方へ歩いていく。
歩きながら、腰のホルスターを確かめてるのが見えた。マガジンポーチも。プレートキャリアのベルトも。
……そうか。
あの子、このまま行くつもりだな。狩りに。
「ヒュー」
夏子が口笛みたいな声を出した。茶化しやがって。
助手席の方から気配がしたので見たら、小雪が見てた。
無表情だわ。完全に無表情。
でも、眉が一瞬ぴくっと動いたのは見たぞ、俺。
「……何でしょう」
「別に」
別にじゃないだろ。
「早く乗って。エンジンかけてるんだから」
「へいへい」
* * *
ランクルに乗り込んで、ギアを入れる。
雪を踏む音がして、車が動き出した。
バックミラーは見ないようにした。
窓の外は真っ白で、道も畑も山も、全部同じ色になってる。
「……唇だったわね」
小雪がぽつりと言った。
「言うなよ」
「言ってないわ。事実を確認しただけよ」
事実を確認するな。
「えー、なになに、何の話?」
後ろから夏子が身を乗り出してくる。見てただろお前。
「何でもない」
「見てましたけど」
「見てただろ!」
車内で笑い声が起きた。
……まあ、こういうのも悪くないか。
一人で走るつもりだったんだけどな。気づいたら二人乗ってるわ。
国道に出る。標識が「函館」の方角を指してる。
雪道は滑るから、あんまり飛ばせない。ゆっくり行くわ。急ぐ旅でもないしな。




