第22話:助け合いましょう、って言う奴が一番助けてない
二棟目が届いた翌日だ。
朝から柏木たちが設置で騒がしくて、俺は外で眺めてた。
ユニックのオペレーターが手際よくてな、こういうの見てるの好きなんだよ。
で、それが終わったくらいの時間に、車が入ってきた。
軽自動車と、ワンボックス。
二台。
……誰だ?
降りてきたのは、二日前に彼氏の所へ送っていった女の子だった。
「奏介さーん!」
手を振りながら駆け寄ってくる。元気そうだわ。
「お、無事だったか」
「はい! あの、実は――」
女の子の後ろから、男が降りてくる。
彼氏だな。あの時アパートの前で警戒してた奴。
で、その後ろから。
ぞろぞろと。
……一、二、三、四、五。
五人。
男が三人、女が二人。全員若い。
「あの、友達なんですけど、みんな行く所なくて」
……あー。
なるほどね。
「だから、ここなら大丈夫かなって」
大丈夫かなって。
いや、聞けよ。先に。
* * *
その日のうちに、空気が変わったのが分かったわ。
いや、俺は割と我慢したんだよ。これでも。
行き場が無いってのは本当なんだろうし、追い返したところで行く先もない。
それに二棟目が届いたばっかりで、部屋も一応ある。
だから、まあ、いいかと思った。
思ったんだけどな。
夕方、飯の配分で揉めてるのが聞こえてきた。
「え、これだけ?」
「人数増えたので、一人分は減ります」
「いやいや、備蓄あるでしょここ。ケチらなくてもよくない?」
……おい。
柏木が説明してるわ。
物流がいつ止まるか分からないこと。冬を越す前提で計算してること。今ある分を何日で割ってるか。
「でもさ、今食えないと意味なくない?」
「……」
柏木が黙った。この人、店では説明で人を動かせてたんだろうけど、そもそも聞く気が無い相手には効かないんだよな。
翌日は当番の話で揉めてた。
「これ、全員やるんですか」
「はい、順番で」
「いや、俺ら来たばっかりだし、まだ慣れてないんで」
慣れるも何も、水汲みに慣れが要るかよ。
その次の日は、こう来た。
「ここ、まだ土地余ってますよね」
新規組の男の一人が、柏木に言ってるのが聞こえた。
「もっと人入れられるでしょ。街で困ってる奴いっぱいいるんだから、助け合うべきじゃないですか」
……助け合うべき。
出たわ。
こいつら、来て三日目で、もう「べき」を言い出したぞ。
しかもな。
助け合いましょうって言う奴に限って、一番助けてないんだよ。
当番サボってんのお前だろ。さっきから見てんだよこっちは。
* * *
柏木は間に入ろうとしてたよ。
夜、俺のところに来て頭を下げてきた。
「申し訳ありません。こちらで抑えます」
「いや、あんたのせいじゃないだろ」
「ただ、あの、彼らは……私の話を、あまり」
分かってるよ。
柏木のこと、管理人か世話係か何かだと思ってんだろ、あいつら。
店のスタッフだったなんて知らないし、知ったところで敬う理由もない。
「まあ、そのうち出てくだろ。冬になる前に街の方が便利だって気づくわ」
そう言っといた。
本気でそう思ってたわけじゃないけどな。
* * *
で、五日目だ。
朝、飯食ってたら、江別の子が俺のところに来た。
ここんとこ、毎日一緒に避難所を回ってる子な。
まだ親は見つかってない。四箇所回って、全部空振りだわ。
「奏介さん、あの」
「ん?」
その顔を見た瞬間に、なんか嫌な予感がしたんだよな。
後ろに、新規組の何人かが立ってる。
見守るような顔で。応援するような顔で。
あ。
こいつら、焚きつけたな?
「奏介さん、強いんですよね」
「……まあ、多少はな」
「だったら、私の親、助けに行ってもらえませんか」
――ああ。
言っちゃったか。
「探しに行くんじゃなくて?」
「はい。だって、もし見つかっても、その、避難所じゃない所にいたら、危ないかもしれないし。
奏介さんなら、大丈夫ですよね」
「奏介さんなら大丈夫」
いい響きだな。
自分は何もしないのに、俺が動く前提で組み立てられてる。
後ろの連中が頷いてるわ。
「そうだよ」「行ってあげればいいじゃん」って顔で。
……あのさ。
「お前、俺と何日一緒に避難所回ったっけ」
「え?」
「四日だろ。四日、俺、お前と一緒に回ってるんだわ」
「は、はい」
「それは俺がやりたいからやってる。お前の親が心配だからじゃない。
お前が一人で探し回ったら死ぬだろうから、車出してるだけだ」
「……はい」
「で、今度は『強いから助けに行け』な?」
声が低くなってるのが自分でも分かったわ。
「俺が強いから、俺が行くべきだと」
「そ、そういうわけじゃ」
「そういうわけだろ」
後ろの連中が、なんか言いかけた。
「いや、そんな怒鳴らなくても」
「困ってる子なんだから」
――は?
「お前らさ」
振り返る。
「助け合うべきとか言ってたよな。だったらお前らが行けば?」
「いや、俺らは……」
「強くないから? 危ないから?」
誰も答えないわ。
「じゃあ何で人には言えるんだよ」
――で、ここでキレたら終わりなんだよな。
分かってる。分かってるんだよ。
手が出そうになったところで、腕を掴まれた。
「奏介さん」
レイナだった。
「お願い。落ち着いて」
その後ろに柏木もいる。青い顔で、俺と新規組の間に入ってきた。
「私が話します。奏介さん、どうか」
……あー。
こういう時に止めに入ってくれる人がいるってのは、ありがたいのかね。
それとも、止められた分だけ後に残るのかね。
俺は息を吐いて、その場を離れた。
* * *
夜。
拠点の外れまで歩いて、木にもたれて座り込む。
空は相変わらず馬鹿みたいに星が出てるわ。
山ん中だから当たり前なんだけどな。
……なんでこうなったんだろうな。
レイナと陽菜を助けたかっただけなんだよ、最初は。
そこに美咲とゆらが乗っかって、店の連中が乗っかって、今度は見たこともない連中が乗っかってる。
一回受けたら次が来る。
分かってたはずなんだよ、俺、自分で言ってたじゃん。
言ってたのに、断らなかったんだよな。
タバコに火をつける。
拠点の方を見ると、コンテナハウスの窓に灯りがついてる。
人の声が聞こえる。誰かが笑ってる。
いい景色だわ。
本当に、いい景色なんだよ。
俺がいなくても成立する景色なんだよな、これ。
「……あーあ」
煙を吐く。
前世で四十年生きて、一回死んで、異世界断って、ようやく手に入れた自由だぞ。
誰も俺を知らない代わりに、誰にも文句言われない場所。
それが今、当番表が貼ってあって、飯の量で揉めてて、「べき」を言う奴がいる。
まあ、まだ耐えられるわ。
柏木がいるし、レイナがいるし、陽菜とゆらもいる。
……まだな。
俺はタバコを地面で揉み消して、立ち上がった。
明日、狩りにでも行くか。
山に入って、何か獲ってくればいい。
ちょっと、一人になりたいわ。




