↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ゾンビパンデミックですが、人間の方が面倒です』 ~敵はゾンビじゃなく人間でした~  作者: だい
人のためじゃなく自分が気持ちよく生きる…

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/49

第21話:気づいたら、俺んちに当番表が貼ってあった

拠点に着いたのは、もう夜中だ。


車三台から人がぞろぞろ降りてきて、コンテナハウスの前で固まってる。

レイナが飛び出してきて、柏木と抱き合って泣いてるのが見えた。


「柏木さん! 良かった、みんな……!」


うん、そこは俺の出番じゃないな。

少し離れたところでタバコ吸っとくわ。


問題はそのあとだよ。


コンテナハウス一棟に十三人。

……どう考えても入らんだろ。


とりあえず物置から毛布を出して、床に敷き詰めてもらう。

米軍のが役に立ったわ。あの時の俺、えらい。


子供二人は美咲が見てくれてる。

女の子たちは疲れ切ってて、毛布敷いた側から倒れ込んでたね。

まあ、そりゃそうだよな。


俺はコンテナハウスの外の段差に座って、スマホを開く。

とりあえず、二棟目買うかぁ。


サイトを開いて、前に見たやつの在庫を確認する。

あ、こっちの方が断熱いいな。値段は上がるけど、冬考えたらこっちか。

窓は北向きに付けない方がいいよな。あと、水回りの位置が――


「あの、奏介さん?」


レイナに呼ばれて、顔を上げる。


「え、何」

「いえ、さっきから動かないから、寝てるのかと」


……あれ。


時計見たら、四十分経ってた。

俺、何してた?


間取り見比べてたわ。しかも二棟目の配置まで考えてた。一棟目との距離とか、動線とか、除雪した雪をどこに積むかとか。


いや待て。

俺、なんで住宅街作ってんの?


ここ、山ん中に物置一個置いてあるだけの土地だったんだぞ。

誰か迷い込んでも「ああ、空き地か」で終わる場所だったんだよ。


「……なんでもないわ」


スマホをポケットに突っ込んだ。

嘘だけどな。発注はもう押したあとなんだよ。



* * *



翌朝、目が覚めたら飯の匂いがした。


外に出ると、女の子の一人がカセットコンロで何か作ってる。

黒服の若い方が、井戸から水を汲んでポリタンクに移してる。

柏木がその横で、ノートに何か書いてる。


……なんだこれ。


「おはようございます、奏介さん」


柏木が頭を下げてきた。


「勝手に色々始めてしまって申し訳ありません。ただ、人数が人数なので、決めておかないと回らないかと思いまして」


ノートを見せてくる。


飯当番。水汲み当番。トイレの掃除当番。

名前がずらっと並んでる。俺の名前だけ無いわ。


「奏介さんは入れておりません。ここは奏介さんの土地ですので」


……あー。


なるほどね。


この人、こういうのが仕事だったんだな。

店で女の子とスタッフ回してたんだから、そりゃ得意だわ。


「別に俺も入れていいけど」

「いえ。その代わり、決め事はすべて事前にご相談します」


律儀だなあ。


正直、この距離感は悪くないと思った。

向こうは「使わせてもらってる」って顔をしてるし、こっちは「勝手にやってくれ」で済む。


十三人いても、話す相手が一人で済むならだいぶ楽なんだよな。



* * *



そこから数日は、思ったより穏やかだった。


飯は回ってる。水も回ってる。

トイレは足りてないけど、そこは二棟目が来れば解決するはずだわ。


子供二人は完全に拠点に馴染んでて、ゆらが陽菜の面倒を見てる。

五歳が三歳の世話してる図って、なんかこう、微笑ましいを通り越して感心するね。


女の子たちも、最初の二日はずっと寝てたけど、三日目くらいから普通に喋るようになった。

コンビニのバイト的なノリで当番やってるわ。若いって強いね。


黒服二人は力仕事担当で、薪割りやら何やらをやってる。

片方が「これ、けっこう楽しいっすね」とか言い出した時は笑ったわ。分かるよ、斧って楽しいもんな。


で、俺はというと。


特にやることが無いんだよ。


飯は作ってもらえる。水も汲んでもらえる。掃除もしてもらえる。

そりゃ楽なんだけど、なんかこう、落ち着かないんだわ。


ふらっと工場に行って、銃をバラして組んで、また戻る。

そんな数日だった。



* * *



江別の子の親探しは、三日目から動き出した。


避難所ってのが市内にいくつもあってな。

市のサイトに一覧が出てるんだけど、更新が追いついてなくて、行ってみたら閉鎖されてるとかザラだわ。


「すみません、何度も付き合ってもらって」


助手席で、江別の子が縮こまってる。


「別にいいって。俺も街の様子見たかったし」


嘘ではないんだよな。

拠点に籠ってると、外がどうなってるか分からんくなるから。


で、外はというと、まあ、じわじわ悪くなってるわ。

避難所は人で溢れてて、体育館の床にびっしり毛布が敷いてある。

入口に「これ以上の受け入れはできません」って紙が貼ってあった。


物資の配給の列が長い。

並んでる連中の顔つきが、初日に比べて悪くなってるわ。


「あの、すみません。江別から来た――」


江別の子が受付の人に聞いてるけど、名簿を見せてもらっても載ってない。

三箇所回って、三箇所とも空振りだった。


「……いないですね」


「まだ全部回ったわけじゃないだろ。また明日な」


そう言っといた。

正直、あんまり期待はしてないんだよ。三日連絡が取れないってのは、そういうことだと思うし。


でも、それを言う必要はないよな。

本人が一番分かってるだろうし。


帰り道、車の中で江別の子がぽつりと言った。


「奏介さん、なんでこんなに親切にしてくれるんですか」


「親切?」


「はい」


……親切ねえ。


「俺がやりたいからやってるだけよ。やりたくなくなったらやめるわ」


「それって、親切って言いません?」


「言わんだろ。親切ってのは、やりたくなくてもやるやつのことだわ」


女の子が、ちょっと笑った。

数日ぶりに笑ったな、この子。


まあ、それくらいならいいか。



* * *



その日の夜、二棟目のコンテナハウスが届く連絡が来た。


来週だってさ。

思ったより早いわ。まだ物流が生きてるうちに頼んどいて正解だったな。

柏木に伝えたら、すごく喜んでた。


「助かります。トイレが二つになるだけで、だいぶ違いますので」


「まあ、朝の行列が酷いもんな」


「ええ、あれは……ええ」


言葉を濁すの、面白いなこの人。

ノートを閉じながら、柏木が言った。


「奏介さん。あの、こんなこと言うのもなんですが」


「ん?」


「ここ、居心地がいいです。みんなそう言ってます」


……あー。

なんて返せばいいんだ、それ。


「そりゃ良かったわ」


それしか出てこなかった。

悪い気はしないんだよ。しないんだけどな。


コンテナハウスの窓から灯りが漏れてて、中から女の子たちの笑い声が聞こえてくる。

子供の声もする。飯の匂いもまだ残ってる。


山ん中に、物置が一個あるだけの土地だったんだけどな。


……まあ、いいか。


そう思って、俺は空を見上げた。

星が馬鹿みたいに出てるわ。北海道の山ってこれだから困る。


穏やかだった。

この時はな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。