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第八部 昭和の冒険家、兄

子どもの頃、私には少し……いえ、かなり無鉄砲な兄がいました。


危険な遊びが大好きで、思い返せば「よく無事だったな」と思うことばかり。


今回は、そんな兄に振り回され続けた、忘れられない思い出です。

兄は、小さい頃から危険な遊びが大好きだった。

何を隠そう、弟の頭に斧を振り下ろし、寸止めに失敗して血まみれにさせたあの兄である。


そんな兄は、ある日私たちを「忍者ごっこ」へと誘った。

もちろん、仕切りたがりの兄がリーダーだ。

「飛べ!」

兄の威勢の良い号令で、私たちは家の屋根から隣の屋根へと飛び移る。

「伏せ!」

「次、飛べ!」

今度は屋根から軒下へと飛び降り、さらに、

「飛べ!」

と言われるがまま、細い軒先から今度は庭の地面へとジャンプ。

着地した瞬間、

ズーン……!

と、足の裏にものすごい鈍い痛みが走った。

今思えば、一歩間違えれば大怪我では済まない、とんでもない命がけの遊びだった。


兄の破天荒な伝説はそれだけにとどまらなかった。

ある日には、近所の人が慌てた様子で家に知らせに走ってきた。

「お兄ちゃんが木から落ちたよ!」

また別の日には、兄は全身を泥まみれにし、ボロボロになった自転車を押しながらトボトボと帰ってきた。どうしたのかと聞けば、自転車ごと川へ豪快に転落したらしい。


そんな大怪我や大失敗をやらかしても、子どもの頃の兄は、次の日にはけろりとした顔でまた外へ飛び出して元気に遊んでいた。


そして、兄が十八歳になってついに車の免許を取った時のことだ。

「海に連れてってやる!」

兄はそう言って胸を張り、私は助手席に乗り込んで海までのドライブに胸をワクワクさせていた。


ところが、だいぶ車を走らせた頃だった。前から走ってきた車とぶつかりそうになり、兄は慌てて急ハンドルを切った!

しかし避け損ねてそのまま歩道へと乗り上げ、車体は斜めに傾いた状態でストップ。

結局、海へたどり着くことはできなかった。


さらに、兄がバイクの免許を取ったときのことだ。

ある日、私をバイクの後ろに乗せて走っていたら、不意に横から車が飛び出してきて、そのまま衝突してしまった。


気がつくと、私はぶつかったバイクから何メートルも離れた遠いところまで、勢いよく吹き飛ばされていた。

すると兄は、慌ててバイクを起こして押しながら、私のもとへ駆け寄ってきた。そして、

「逃げるぞ。親に言うなよ。」

と小声で言った。


私は飛ばされた衝撃であちこちが痛む体を必死に抑えながら、びっこを引き、兄はバイクを押しながら、トボトボと家まで歩いて帰った。


今考えてみれば、どう考えても相手の車が飛び出してきたのだから悪かったはずなのに、なぜあの時ふたりして逃げるように帰ってきたのだろう。

あの事故のことは、私は父と母が死ぬまで一言も言わなかった。


今になって思う。

兄は、ただスリルと危険な遊びが好きだったのだろうか。

それとも、怖いもの知らずの生粋の冒険家だっただけなのだろうか。

大人になっても相変わらずハラハラさせられてばかりだったけれど、あの無鉄砲でたくましかった兄の背中もまた、私の昭和の思い出の中で大きく鮮やかに走り続けている。

今振り返れば、「よく生きていたな」と思うような出来事ばかりでした。


当時は危ないとも思わず、兄の後ろをついて走り回っていた私も、今では信じられません。


それでも、そんな無鉄砲な兄がいたからこそ、普通では味わえない思い出をたくさんもらいました。


昭和という時代は、危険も多かったけれど、その分だけ毎日が冒険でした。


今でも思い出すたびに笑ってしまう兄の武勇伝は、私にとってかけがえのない宝物です。

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