第四十八部 父と四国一周した話
父が車の免許を取ったばかりの頃、突然「四国を一周するぞ」と言い出した。
泊まるところも決めていない、まさに行き当たりばったりの旅行。
今思えば、よく免許取り立ての父の運転で四国一周なんてしたものだと思う。
そんな我が家の、ちょっとおかしな夏休みの思い出です。
カーナビも、スマホのホテル検索アプリもなかった時代。
父が車の免許を取ったばかりの、ある夏休みのことだった。
突然、父が言い出した。
「車で四国を一周するぞ」
私と母と弟は、免許を取ったばかりの父の運転で、3泊4日の四国旅行へ出かけることになった。
大分の臼杵まで行き、そこからフェリーに乗って愛媛県の八幡浜へ。
当時の愛媛県の国道は、今とは違って山道のように細く、免許を取ったばかりの父の運転で走るのが、子ども心にもものすごく怖かったのを覚えている。
しかも、父の旅行は突然決まったので、泊まるところなど何も決めていない。
夜になってからホテルを探していると、母が指を差した。
「お父さん、ホテルがあるよ」
「ホントだ」
私たちは喜んだ。
ところが、父はなぜか怒った。
「あんなホテルに泊まられるわけがなか!」
私は、
「あんなにホテルの看板が光っているのに、なんで泊まれないんだろう?」
と。
「ホテル○○」と書かれたビルの屋上のネオンが遠ざかっていくのが、名残惜しくて、不思議で仕方がなかった。
父の焦りなど、当時の私たちは知る由もなかった。
でも、大人になった今なら分かる。
「あれ、多分ラブホテルだったんだろう」
それにしても、なぜ父は看板を見ただけでラブホテルだと分かったのだろう。
今になって、ちょっと気になる。
結局、空いている民宿などを探しながら旅を続け、父が行きたかった桂浜、はりまや橋、足摺岬、金比羅さんなどを観光して回った。
途中で泊まった民宿では、そこのご夫婦がなぜか私を気に入ってくれた。
そして、冗談で、
「このまま、ここに置いて行ってください」
と言った。
私はどう思ったのか覚えていないが、母は冗談とは受け取らなかったらしい。
真面目な顔で断っていた。
免許を取ったばかりの父の、行き当たりばったりの四国一周。
今思えば、よく無事に帰ってこられたものだと思う。
今でも忘れられないのが、あのホテル。
子どもの頃は、なぜ父が「泊まられるわけがなか!」と怒ったのか、本当に不思議だった。
大人になった今なら、たぶん理由は分かる。
でも……
父は、どうして一目で分かったんだろう?




