第四十七部 私の初恋を返して!
中学生の頃、私は兄の友達が大好きだった。
ギターを教えてもらったり、バイクの後ろに乗せてもらったり……。
今思えば、ほんの短い時間だったけれど、あの頃の私には、それだけで胸がいっぱいになるような出来事だった。
何十年も経ったある日、そんな初恋の人と、思いがけない場所で再会する。
ところが…
初恋は、思い出の中にそっとしまっておくものなのかもしれない。
私には兄が2人いた。
1人は、以前登場した、あの兄。
そして今回初登場するもう1人の兄は、私より2歳上だった。
真面目で勉強もできる優等生。
近所の子どもたちが毎日のように外で遊んでいても、仲間に入ることはなく、どこか大人しい、影の薄い兄だった。
ところが、高校生になった頃の兄は、なかなか可愛い顔をしていた。
でも、今日の主役は兄ではない。
私が中学生の頃、兄は高校生だった。
兄の友達が、ときどき我が家に遊びに来ていた。
その中に、私が大好きな人がいた。
その人が遊びに来ると、私は用事もないのに兄の部屋へ入り浸った。
一緒にトランプをしたり、ギターをお小遣いで買って、その人に教えてもらったり。
その人と一緒にいられるだけで、私は嬉しかった。
ある日、いつものようにみんなで遊んでいると、その人が買い物に出かけると言った。
そして私に、
「一緒に行く?」
と声をかけてくれた。
もちろん私は、
「うん!」
と即答。
兄のバイクの後ろではなく、その人のバイクの後ろに乗せてもらった。
たったそれだけの時間だったけれど、子どもの私には宝物だった。
そんなある日、兄の高校で文化祭があった。
兄の友達が出場すると聞いて、私は友達と一緒に見に行った。
体育館には大勢の人が集まっていた。
そして、兄の友達のバンドが紹介されると、
体育館中が歓声に包まれた。
「すごーい! 人気があるんだ!」
ステージに出てきた瞬間、
「キャーーーッ!」
女の子たちの黄色い声が飛び交う。
「モテるんだ…」
私はビックリした。
別の日、私は友達と街へ買い物に出かけていた。
すると、兄の高校の人たちが何人か集まっているのを見つけた。
その中に、あの人がいた。
私を見つけると、向こうから駆け寄ってきて話しかけてくれた。
私は嬉しかった。
ところが。
周りにいた女子高生たちから、ものすごい目で睨まれた。
「えっ……」
私は怖くなって、そそくさとその場を離れた。
やがて兄たちは高校を卒業し、それぞれ進学して家を離れていった。
あの人とも、会わなくなった。
そして、10年余りが経ったある日。
街で突然、
「久しぶり!」
と声をかけられた。
振り向くと――
そこには、子どもを連れた見知らぬおじさんが立っていた。
「誰?」
あの頃、大好きだった兄の友達だった。
「会わなきゃよかった……」
心の中で、そうつぶやいた。
あの頃の私の中では、キラキラ輝いていた初恋の人。
なのに、目の前にいるのは子どもを連れたおじさん。
私の初恋を返してーーー!
初恋って、不思議なものだ。
何十年経っても、その人を好きだった頃の自分まで一緒に思い出す。
だからこそ、できれば再会しないほうがよかった人もいる。
思い出の中では、いつまでもキラキラしたままでいてほしい。




