第四十六部 昔は、知らない人まで親切だった
昔は、今では考えられないような親切を、知らない人から受けることがあった。
今思い返しても、「あの時代って、そんなに人が親切だったの?」と思ってしまう。
今回は、そんな昔の出来事をいくつか思い出してみた。
私が福岡で働いていた頃のこと。
今よりずっと景気が良く、世の中全体に活気があった時代だった。
ある日、よその会社の人たちが飲みに行くというので、誘われて友達と一緒について行った。
行き先は中洲。
夜の中洲は昼間のように明るく、人であふれかえっていた。
まるで、毎晩がお祭りのようだった。
その中で一番偉い人だったと思う人が、帰り際に私たちにまでケーキを買ってくれた。
今思えば、ずいぶん気前のいい人だった。
次の日の朝早く、友達から慌てた声で電話がかかってきた。
「昨日、中洲で給料袋を落とした!」
「えーっ‼︎」
私たちは慌てて、二人で中洲まで探しに行った。
朝早い中洲は、昨日の夜とはあまりにも違っていた。
あれほど人であふれ、華やかだった街が、朝になるとすっかり静まり返っている。
道端には昨夜のゴミが転がり、なんだかひっそりと寂れた場所に見えた。
二人で探し回ったけれど、給料袋は見つからない。
そこで中洲の交番へ行ってみると――
なんと、給料袋が届けられていた。
中身も、そのまま。
「よかったー!」
二人で大喜びして帰った。
誰が拾って届けてくれたのかは、結局分からなかった。
でも、落とした人のことを思って、ちゃんと届けてくれた人がいた。
また、ある時のこと。
「明日は応援に行ってくれ」
そう言われ、私は朝早く家を出た。
ところが、初めて行く場所だったので、道に迷ってしまった。
困り果てて、道を歩いていたサラリーマン風のおじさんに道を尋ねた。
すると、おじさんは、
「これでタクシーで行きなさい」
と言って、なんとお札を渡してくれた。
見知らぬ、ジーンズにTシャツ姿の女の子に、タクシー代を渡してくれるなんて。
今では、とても考えられない。
また、違う日のこと。
東京にいる友達の家へ遊びに行くことになった。
アパートから少し歩いて、大きな通りでタクシーを拾うつもりだった。
ところが、なかなかつかまらない。
その時、以前に姉がヒッチハイクをした時の話を思い出した。
「そうだ、やってみよう!」
私はトラックに向かって、手を上げてみた。
すると――
止まった!
どこまで行くのか聞かれたので、
「空港までです」
と答えると、なんと本当に空港まで送ってくれた。
見ず知らずの女の子を、トラックの運転手さんが空港まで送ってくれたのだ。
今思えば、ずいぶん大胆なことをしたものだと思う。
そんなことができる時代だったのかもしれない。
あの頃は、景気が良かっただけではなく、人の心にも今より余裕があったのだろう。
よその会社の人に誘われて飲みに行った私たちに、ケーキを買ってくれた人。
落とした給料袋を、中身までそのまま届けてくれた人。
困っていた私に、タクシー代を渡してくれた見知らぬおじさん。
そして、空港まで送ってくれた親切なトラックの運転手さん。
みんな、名前も知らない人ばかりなのに、今でもなぜか忘れられない。
人の心も、今より豊かな時代だったのかもしれない。
そんなことを、今になってしみじみ思う。
今思えば、ずいぶん大胆なこともしていた。
でも、あの頃は、知らない人から親切にしてもらうことが、今より多かった気がする。
名前も知らない人たちの親切を、今でも忘れられない。
そんな時代だったんだなぁ〜と、今になってしみじみ思う。




