第三十九部 こんな刑事は誰もおらん!
刑事ドラマを見るたびに、父が決まって言っていた言葉がある。
「こんな刑事は、だーれもおらん!」
当時は、何をそんなに怒っているのか分からなかった。
でも、何年か後になって、私はその意味を知ることになる。
兄が高校生の頃だったと思う。
当時、夜中に暴走族が走るのを見に行くのが、ちょっとした流行になっていたのだと思う。
ある日の夜中、突然、家の電話が鳴った。
電話に出た父と母が、何か叫びながら慌てて家を飛び出していった。
私は、何があったのか分からないまま、嫌な胸騒ぎがして眠れなかった。
しばらくすると、父と母が兄と3人で帰ってきた。
私は2階から階段を駆け下り、
「どうしたと?」
と聞いた。
すると、兄が夜中に暴走族を見に行き、帰りにバイクを押して歩いていたところ、警察官に暴走族と間違えられ、そのまま連れて行かれたらしい。
どうやら、父と母は兄を迎えに行っていたようだった。
父は、かなり腹を立てていた。
そして、それからというもの、刑事ドラマを見るたびに、
「こんか刑事は、だーれもおらん!」
と言うのが口癖になった。
テレビに出てくる刑事は、カッコよくて細身で、しかもどこか優しい。
父に言わせれば、
「実際の刑事は、こんなんじゃなか!
刑事はヤクザみたいやった!」
ということらしい。
そんなことを言われても、私は実際の刑事を見たことがなかったので、いまひとつピンとこなかった。
それから何年か経った頃。
私がアルバイトをしていたお店に、スーツ姿のガタイのいい男性が二人、入ってきた。
二人とも、いかにも強そうな顔をしている。
正直、入ってきた瞬間、
「ヤクザ……?」
と思った。
すると、その二人は警察手帳を出して、
「この人たちを見たことないか?」
と、写真を見せて尋ねてきた。
刑事だった。
その瞬間、私は思った。
「お父さんが言ってたのは、これか!」
テレビの中の、細身でカッコよくて優しそうな刑事とは、ずいぶん違っていた。
父の言葉が、何年も経って、ようやく理解できた瞬間だった。
今思えば、父にとって刑事は「テレビの中のカッコいい刑事」とは、まったく別物だったらしい。
何年も経ってから、その意味を実感した私も、
「お父さん、これのことやったんやね!」
と、思わず笑ってしまった。




