第三十六部 兄ちゃん、その言い方はないやろ
子どもの頃の思い出って、何十年経っても忘れられないものがある。
今回は、祖父が亡くなった悲しい日の思い出。
なぜか一番鮮明に覚えているのは、兄のあまりにもストレートすぎる一言だった。
中学1年生の授業中だった。
突然、教室の前の扉がガラガラッと乱暴に開いた。
兄がいきなり入ってきた。
みんなが何事かと一斉に前を向く。
兄はデリカシーのかけらもない大きな声で一言。
「爺さんが死んだ。帰るぞ。」
教室中の視線が、一斉に私に集まった。
もちろん、おじいちゃんが亡くなったのは悲しかった。
でも、その時の私は、それ以上に、
「兄ちゃん! みんなの前で、その言い方はないやろ!」
と、恥ずかしくて恥ずかしくて、顔から火が出る思いだった。
せめて、
「祖父が亡くなったので、迎えに来ました。」
くらい、少しは格好をつけて言えなかったものだろうか。
そんな気恥ずかしさとショックを抱えながら、私は慌てて荷物をまとめ、兄と一緒に家へと急いだ。
それからは、お通夜、お葬式と大人たちの慌ただしい動きに巻き込まれ、結局あの時、兄に文句を言うタイミングはとうとう来なかった。
あれから何十年。
今になっても、祖父が亡くなった時の寂しさと一緒に、あの日の教室に響いた兄の雑すぎる一言だけは、いまだに忘れられない。
そんな思い出のすべてが、今ではどうしようもなく愛おしい、私の大切な昭和の1ページだ。
悲しい思い出の中にも、なぜか笑ってしまう場面がある。
あの日は本当に恥ずかしかったけれど、何十年経った今では、兄らしいなぁと思う。




