第三十三部 人には見せない優しさ
思春期の男の子って、素直じゃないですよね。
「興味ない」と言いながら、本当は気になっていることもあるものです。
そんな弟の、人には見せたくなかった優しさを見つけた日の思い出です。
姉がお産のために里帰りをしてきた。
やがて陣痛が始まり、無事に可愛い女の子が生まれたと連絡が入った。
父と一緒に病院へ行くと、病室には元気そうな姉と、小さくて可愛い赤ちゃんがいた。
その姿を見て、私は心からほっとした。
退院して数日後のこと。
弟は思春期真っ只中だった。
「抱っこしてみたら?」
と勧めても、
「いい。」
と素っ気ない返事をするだけで、赤ちゃんのそばにも寄ろうとしなかった。
だから私は、弟は赤ちゃんに興味がないものだと思っていた。
ある日、赤ちゃんはリビングの隣の部屋で気持ちよさそうに眠っていた。
家族は弟を除いて全員リビングにいた。
私は「赤ちゃん、見てこよう」と隣の部屋へ向かった。
そして部屋に入った瞬間――
「えっ!!」
赤ちゃんがいない。
思わず叫びそうになって振り返ると、部屋の隅で壁にぴったり張りつくように小さくなり、赤ちゃんを大事そうに抱っこしている弟がいた。
私は慌ててリビングへ駆け戻り、
「ねぇちゃん! ねぇちゃん! 弟が抱っこしとる!!」
と大声で叫んだ。
家族みんなが一斉に部屋へ駆け込む。
そこには、見つかってしまった子どものように気まずそうな顔をしながら、それでも赤ちゃんをしっかり抱っこしている弟が座っていた。
私は、それよりも不思議なことがあった。
家族全員がリビングにいたのに、一体いつ、どうやって誰にも気付かれず忍び込んだんだろう。
人には見られたくなかったのか、誰もいない隙を見て、こっそり赤ちゃんを抱っこしていた弟。
見つかった時の、あの照れくさそうで気まずそうな顔は、今でも忘れられない。
あの時、私は人には見せない弟の優しさを見つけた気がした。
今では笑い話ですが、あの時の弟は本当に照れくさかったのでしょう。
人前では知らん顔をしていても、誰も見ていないところで、そっと赤ちゃんを抱っこしていた姿は、今でも忘れられません。
思春期の弟が見せた、ほんの少しだけ不器用な優しさでした。




